40周年記念企画

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三重県におけるいもち病防除と今後の展望

三重県農業研究所 農産物安全安心研究課 病害担当 主任研究員

鈴木 啓史

1.はじめに

前回、30周年記念誌が発刊された2003年は、MBI-D剤耐性イネいもち病菌が佐賀県だけでなく、九州に広く発生が確認された年であった。その9年後の2012年には、QoI剤耐性イネいもち病菌が山口県で確認され、2013年には12府県に広く発生が確認された。この10年間で、2つの成分で殺菌剤耐性イネいもち病菌が発生したことは、新規作用点の新剤開発が少ない中、米生産者には脅威である。
このような状況の中、植物の抵抗性・免疫力を高める抵抗性誘導剤は、耐性菌リスクの低い殺菌剤として、ますます注目され、その役割は大きく、水稲のいもち病防除に欠かせないものとなっている。
本稿では、三重県におけるいもち病防除の10年間の変遷と、今後の展望について述べる。

2.三重県の稲作

三重県の水稲作付面積は約3万haあり、主な品種は‘コシヒカリ’で、その作付け比率は約80%である。次に‘キヌヒカリ’が約10%で、他に三重県育成品種である‘みえのゆめ’、‘みえのえみ’や、‘あきたこまち’、‘ヒノヒカリ’などがそれぞれ1%前後作付けされている。この比率はここ10年間ほぼ一定である。
また、田植えのピークは、4月下旬から5月上旬で、三重県は8月に収穫が始まる早場米の産地である。水稲の早期化の主な目的は秋の台風を避けるためであったが、病害対策としての利点もある。田植えの早期化により、育苗期が3月から4月で、比較的低温であるため、苗いもちがほとんど発生しない。また、出穂期が平年は梅雨明け後になるため、穂いもちの発生も少ない。さらに、収穫期が8月から9月と早いため、紋枯病が垂直伝搬する前に稲刈りとなり、その被害回避にもなっている。三重県において、オリサストロビンの普及率が他県より低い要因として、紋枯病の防除ニーズが低いことが考えられる。一方で、いもち病に対する品種抵抗性の弱い‘コシヒカリ’が主な作付け品種であることから、三重県では、いもち病防除が必須の対策である。

3.いもち病の発生状況

三重県における葉いもちの発生面積と、穂いもちの発生面積を図1に示した。バブルの大きさが穂いもちの中発生以上の面積を示しており、実害の大きさを示している。この図から葉いもちが多い年は、穂いもちも多くなっていることが確認できる。また、1990年代のいもち病の被害の大きさに比べ、2000年代は、2003年の多発生を最後に、実害が小さい。このことは、育苗箱処理剤の普及との関係が大きいと考える。つまり、育苗箱処理剤により、葉いもちが抑えられることで、穂いもちの発生も抑制されていると考える。
三重県では、1999年からMBI-D剤の育苗箱処理が使用されはじめ、その後、育苗箱処理剤はいもち病防除に欠かせない存在となっていった。今となっては確認できないが、いもち病が多発生となった2003年には、MBI-D剤の育苗箱処理が広域に普及していたことから、この年にすでにMBI-D剤耐性イネいもち病菌が発生したため、葉いもちの防除効果が低下し、穂いもちが多発した可能性が考えられる。2001年佐賀県で初確認され、翌年の2002年には九州のすべての県において耐性菌の分布が認められていた。県内のモニタリング情報も必要であるが、県外の情報による迅速な対応が重要と考えられた。

図1 三重県におけるイネいもち病の発生面積

4.いもち病の防除対策

三重県のいもち病防除の実態を知るため、三重県病害虫防除所が、毎年調査を行っている「県内農薬流通状況調査結果(平成25農薬年度)」より、過去10年のいもち病殺菌剤および殺虫殺菌剤を抽出しその動向を調べた。
殺菌剤の使用方法は、育苗箱処理と本田液剤散布がほぼ同程度で、その使用面積はそれぞれ約14,000haであった(図2)。

