40周年記念企画

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北海道におけるいもち病防除の方向性

北海道立総合研究機構農業研究本部 道南農業試験場長

田中 文夫

はじめに

北海道は2010年に過去30年間で最大のいもち病の多発生を経験した。本病は前回の多発年であった2000~'02年以来5年間ほど少発生に推移していたが、2008年に増加傾向に転じ、以来3年連続の多発年となった。特に2010年には穂いもちの発生が水稲の作付面積約11.5万haのうちの半数に近い5万ha強に及び、被害面積も9,700ha(図1,北海道病害虫防除所調べ)、被害額は約50億円に達したとされる。その反省をもとに、2011年から全道的な総合対策に取り組んでいる。その内容は主に一般圃場対策と採種圃場対策である。以下にその概要を紹介する。

図1 北海道におけるイネいもち病の年次別発生推移
(北海道病害虫防除所)

これまでのいもち病防除

本道の平年における葉いもちおよび穂いもちの発生様相は本州の他府県と比較して大きく異なっている。本道では、4月下旬から始まる育苗期には気温が低いために苗いもちは一般に発生しない。無病徴で保菌した苗は5月下旬から本田に移植され、その後の夜温の上昇に伴って7月中~下旬以降に葉いもちの初発を迎えることとなる。7月下旬から8月上旬に出穂期に達するが、穂揃期以降に穂いもちの発生を見るというパターンで、他府県に比較して葉いもちと穂いもちの発生のピークが極めて近接しているのが特徴である(図2)。
そのために葉いもち防除は穂いもち対策と連動して実施するのが効率的である。一般的には少発年が多いことから、これまで生産者自身による発生モニタリングに基づく「発生対応型防除」を指導してきているが、生産現場では定着を見ていないことからここでは省略する。
2013年現在、生産現場では7月下旬以降に1~2回のラジヘリ・パンクル等によるスケジュール防除が主流となっており、それによる防除面積は延べ17.4万ha、地上茎葉散布剤は地上茎葉散布剤は粉剤・液剤を含めて約3万haと推定される。なお、育苗箱施用剤はその効果の確かさと省力性から普及が進み、約4.4万ha分の薬剤が使用され、水面施用剤は約1.5万ha、それらを全て合わせて、延べ26.2万haで平均2.3回の防除回数と推定される。

図2 北海道におけるいもち病の発生パターンと防除体系

2010年の多発要因

今後の総合的防除対策構築のためには2008~'10年の多発要因の解析が欠かせない。
本病の伝染源に関して、近年は遺伝子解析等の知見から、第一次伝染源として保菌種子(籾殻を含む)の重要性は疑う余地がない。
2009年には道内7市町村に設置されている採種団地周辺の一部で、穂いもちが発生した事例があったことから、保菌種子が主な感染源と想定された。本道の採種圃場の審査基準は厳しく、穂いもちの発生率は株率で0.0%以下とされているが、当該年度は周辺の一般圃場の多発によっていもち病菌の飛び込みも多く、防除しきれなかった事情があると考えられている。
そこで健全種子生産の必要性が再認識された。本道では平年であれば7月中~下旬に葉いもちが初発することを既に述べたが、2010年は多くの多発圃場において6月中~下旬からの初発が報告されている。さらに、葉いもちの初発の早期化を促したのは6月中~下旬からの感染に好適な気象条件の連続的な出現が誘因として加わったことが重要と考えられる。
実際に北海道で運用されている葉いもち感染好適日予測システム(BLASTAM)の6月中~下旬の道内各地で感染好適日が出現していることが認められている。
これらの要因が重なって、葉いもちの想定外の早発を招いた結果、予定していたスケジュール防除が間に合わず、対応が後手に回ってしまい、その後の穂いもちの発生に繋げてしまったのが多発の原因と考えられた。

