40周年記念企画

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秋田県におけるオリゼメート剤の省力施用プロジェクト

元 秋田県農業試験場 生産環境部長

深谷 富夫

秋田県では1970年代から粉剤や液剤を用いて、農業試験場の小林氏が提案した予察対応型防除で葉いもちの発生を防いできた8)。本技術は年3~4回の茎葉散布を行うものである。1980年代に入り、生産者からはより効率的な防除法の確立が求められた。すなわち散布回数の削減とともに安価で防除効果が高く、しかも軽労的な葉いもち防除法である。そこで、筆者は種々のオリゼメート剤が本田の葉いもちに対して常に卓効を示していたことに着目し、本剤の施用量を減じても十分に防除効果が得られ、生産者のニーズに対応した技術となると考え、農業試験場、病害虫防除所、各JA営農指導員、各地病害虫防除員協議会と連携してプロジェクト体制を整え、1983年から検討を開始した。以下に種々オリゼメート剤の減量施用の試験結果と普及に至る経緯について記す。

プロジェクト発足の背景

いもち病防除の変遷

いもち病は稲作において減収をもたらす最大の病害と位置づけられてきた。1950年以降、農薬や撒布機械が開発され、それまで本病の被害を懸念して制約してきた肥料の投下量が増したことにより米の収穫量が増加した。しかし、天候不良等により肥料投下量の増加はいもち病抵抗力の低下を招き、防除が遅れた圃場では大きな被害を被る事例が多々みられた11)。そこで、小林次郎氏は適期防除を行うための、葉いもち全般発生開始期及び病斑の急増期をもたらす予測基準を作成し、以来、予察対応型防除法の提案・指導を行ってきた。
小林が提案した防除技術、すなわち主力品種である“あきたこまち、ササニシキ”等の罹病性品種は第2世代期以降の葉いもちの感染防止をねらいとし、年3~4回、粉剤や液剤の茎葉散布を行うものである。また、穂いもちに対しては出穂直前と穂揃期、さらに葉いもち多発年には傾穂期にも薬剤散布する等、予防防除に徹して被害軽減に努め、長年にわたり実績をあげてきた8)

オリゼメート粒剤は葉いもちに対して常に卓効を示すことから、葉いもち防除は本剤のみの散布で終了できたが、価格が粉剤4回散布分より高かったことから普及率が伸び悩んだ。
そこで生産者ニーズである散布回数の削減および安価で防除効果が高く軽労的葉いもち防除技術となり得る各種オリゼメート剤の減量施用技術の普及に向けて検討した。

表1 気象基準別の全般発生開始期の適否

図1 感染好適気象の予測基準(小林)

図2 葉いもち病斑の増加状況と茎葉散布の時期
(予察情報で防除時期を指定)

図3 1970~1989年の防除

写真1 1970~1989年における秋田県の主体的な防除法

1.オリゼメート剤の減量試験

1)オリゼメート粒剤

(1)オリゼメート粒剤の減量水面施用(1.5kg/10a)と育苗箱施用(50g/箱)の効果

(秋田市仁井田農試圃場:褐色低地土 1981年)

試験方法

供試品種は、圃場抵抗性が弱いナツミノリである。中苗を5月15日に機械移植した。試験圃場の基肥は化成肥料でN、P2O5、K20を各々10a当たり7kgを全層施用し、追肥は6月下旬と7月中旬の2回、化成肥料でN、P2O5、K20を各々10a当たり2kg施用した。試験区面積は21.6㎡の2連制とした。各試験区は乱塊法によって配列し、散布された薬剤が移動しないように試験区をアゼナミシートで区画した。オリゼメート粒剤は初発4日前の7月9日に手まき散布とし、施用後は田面に水が無くなるまでの4日間は入水をさけた。また、育苗箱施用は移植直前に行い、灌水して鎮圧し、10a当たり25箱分を移植した。