図2 三重県におけるイネいもち病防除方法ごとの使用面積推移

育苗箱処理と本田液剤散布の体系処理と考えたいところだが、三重県の水田作付面積は約3万haであることから、三重県の半数の水田が無防除とは考えにくい。おそらく、いもち病の発生しにくい平坦部では、育苗箱処理を省略して、予察情報や圃場の発生程度に応じて本田防除が行われている一方、いもち病の比較的発生しやすい中山間地では、育苗箱処理で予防的にいもち病の発生を抑え、予察情報や圃場の発生程度に応じて本田防除の実施を判断していると思われる。
また、ここ10年で、本田粒剤や本田粉剤の使用面積は、合わせて約1万ha減少しているにもかかわらず、育苗箱処理や本田液剤は、それほど増加していない。このことは採種圃場における徹底した防除体系により、いもち病の種子伝染を抑制していることに加え、プロベナゾール等の育苗箱処理の防除効果が安定していることが要因として考えられる。
育苗箱処理によるイネいもち病防除はこの10年間でしっかり定着した。しかし、育苗箱処理に利用される殺菌剤の変遷は激しい。2005年に三重県でMBI-D剤耐性イネいもち病菌が検出されるまでは、カルプロパミドが多く利用されていた(図3)。

図3 三重県における育苗箱処理剤ごとの使用面積推移

2006年以降、MBI-D剤の代替剤として、耐性菌リスクの低い抵抗性誘導剤(プロベナゾールおよびチアジニル)が選択され、その使用面積は拡大した。
2010年になると、1成分でいもち病と紋枯病の2病害に防除効果のあるオリザストロビンの使用面積が徐々に増加してきた。また、三重県育成品種の‘みえのゆめ’は、いもち病には抵抗性を有するものの、ごま葉枯病に弱く、QoI剤による防除が必要であるため、三重県内で約千ha作付けされている‘みえのゆめ’を対象にしたオリザストロビンが使用されており、今後も使用は続くと思われる。
イソチアニルが2012年に販売されると、その使用面積が急増した。これに伴いチアジニルのシェアは減少したが、プロベナゾールは現状を維持しており、その安定した防除効果が評価されていると思われる。

5.QoI剤耐性イネいもち病菌対策

2013年現在、九州、中国、四国、近畿地方の12府県で、QoI剤耐性イネいもち病菌が検出されている。三重県では、2013年に採取したイネいもち病菌(39地点、189菌株)に対して、QoI剤耐性菌検定を行ったところ、全て感受性菌であった。QoI剤はイネいもち病に対する防除効果が高く、優れた殺菌剤であり、三重県内でも無人ヘリを中心に広い範囲で使用されている。QoI剤を適切に使用することにより、優れた効果を持続させるよう生産者にお願いしている。
いもち病に対する殺菌剤の適切な使用法は、2008年4月29日に日本植物病理学会殺菌剤耐性菌研究会より公表されている「イネいもち病防除におけるQoI剤及びMBI-D剤耐性菌対策ガイドライン」に記されている。ポイントは、QoI剤の使用は年1回までとし、採種圃場では使用しないことである。その代替剤として、もっとも期待されるのが、耐性菌が未発生である抵抗性誘導剤とMBI-R剤である。特に、抵抗性誘導剤はその作用機作から耐性菌が出にくいとされ、長期持続型の育苗箱処理の場合、耐性菌の発生リスクが低い抵抗性誘導剤を選択することが望まれる。
また、県内で突然変異により耐性菌が発生する可能性もあるが、すでに顕在化した耐性菌が種子流通で移動する可能性も考えられる。主食用イネ種子は、県内産が多いが、飼料用イネの専用品種種子は県外産が多く耐性菌発生県からの購入もある。さらに飼料用イネは、施肥量が多くいもち病の発生を助長する。このように、飼料用イネは主食用イネよりもいもち病発生リスクが高いにもかかわらず、いもち病防除が省略される傾向にある。
三重県では、飼料用イネの場合、種子消毒にベノミル剤を混和するか、育苗中に灌注するかのどちらかの追加防除を加えて、さらにWCSに使用可能な(稲発酵粗飼料生産・給与マニュアルに記載のある殺菌剤)プロベナゾールおよびイソチアニルによる育苗箱処理により、いもち病防除およびQoI剤耐性菌対策としている。

6.おわりに

MBI-D剤耐性イネいもち病菌の発生から、約10年でまたQoI剤耐性イネいもち病菌が国内で発生した。幸い、三重県ではまだ確認されていない。また、薬剤耐性イネいもち病菌の蔓延を許せば、優れた殺菌剤が次々と使用できなくなっていく。その点、40年間耐性菌が未発生であるプロベナゾールは、今後も耐性菌発生リスクの低い剤として、水稲生産の根幹を支えて行くものと期待している。

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