40周年記念企画

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ネギ軟腐病に対するプロベナゾール剤の効果的な散布体系

大分県豊肥振興局 主幹

山崎 修一

はじめに

ネギ軟腐病は、Erwinia carotovora subsp. carotovora (Jones 1901) Bergey, Harrison, Breed, Hammer & Huntoon 1923およびE. chrysanthemi Burkholder, McFadden & Dimock 1953による細菌病である。症状は、地際部を中心に葉鞘が軟化腐敗するとともに、葉身では暗緑色水浸状病斑を生じ、のち内部が軟化腐敗して悪臭を発生する(田中,1998;滝川ら,1983)。病原菌の最適発育温度は28~34℃であり、大分県では、毎年7月上旬~9月上旬頃に発生する。また、土壌湿度が高い場合に発病が多いため、この時期に長雨や台風の通過等が重なると多発しやすい。
本病の有効な防除手段の一つとして、プロベナゾールを含む粒剤が登録されている。プロベナゾールは、植物免疫の活性化により病原菌の感染を防ぐタイプの薬剤であり、耐性菌出現の可能性が低いことや非標的生物に対する影響が少ないなどの特徴を有する。また、予防効果や残効性に優れており、本病の防除に欠かせない有効な防除薬剤として全国のネギ産地で広く利用されている。しかし、治療効果を有しないことや本病の発生時期が約3ヶ月以上と長期に渡ることから、防除効果は散布時期に左右されやすい。大分県ではプロベナゾール粒剤の6月下旬1回散布を慣行としている。しかし、本体系による防除効果は、圃場間差が大きく十分な効果が得られていないことが課題である。
本研究では、速効性が高いプロベナゾール粒剤と残効性に優れたベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤の散布時期、回数および組みあわせによる効果的な本病の防除体系を検討したので報告する(山崎ら,2010)。本論文を執筆するにあたり、御支援を賜った山形大学名誉教授富樫二郎博士に心より深謝の意を表する。また、本研究は、九州病害虫防除推進協議会連絡試験において、鹿児島県農業開発総合センター満塩和昭氏および中西善裕氏との共同研究で得られたものである。さらに、各種薬剤の提供についてはオリゼメート普及会(明治製菓株式会社,北興化学工業株式会社)に御協力いただいた。ここに記して篤く御礼申し上げる。

①ネギ軟腐病
上段:軟腐病による発病株
下段:プロベナゾール粒剤による防除効果
(黄色矢印が散布した畝を、赤矢印が無散布の畝を示す)

Ⅰ 粒剤の散布時期および回数と防除効果との関係

現地慣行である6月下旬プロベナゾール粒剤1回散布と比較して、5月下旬~6月上旬にベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤を追加散布した2回散布体系(体系①)は防除効果が概ね高かった(表1)。また、1年間のデータではあるものの、7月下旬にプロベナゾール粒剤を追加散布した2回散布体系(体系③)も、現地慣行より防除効果が概ね高かった(表1)。この理由として、2種の粒剤の残効期間の影響が考えられる。粒剤を水中に静置した場合の溶出率は、プロベナゾール粒剤の場合、約7~14日間でほぼ100%となる。一方、ベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤は、薬効成分の溶出が制御されている製剤である。そのため、この期間では薬効成分の約25%前後しか溶出されず、約40~70日後にほぼ100%となる(明治製菓,2007)。また、畑地での溶出速度については不明であるが、上記の水中溶出率やネギにおけるこれまでの試験の結果から、プロベナゾール粒剤の残効期間は約30日、ベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤の残効期間は約60~90日と推察される。佐古(2003)は、プロベナゾール粒剤を6~9月に20日前後の間隔で散布すると効果的であると報告している。
本病は、2007および2008年ともに7月上旬から発生し始め、7月下旬~8月上旬から進展し始めた(図1)。そのため、6月下旬のプロベナゾール粒剤1回散布では発病進展期にあたる8月上旬には薬効不足となるのに対し、体系①および③では、この時期以降も薬効が持続することが推察され、6月上旬あるいは7月下旬の追加散布による2回散布体系が慣行防除である6月下旬1回散布よりも、防除効果の向上に繋がったものと考えられる。

