白血病などの血液がんは、かつては「治らない病気」と考えられていました。しかし、造血幹細胞移植をはじめとする治療法の進歩により、現在では完治を目指せるケースも増えています。
その一方で、ドナーからの造血幹細胞移植の後に、「
慢性移植片対宿主病
(慢性GVHD)
」と呼ばれる合併症を発症し、長く苦しむ方がいることは、まだ広く知られていません。慢性GVHDは、全身にさまざまな症状を引き起こし、患者さんの生活に大きな影響を及ぼします。
これまで有効な治療選択肢が限られてきた慢性GVHDに対し、Meiji Seika ファルマは新たな治療薬の開発・販売に取り組んでいます。血液がん領域の課題解決に挑む担当者たちの思いを聞きました。
今井 直子
Meiji Seika ファルマ株式会社
オンコロジー領域部 マーケティング企画グループ長
松平 崇
Meiji Seika ファルマ株式会社
メディカルアフェアーズ部 オンコロジーグループ
大槻 真子
Meiji Seika ファルマ株式会社
研究開発アセットマネジメント部
移植で血液がんが治っても、合併症に苦しむ方がいる
白血病をはじめとする血液がんは、血液をつくる細胞に異常が起こり、がん細胞が増殖する病気です。子どもから大人まで、幅広い年齢層で発症します。
血液がんは、がん細胞が血液を介して全身に広がるため、手術ではなく、抗がん剤治療や放射線療法が中心となります。これらの治療で十分な効果が得られない場合、健康な造血幹細胞を本人またはドナーから移植する「造血幹細胞移植」が選択されます。
造血幹細胞移植は、患者さんにとって「最後の砦」ともいえる大きな希望を託した治療法です。しかし、ドナーから移植する場合は、病気の治癒が期待できる一方で、移植後には感染症をはじめ、さまざまな合併症が起こる可能性があります。
その代表的なものが、「慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)」です。ドナー由来の免疫細胞が患者さんの体を異物と認識し、攻撃してしまうことで発症する難治性の病気で、皮膚や口・眼、肺、消化器、関節・筋・骨など、全身に多様な症状が現れます。症状は長期に及ぶことも多く、生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。
一次治療としてステロイド薬が用いられますが、効果が十分に得られない患者さんも少なくありません。医療が進歩した現在でも、慢性GVHDには確立された標準治療が限られているのが現状です。
血液がんという大きな病を乗り越えた後も、慢性GVHDによって日常生活に支障をきたし、悩み続ける方がいる――。そうした現実があるのです。
慢性GVHDに苦しむ患者さんに、治療薬を届けたい
抗菌薬をはじめとする感染症領域の医薬品に強みを持つMeiji Seika ファルマは、感染症対策が重要となる血液がん領域とも、長年にわたり深く関わってきました。
長年、血液がん領域の治療薬の製造・販売に携わるなかで、慢性GVHDに苦しむ患者さんの姿や、有効な治療法を切望する医療現場の声に触れたことが、慢性GVHD治療薬への取り組みの原点だったと、開発担当の松平は振り返ります。
「慢性GVHDのような希少疾患は、どうしても注目されにくい側面があります。しかし、目の前で困っている患者さんや医療従事者がいるのであれば、何とか力になりたいという思いがありました。ちょうどその頃、海外ではすでに新しい治療薬が使われ始めており、日本の医師からも期待の声が高まっていました」
医療現場のニーズの高さを受け、私たちはこの新しい慢性GVHD治療薬を日本で開発・販売するために挑戦しようと決意しました。(松平)
従来にない治療薬の導入は、決して平坦な道のりではありませんでした。開発担当の大槻は、社内の連携が大きな力になったと語ります。
「治験を進めるなかで、医師や患者さんから寄せられた期待の言葉が、私たちの原動力でした。少しでも早く患者さんに治療薬を届けたいという思いを、開発、製造、営業などのメンバー全員が共有し、一丸となって取り組みました」
患者さんが日常を取り戻せるようサポート
営業担当の今井には、忘れられない患者さんの言葉があると話します。
「つらい移植治療を乗り越えた後も、何年にもわたって慢性GVHDに苦しんでいたその方は、ご自身の闘病を『短距離走だと思って移植を決断したのに、どんどんゴールが遠ざかり、いつ終わるのかわからない長距離走を走っているようだ』と表現されていました。その言葉から、慢性GVHDが患者さんの人生に与える深刻な影響を、改めて実感しました」
2024年3月、慢性GVHDの新たな治療薬の製造販売承認を取得し、2024年5月に販売をスタート。一次治療のステロイド薬で効果が得られない場合の、二次治療の選択肢として使われています。現在は、医療現場を通じて、患者さんの前向きな変化を耳にする機会も増えてきたと言います。
「『学校に通えるようになった』という学生さんや、『仕事に復帰できた』という社会人の方の話を聞きます」
外出が難しかった方が、『映画館で好きな映画を観られた』と喜ばれていたと知ったとき、製薬メーカーとして大きなやりがいを感じました。(今井)
患者さんが、よりよい日常を、よりスムーズに取り戻すことができるよう、2024年からはなどを通して、造血幹細胞移植や慢性GVHDの啓発活動にも注力しています。
「学校や職場に復帰する際には、周囲の理解がとても重要です。慢性GVHDがどんな病気で、患者さんがどのような状態にあるのかを知ってもらうことが、支えにつながります。一方で、病気を意識せずに接してほしいと考える方もいます。そうした多様な思いも含めて知ってもらうことが、患者さんが社会で過ごしやすくなる一歩だと思っています」(今井)
啓発活動に対しては、医師や患者さんからも、「移植後の生活に光を当ててくれる取り組みだ」「ぜひ続けてほしい」といった声が寄せられています。
治療薬の適応拡大に挑み、さらなる貢献を
現在、Meiji Seika ファルマは慢性GVHD治療薬において、さらに低年齢の小児への適応拡大を目指し、開発を進めています。小児開発は難易度が高く、海外でもまだ例の少ない挑戦ですが、大槻はその意義をこう語ります。
「治療薬を届けるなかで、『より多くの小児の患者さんにも使えるようにしてほしい』という声を多くいただいています」
治療薬で小児の患者さんの健やかな成長を実現できるかもしれませんし、生活をサポートするご家族の負担軽減にもつながると考えています。(大槻)
慢性GVHD治療薬への取り組みは、まだ始まったばかりです。
松平は、「私たちは、この分野でフロントランナーであるという自負を持ち、より多くの患者さんのQOL向上に貢献していきたい」と語ります。
今井も続けます。
「治療薬を、必要とする医療現場と患者さんに、正しい情報とともに確実に届ける。それが私たちの使命です。慢性GVHD治療を通じて、血液がん領域での貢献をさらに広げていきたいと考えています」