2011年度の防除対応

(1)一般圃場対策

2011年以降の防除対策を4段階に区分すれば、以下のようになる。

第一段階:
通常の種子消毒+ベノミル水和剤(玄米保菌対策;ただしベノミル水和剤は2011年のみの実施)
第二段階:
育苗箱施用剤または水面施用剤による葉いもち防除
第三段階:
耕種的防除と発生予察の徹底
第四段階:
発生予察に基づく茎葉散布

まずは第一段階であるが、2010年産の種子では前年同様の保菌が懸念されたため、緊急対策として保菌種子(玄米)に対する殺菌効果の高いベノミル剤と通常種子消毒剤の併用が指導された。2012年以降はベノミル剤は使用されていない。
次に第二段階であるが、育苗箱施用剤または水面施用剤による予防的防除である。ただし、QoI剤は2011年の耐性菌の出現を契機に年1回の使用にとどめている。
第三段階の耕種的防除と発生予察の徹底では、BLASTAMでの感染好適日の出現を目安にして、各地での発生モニタリングの強化を図っている。さらに普及側の取り組みの中で第二次伝染源となる置き苗の早期処分の指導が効果的である。 第四段階の予察に基づく防除では、前述のモニタリング・発生予測をもとに予察情報による注意喚起および適期防除の呼び掛けを行っている。

(2)採種圃場対策

大まかな流れは前述の一般圃場対策の第一~四段階と変わらないが、大きな相違点は“フルコース防除”と呼ばれる薬剤防除対策の徹底である。当面は、①通常の種子消毒(温湯消毒・生物農薬使用は除く)+ベノミル水和剤施用、②育苗箱施用剤施用(QoI剤を除く)、③水面施用剤施用(同)、④適期茎葉散布(同)の全てを全生産者が実施している。加えて、普及センター、JAと共に周辺の一般農家にも十分な防除協力を要請している。採種組合の生産者ならびに関係機関の方々のご労苦に深く敬意を表する次第である。

今後のいもち病防除の方向性

将来的には道内も例外ではなく、高齢化に伴う農家人口の急激な減少が予想され、あるセンサスによれば2010~2025年には道内の平均経営耕地面積が水田作地帯では現行の一戸あたり6~10haから10~20ha、拡大程度1.7~1.9倍に及ぶと推測されている(農林業センサスを用いた北海道農業・農村の動向予測、2012年)。耕地面積の拡大に伴って、予防的防除の必要性が増大する、または直播栽培の導入により防除体系が箱施用剤から水面施用剤へ移行するなどの変化が予想され、それに対応した防除体系の構築が急がれる。
一方、本道における現行の基幹品種である「ななつぼし」、「ほしのゆめ」、「きらら397」、「ゆめぴりか」に代表されるうるち米品種、「はくちょうもち」、「きたゆきもち」、「しろくまもち」などのもち米品種のいもち病抵抗性は、「きらら397」が「中」である以外はほとんどが「やや弱」であり、薬剤防除が欠かせない。
しかし、2013年に新品種として登場した「きたくりん」はいもち病の圃場抵抗性に優れ(「強」)、本田での薬剤防除を省略可能である。その次のランク「やや強」には酒米ではあるが、「吟風」、「彗星」などがあり、通常年の本田防除は出穂期1回の防除で対応可能としている。今後とも「やや強」ランク以上の抵抗性育種が継続される方針であることから、それらに対する防除メニューの確立が必要となると思われる。
今後、実際に生産現場でどのような防除方法が要望されるかを明確に予想することは難しいが、早めに対応方針を定めて準備をする必要性を感じている。その場面で、これまで予防薬剤として全国的に使用実績を顕著に積み上げてきたプロベナゾール剤が今後も大きな貢献を果たすことは想像に難くない。

おわりに

これまで2008~'10年のいもち病の発生経過、2011年以降の防除対応を中心に述べてきたが、今回の事例では、薬剤防除と耕種的防除による総合的な対策を徹底するために、いもち病の発生生態に対する生産現場の理解を促す必要性を強く感じている。
さらに温暖化が進行すると、本道においてはいもち病の発生頻度が増加することが予想されるが、今後は一層効率的で省力的な防除体系が確立されることを強く願っている。

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