40周年記念企画

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長野県の野菜類でのプロベナゾール剤の出番は?

長野県農業試験場 企画管理部 主任研究員(生物機能工学博士)

藤永 真史

はじめに

小生が大阪の府立高校に入学したのが昭和61年4月である。この年、オリゼメート粒剤が、長野県では初めて野菜類の病害防除剤として紹介された。今回の執筆にあたり、コンピューター全盛の現在と異なるアナログ時代の当時の資料を探しに探しまくり、ようやく2冊の本に辿り着いた。一つが長野県植物防疫協会により平成6年に発刊された「長野県植物防疫史(第三集)」で、もう一方が、平成10年に発刊された「長野県南信農業試験場70年史」である。いずれもキュウリ斑点細菌病の防除薬剤としてオリゼメート粒剤の有用性が記述されている。そして、現在(平成26年)も、オリゼメート粒剤はキュウリ斑点細菌病の防除薬剤として「長野県農作物病害虫・雑草防除基準」に掲載されている。1986年から2014年と、とてもロングランな薬剤であり、今後も当分の間、その場所からいなくなることはないと思われる。ついでに当時の普及できる薬剤としての根拠(データ)を見てみた。小生の荒れに荒れまくっていた中学校時代(昭和58年~60年)の3ヵ年、長野県南信農業試験場環境部の先人が、オリゼメート粒剤の斑点細菌病に対する1株当たり5gの植穴処理の防除効果について検討している。3ヵ年とも無処理区の発病度が20~30の中発生条件で、無機銅剤と同程度の防除価が得られている。いずれの試験とも対照の銅剤散布がおおよそ1週間隔で4回連続散布であるのに対し、オリゼメート粒剤は定植時の1回処理と省力だ。当時が「省力・低コスト栽培」が叫ばれている昨今の情勢のようであったならば、絶賛されたであろう。また、防除試験に供試された品種も「ときわ北星」、「近成四葉」、「鈴成四葉」と懐かしい。これら一連の試験は、農水省の「ウリ類細菌病の総合的防除に関する研究」で行われたと記載されている。これらの病害に対しては、種子消毒、連作回避、施肥の工夫、抵抗性品種の利用、耕種的防除、薬剤防除などの総合化、つまり現代で言うところのIPMそのものの防除研究がされていたが、オリゼメート粒剤の出現により、防除が比較的容易になったと記述している。改めて、薬剤による防除効果は劇的であると考えさせられた。

現在と未来の出番は?

オリゼメートの水稲での「いもち病」防除剤としての立ち位置は、蔬菜園芸作物(野菜)を専門に扱ってきた小生には良く判らない。園芸品目でも、長野県はレタス、ハクサイ、キャベツなどの比較的規模の大きな畑で栽培する葉洋菜が主体的である。20年ほど前、当時大学4年生であった平成5年の冷夏が思い出される。米が不作で、インディカ米の緊急輸入が騒ぎになったが、蔬菜類の値段高騰で本県の葉洋菜の産地は大賑わいであった。しかし、一部のキャベツ産地では、「黒斑細菌病(Pseudomonas syringae pv maculicola)」が大発生し、大きな問題が生じた。そこで、翌年の平成6年、長野県野菜花き試験場によりオリゼメート粒剤のキャベツ黒斑細菌病に対する防除試験が実施された。ところが、平成6年、7年、8年と猛暑干ばつで黒斑細菌病をはじめとする細菌性病害はほとんど見られず、試験が成り立たなかった。ホントに、「天気に翻弄される細菌病」と身に染みた。
平成21年に長野県野菜花き試験場が長野市松代町から塩尻市桔梗が原(旧長野県中信農業試験場)へと移転した。この頃、また過去の「黒斑細菌病」が県内のアブラナ科野菜産地で大問題となっていた。今回は天気回りとは関係なく、各地で恒常的に大きな被害が出て、生産額の減少につながっていた。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」をいつも心がけている筆者らは、病原菌のライフサイクル(伝染環、発病条件など)の検討を徹底的に行い、如何にして発病~蔓延に至っているかを鮮明にした。つまり本病は、ハクサイ、キャベツなどの苗を植え付けた後、間もなく降雨などで飛散した病原菌が感染し、大きな被害につながることも一要因だと結論付けた。また、定植後の生育初期(植え付けから4週間程度)の徹底防除で発病が低く抑えられることも明らかにした。そこで、当時の明治製菓の開発マンT氏とひねり出した妙案(?)が、側条オリゼメート顆粒水和剤のセル苗灌注処理である。T氏は半信半疑であったが、小生には自信があった。それは、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」の信念があったからである。とはいうものの、ほ場で数字(データ)が取れなければ何の意味もない。まず、何も考えずとにかくやってみた。しかし、やみ雲にやってももったいないということで、T氏と万が一農薬登録も視野に入れるのならというコンテントを設定し、圃場試験を行った。結果は図1のとおりで、2ヵ年とも同じ結果であった。ちょっと、研究らしいデータも取ろうかと、セル苗灌注処理によりどのくらい防除効果が発揮できるかを調べた。ハクサイの苗へ病原菌接種を行った室内試験の結果、約2週間の残効が認められた。また、3週間以降はハクサイ自身の抵抗力が発揮されるのか判らないが、大きくなったハクサイは、そもそも病原菌を接種しても発病程度が低く抑えられた(Adult-Resistance?)図2。このわずか2週間の効力でも、ほ場では防除効果を示す「側条オリゼメート顆粒水和剤のセル苗灌注処理」に、他作物、他病害への展開も期待して止まない。