試験結果

試験田での初発は7月13日と遅く、しかも7月中の感染好適な気象が17日と18日に訪れたのみであったにもかかわらず多発生となった。その原因として本試験田の近くに設置したいもち病菌の人工接種による葉いもち多発田からの伝染が関与したものと考えられた。
結果は表2に示した。これによれば本粒剤の箱施用区における7月29日調査の葉いもち及び8月28日調査の止葉病斑は無処理区より少ない傾向がみられたが、有意差は認められず、防除効果は確認できなかった。本試験では移植直前の箱施用による葉いもち防除は十分ではないという結果となり、狭間らの九州での試験結果5)と異なった。狭間らの試験によれば、移植日が著者の場合よりも35日遅い6月19日であり、初発日までの日数が23日であった。表3によれば、オリゼメート粒剤の水面施用後30日頃から感染抑制効果の低下傾向がみられた。ここでは施用方法が異なるので、同一視はできないが、本試験の場合は移植から初発まで54日間要したので、その間に感染抑制効果が低下して防除効果が得られなかったのではと推察され、秋田県は不適地に該当すると考えられる。
一方、水面施用、すなわち、10a当たり1.5kg施用区、3kg区は共に葉いもち病斑が少なく箱施用区との間に優位差がみられた。以上のことからオリゼメート粒剤の使用に当たっては育苗箱施用よりも初発前の水面施用が有効で、しかも通常施用量の半分である10a当たり1.5kg施用でも実用性が高いと判断された1)

表2 オリゼメート粒剤の施用方法の違いと葉いもち防除効果(秋田農試水田 褐色低地土 1981年)

(2)オリゼメート粒剤の通常の1/4量(10a当たり0.75kg)水面施用の効果

(秋田市仁井田農試圃場:褐色低地土 1983年)

ここでは試験1の結果を踏まえ、さらなる減量水面施用について施用時期を変えて検討した。

試験方法

供試品種は、圃場抵抗性が弱いナツミノリである。稚苗を5月16日に機械移植した。施肥法等栽培管理等は試験(1)に準ずる。試験区面積は21.6㎡の2連制とした。各試験区は乱塊法によって配列し、散布された薬剤が移動しないように試験区をアゼナミシートで区画した。オリゼメート粒剤は6月16日散布区、7月9日散布区を設けた。散布は手まきとし、施用後は田面に水が無くなるまで入水をさけた。なお、発生を助長させるため6月18日に病斑が1個ついた病苗を各試験区の境界に1本ずつ植え込んだ。

試験結果

試験区の構成は表3に示すようにオリゼメート粒剤の10a当たり通常施用量の3kgとその半量の1.5kg、さらに1/4量の0.75kgを初発2日前の6月16日に施用した区と初発21日後の7月9日に施用した区及び無処理区の7区を設けた。6月18日の初発後、感染好適な気象は7月1日、9日、16日、24日に訪れ、葉いもちは多発生となった。
結果は表3に示した。これによれば、6月16日に施用したいずれの区とも7月19日の調査においては無施用区に比べて明らかに発病が少なく、7月1日、9日の感染に対して高い発病抑制効果を示した。しかし、粒剤の施用量が少ない区ほど発病株率が高くなる傾向がみられた。また、7月28日、8月11日の調査では、いずれの施用区とも上位葉での発病が増加したことから7月16日、24日の感染に対する抑制効果が低下してきたものと考えられる。特に0.75kg区でその傾向が顕著であった。
7月9日の施用においては、7月19日の調査において、いずれの施用区とも発病が多かったことから施用当日の感染に対する抑制効果は低かったものと考えられる。しかしながら、7月28日、8月11日の調査では、いずれの施用区とも無処理区に比べ明らかに発病が少なく、特に1.5kg区、3kg区で顕著であった。すなわち、7月16日、24日の感染に対する抑制効果が高かったことを示すものである。
以上の結果オリゼメート粒剤の0.75kg区は葉いもち抑制効果は認められるが、通常量、すなわち3kg区に比べ明らかに劣り、有効な施用量にはなり得ないと判断した。一方1.5kg区は施用時期が早い場合、3kg施用区より若干発病が多かったが、初発後の施用においては3kg区と同等の防除効果がみられたので10a当たり1.5kg施用を実用性ありと判断した1)