表1 プロベナゾール剤の散布体系の違いによる防除効果の比較

a)各圃場における3回の粒剤散布時期に散布した粒剤の種類を示した:プロ、プロベナゾール粒剤;ベン、ベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤;×、無散布。
b)同一圃場内の異なる英小文字間は、Arcsin変換後、Tukeyの多重検定(P<0.05)で有意差あり。
c)推定損失額(千円/10a)=減収額(千円/10a)+薬剤費(千円/10a)。減収額(千円/10a)=累積発病株率(%)×平均栽植株数(40,000株/10a)×1本重(0.1kg/株)×平均単価(300円/kg)。

図1 試験圃場Ⅰにおけるネギ軟腐病の累積発病株率(上段)と気象(下段)
a)5月下旬~6月上旬→6月下旬→7月下旬の各散布時期に散布した粒剤の種類を示した:プロ、プロベナゾール粒剤;ベン、ベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤;×、無散布。なお、散布時期は、表1に準じる。
b)軟腐病菌の最適発育温度(28~34℃)を横線で示す。

Ⅱ 粒剤の種類と防除効果との関係

2007年試験において、体系①および②を比較した結果、体系①はいずれの圃場でも防除効果が慣行区よりも有意に高かったのに対し、体系②は体系①よりも防除効果が有意に低い場合が見られた(表1)。この理由として、前述の残効期間の影響が考えられる。7月上旬の初発期に向けて、体系①では初回に散布したベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤の残効に加えて、追加散布したプロベナゾール粒剤の残効も期待できる。これに対し体系②では、7月上旬の初発期が、初回に散布したプロベナゾール粒剤の残効が切れ始める時期に当たることからこの時期の効果は不安定である。このことから、体系①の方が体系②よりも安定した防除効果に繋がったものと考えられる。
2008年試験において、プロベナゾール粒剤およびベンフラカルブ・プロベナゾール粒剤各1回ずつの散布体系(体系①)と、プロベナゾール粒剤2回散布体系(体系③)のどちらがより有効な防除体系かについては、累積発病株率からは有意な差が見られなかった(表1)。ただし、体系③は、いずれの試験圃場でも、慣行区と比較して概ね低い累積発病株率で推移していたのに対し、体系①は、防除効果の改善がほとんど見られない事例もあった(表1、大分Ⅱ、Ⅳ圃場)。加えて、体系①は、体系③よりも薬剤費が1.5倍程度かかることから、大分県では、体系③を推奨している。

Ⅲ 定植時期の遅い作型における粒剤の散布時期

軟腐病は、一定の生育期間後に、発病リスクが高まる傾向がある。例えば、ハクサイ軟腐病では、播種後約50日にあたる結球期以降に発病する傾向にある(富樫,1999,2000)。これは、この時期に根圏中の軟腐病菌が急激に増殖することや、発病部位である外葉中肋基部が根圏土壌と接触し始めることに起因する。ネギにおいても、軟腐病菌は生育が進むにつれて根圏などで増殖し、土寄せ等による茎盤や葉身の展開基部に対する傷口形成が重なるにつれて、発病リスクが高まる(木嶋,1991)。そのため、大分県では5月以降、鹿児島県では6月以降に定植する作型では、生育初期にあたる7月には本病が発生していないことが多い。そこで、2008年の試験では、定植時期の遅い作型において、8月中旬に粒剤を散布する体系での防除効果を検討した(大分Ⅴ、鹿児島Ⅰ圃場)。その結果、大分Ⅴ圃場では、体系⑤および⑥は、慣行区より高い防除効果が得られた(表1)。一方、鹿児島圃場では慣行区との有意な差は見られなかった(表1)。この原因として、同圃場では、最もネギ軟腐病の発病リスクの高まる8月中旬に台風11号が襲来しており、粒剤のみでは防除効果が不十分であったことに加え、液剤の防除も台風襲来2週間後と遅れたためであると考えられた。ただし、2007年試験では、全圃場で台風が襲来したにもかかわらず、体系①では高い防除効果を示したことから(表1)、適切な本粒剤の2回散布体系は、気象等の影響を最小限にできる防除法として有効であると考えられる。なお、大分県の試験圃場における6月中下旬の生育状況を比較したところ、作型の遅い大分Ⅴ圃場を除く全圃場のネギの軟白径は1cm以上であった(山崎,データ略)。そのため、作型に応じた散布体系の選択については、この時期の生育状況によって判断するように指導を行っている。