図1 ハクサイ黒斑細菌病に対するプロべナゾール剤の苗処理による発病抑制効果

試験場所:長野県野菜花き試験場内圃場
定植:平成24年7月11日、栽植距離:畝幅45cm×株間40cm 施肥・栽培管理は慣行。対照の無機銅剤(塩基硫酸銅)処理は定植後7、14、21日目の計3回、背負式動力噴霧器を用いて、200L/10aを散布した。なお、散布薬液には展着剤グラミン5,000倍を加用した。調査日は、8/8、に下記の基準により発病程度を調査し、発病株率をおよび次式より発病度求め、発病度より防除価を算出した。発病度=∑(程度別発病株数×指数)×100/(調査株数×3)、発病指数 0:無発病 1:外葉の1/3以下に発病する 2:外葉の1/3~2/3に発病する 3:大部分の外葉に発病が認められる。
プロベナゾール水和剤は1トレイ(128穴)あたり500ml灌注処理。

図2 プロべナゾール剤苗処理後の日数とハクサイ黒斑細菌病菌接種が発病に及ぼす影響

試験場所:長野県野菜花き試験場内ガラスハウス
品種はハクサイ「黄愛65」調査は105cfuの病原菌液を噴霧接種後、任意の日に下記の基準により発病程度を調査し、発病株率をおよび次式より発病度求め、発病度より防除価を算出した。発病度=∑(程度別発病株数×指数)×100/(調査株数×3)
発病指数 0:無発病 1:外葉の1/3以下に発病する 2:外葉の1/3~2/3に発病する 3:大部分の外葉に発病が認められる。
プロベナゾール水和剤は×100倍液を1トレイ(128穴)あたり500ml灌注処理。

試験場所:長野県野菜花き試験場内圃場

定植:平成24年7月11日、栽植距離:畝幅45cm×株間40cm 施肥・栽培管理は慣行。対照の無機銅剤(塩基硫酸銅)処理は定植後7、14、21日目の計3回、背負式動力噴霧器を用いて、200L/10aを散布した。なお、散布薬液には展着剤グラミン5,000倍を加用した。調査日は、8/8、に下記の基準により発病程度を調査し、発病株率をおよび次式より発病度求め、発病度より防除価を算出した。発病度=∑(程度別発病株数×指数)×100/(調査株数×3)、発病指数 0:無発病 1:外葉の1/3以下に発病する 2:外葉の1/3~2/3に発病する 3:大部分の外葉に発病が認められる。
プロベナゾール水和剤は1トレイ(128穴)あたり500ml灌注処理。

試験場所:長野県野菜花き試験場内ガラスハウス

品種はハクサイ「黄愛65」調査は105cfuの病原菌液を噴霧接種後、任意の日に下記の基準により発病程度を調査し、発病株率をおよび次式より発病度求め、発病度より防除価を算出した。発病度=∑(程度別発病株数×指数)×100/(調査株数×3)
発病指数 0:無発病 1:外葉の1/3以下に発病する 2:外葉の1/3~2/3に発病する 3:大部分の外葉に発病が認められる。
プロベナゾール水和剤は×100倍液を1トレイ(128穴)あたり500ml灌注処理。

終わりに

最近、「古きを温ねて新しきを知る(温故知新)」という言葉がとても心地よく感じる。テクノロジーの進化、進歩は、一瞬の閃きにも左右されるものなのかもしれない。薬剤の専門家との腹を割った会話により、我々試験場職員も「ハッ!」とする閃きが得られるよう、今後ともよろしくお願いしたいところである。

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