表3 オリゼメート粒剤の水面施用量の違いと葉いもち防除効果(秋田農試水田 褐色低地土 1983年)

(3)オリゼメート粒剤の減量(1.5kg/10a)水面施用の現地実証試験

県内各地域の病害虫防除員協議会及び各JA営農指導員の協力のもと土壌条件を異にする現地圃場、1区面積は200~300㎡規模に品種ナツミノリを移植し、1983年から試験を行ってきた。試験内容は試験地で若干の違いはあるが、表4に示すとおりで基本的にはオリゼメート粒剤の10a当たり1.5kg水面施用の実用性の評価を対象にした試験である。なお、以前に持ち込みいもち発生圃場では10a当たり本粒剤3kgの通常量を水面施用しても十分な防除効果が得られない事例がみられたことから、1985年以降の試験では初発7日前と初発7日後の2回、本粒剤の10a当たり1.5kg施用区を設けた。

試験結果

試験結果は表4に示すとおりで、オリゼメート粒剤の10a当たり1.5kgの初発7日前施用、及び初発日施用区とも葉いもちに対する防除効果が高く、本剤の10a当たり3kg施用区と差が認められず、実用性を確認できた。減水の著しい砂丘未熟土水田でも、他の土壌型を異にする水田と同様に本粒剤の10a当たり1.5kg施用の防除効果が高かったことは本粒剤は水に溶けやすく、しかも吸収が速やかであることを示していると考えられる10)
これまでの試験結果において、本粒剤は水面施用した当日の感染に対しては抑制効果は認められなかったが、本藏は施用当日の感染に対しても抑制効果が十分であると報告している6)。この違いについては不明であるが、かりに本粒剤が施用された後、葉いもち感染の抑制作用が顕著に働くまで7日間を要するとした場合、各年の微気象データから推測すれば、表4に示した初発日の1.5kg施用は全て第2世代の感染を防止したものと考えられる。従って、小林が提唱している罹病性品種(あきたこまち、ササニシキ等)の葉いもちに対する薬剤防除の目安である2世代の感染を防止8)することと一致し、高い防除価が得られたもの考えられる1)
なお、本試験は狭い面積を単位に実施したものであり、一般水田、とくに大面積水田でオリゼメート粒剤の10a当たり1.5kgの均一散布が可能かどうかについては新たな検討課題となった。
なお、本粒剤の1.5kgの2回散布は全てが防除価100となり、高い効果が得られ、持ち込み対策に貢献できる技術と考えられた。

表4 年次別及び土壌型別の葉いもちに対する防除効果(表中の数字は防除価、小数点以下は繰り上げ)

・オリゼメート粒剤減量施用の普及
10年間の試験データを基に、農業試験場、農林部植物防疫担当、病害虫防除所、各地域病害虫防除員協議会(農業共済組合担当者、各JA営農指導員)と協議を重ね、1991年の防除基準に「オリゼメート粒剤を10a当たり2kgを初発時またはその7~10日前に施用する。通常発生年では6月25日~7月5日までに散布するが、全般発生開始期が早い場合は予察情報の指示に従い散布時期を早める。」の項目を記載した。なお、協議の結果、試験内容では本粒剤の10a当たりの施用量は1.5kgで評価したが、散布ムラを回避するためには2kgが必要と判断・決定した。
これまで10%前後の本剤の使用率が減量使用を防除基準に採用した年は60%以上に高まり、その後は主力防除技術となり、生産者のニーズに対応することができた。

(オリゼメート粒剤の葉いもち防除)

(穂いもち防除)

写真2 高品質米「あきたこまち」を守る省力型防除技術の発信

図4 秋田県におけるオリゼメート粒剤使用量の年次推移

図5 1990~2004年の主体的防除体系

2)側条オリゼメート顆粒水和剤

効率的な葉いもち病防除法としてペースト肥料にオリゼメート剤を混入し、田植え同時に側条施用が可能な薬剤が開発された。本技術は1998年の防除基準に採用したが、農薬コストが高く、普及が滞った。本防除剤の投下量は10a当たり500gであり、葉いもちに対する効果は高いことから3)、オリゼメート粒剤と同様に施用量を減ずることが可能であろうと考え、各JA営農指導員等の協力をいただき、減量試験を実施してきた。その結果、いずれも高い成果が得られたので、内容について記する。