Ⅳ プロベナゾール粒剤による軟腐病の防除

2年間の試験結果から、粒剤の散布体系は、初発前~発病進展期にプロベナゾールを含む粒剤を2回散布することにより、現地慣行であるプロベナゾール粒剤6月下旬1回散布と比較して、ネギ軟腐病に対する防除効果を改善できることが示唆された。2回散布により薬剤費の支出は増えるものの、この分も加味した本病による損失額(減収額+薬剤費)は、数万~数十万円/10a程度低減できることから、生産者にとって薬剤費以上の利益を得ることができる。また、本病の初発期や進展期は、定植時期やその後の生育状況によって異なる傾向が見られる。そのため、薬剤の効果が最大限に発揮できる時期が、発病の初発期や進展期にあたるように、散布時期を設定することが重要と考えられる。
 なお、今回の試験は、品種、土性および標高の異なる複数の圃場で行ったが、いずれの違いも、防除効果に対する顕著な差には繋がらなかった。一方、気象推移の年次変動が防除効果に与える影響について検討するため、気象以外の条件がほぼ一致する大分Ⅰ圃場の体系①区を年次で比較したところ、発病株率に差は見られるものの、初発生や発病進展の時期や推移に顕著な差は見られず、両年とも一定の防除効果が得られた(図1)。このため、基幹的な防除体系の設定は、気象推移よりも、作型に応じるのが効果的であると推察された。しかし、一部の圃場では、台風の襲来により十分な防除効果が得られなかった。そのため、台風襲来時には、予防も含めた速やかな液剤の追加防除も必要であろう。

おわりに

プロベナゾールのような植物免疫を活性化することのできる物質は、プラントアクティベーター(有江・仲下,2007;花田,2009)、あるいはプラントディフェンスアクティベーター(PDA;岩田,2007)と呼ばれている(以下、岩田の提案に合わせ、PDAと表記する)。PDAは、耐性菌出現リスクが少なく、効果の持続性や有効スペクトラムが広いことなどの大きな利点を有している。これは、植物が多くの防御システムを持っており(有江・仲下,2007)、本物質が、その中の複数のシステムの誘導に関与していることに関係している(岩田,2007)。自然界では、これらの複数の防御システムの全てに耐性を持つ病原菌が出現する確率は極めて低い。そのため、プロベナゾール剤では、これまで上市30余年を経ても耐性菌出現の報告がない(岩田,2007;花田,2009)。また、PDAは殺菌性がないことから、環境影響などが少ない農薬であると考えられており、消費者の安全・安心志向にも合致する。さらに、PDAの誘導する植物免疫の利用は、糸状菌や細菌病害に加えて、実用的な薬剤がないウイルス病の防除手段としても注目されている(Koganezawa et al., 1998)。そのため、様々な病原体に対し、安定した防除効果が期待できるPDAの研究がさらに進むことにより、これまでの病害防除体系の課題解決や、より効果的な防除技術の開発に繋がると予想される。

引用文献

  • 1) 有江 力・仲下英雄(2007):植物防疫 61:531~536.
  • 2) 花田 薫(2009):植物防疫 63:686~689.
  • 3) 岩田道顕(2007):植物防疫 61:553~558.
  • 4) 木嶋利男(1991):作物の細菌病,日本植物防疫協会,東京,p. 227~228.
  • 5) Koganezawa, H. et al.(1998):Ann. Phytopathol. Soc. Jpn. 64:80~84.
  • 6) 明治製菓(2007):オリゼメート総合資料,明治製菓㈱,東京,p.21.
  • 7) 佐古 勇(2003):オリゼメートのあゆみ,明治製菓㈱,東京,p.117~120.
  • 8) 滝川雄一ら(1983):日植病報 49:415.
  • 9) 田中澄人(1998):日本植物病害大辞典,全国農村教育協会,東京,p. 517.
  • 10) 富樫二郎(1999):農薬誌 24:401~407.
  • 11) (2000):山形大学農学部農場報告 12別冊:30~36.
  • 12) 山崎修一ら(2010):九病虫研報 56:1~8.

本稿は一般社団法人 日本植物防疫協会発行の「植物防疫」平成23年6月号に登載されたものを著者並びに協会の許可を得て転載致しました。

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