試験方法

試験実施場所
秋田農試(秋田市仁井田1999年、秋田市雄和2000年、2001年)
品種
ナツミノリ、薬剤は移植時に2倍量の水で溶かした後、側条用ペースト肥料と混和。

表5 試験圃場条件と耕種概要

写真3

試験結果

1999年の褐色低地土水田、2000年のグライ土水田での試験では側条オリゼメート顆粒水和剤の通常の半量(10a当たり250g)をペースト肥料と混合して深さ3~7cmに側条施用すると、深さが変わっても葉いもちに対して高い防除効果を発揮し、通常施用量と効果に差がなかった(表6、表7)。また、2001年の減水深が大きい多湿黒ボク土水田でも高い効果がえられた(表8)。この原因としては肥料とともに土壌中に埋設することで薬剤の流亡が無く、土中に定着されること、及び薬剤の利用率が高いためと考えられた6)

表6 褐色低地土水田での側条オリゼメート顆粒水和剤の減量施用の葉いもち防除効果(1999年)

表7 グライ土水田での側条オリゼメート顆粒水和剤の減量施用の葉いもち防除効果(2000年)

表8 黒ボク土水田での側条オリゼメート顆粒水和剤の減量施用の葉いもち防除効果(2001年)

・本技術の普及
2002年には各JA営農指導員らが本技術普及の可否を判定するための現地実証試験を行った。その結果、全て良好な成果が得られたことから2003年以降、防除基準の側条オリゼメート顆粒水和剤の施用量を10a当たり500gから250gに変更した。これを機に、2,000haで実施されていた側条オリゼメート顆粒水和剤の使用量がペースト肥料を用いて栽培している圃場のほぼ全ての約10,000haで使用されることになった。

3)コープガードD12

作業効率性をねらいとした粒状肥料の側条施用技術の導入が2000年以降増加した。そこで、側条施用のためのオリゼメート入り粒状肥料、すなわちコープガードD12(プロベナゾール0.6%)が開発された。コープガードD12は10a当たり40kg~50kg施用であるが、生産者から有機質肥料や育苗箱施肥等との組み合わせが可能な体系、すなわち、本肥料・剤の減量が要望された。これまで、コープガードD12の側条施用は葉いもちに対し卓効を示してきたことから、施用量を半量に減じても効果が高いと考え、土壌条件を異にする圃場において実用性を検討し、成果が得られたのでその内容等を記する。

試験方法

試験実施場所
秋田市雄和 農試の土壌条件を異にする圃場で試験実施
品種
ナツミノリ(中苗)
区制1連制・1区面積
2002年240㎡(24条×30m)、2003年88㎡(18条×16.3m)、2004年88㎡(18条×16.3m)
ヤンマー側条施肥(粒状)田植機を用い栽植密度は条間30cm×株間15cmである。
施用量
表10に示すよう10a当たり20kg区と40kg区を設置した。

試験結果

2002年の黒ボク土水田、2003年のグライ土水田での試験は多発条件となり、2004年のグライ土圃場では初発生が早く激発条件での試験となった。
表10、表11、表12に示すように黒ボク土水田、グライ土下層有機質水田でのいずれの試験ともコープガードD12の20kg/10a施用区は葉いもちに対して同剤の40kg/10a区と同等の高い防除効果が認められた。以上によりコープガードD12の減量施用、すなわち20kg/10aでの使用可能と判定された。

表9 コープガードD12減量施用試験の耕種概要等
(試験実施:秋田県農試圃場)

表10 コープガードD12の減量施用による葉いもち防除効果
(2002年 黒ボク土壌)

表11 コープガードD12の減量施用による葉いもち防除効果
(2003年 グライ土下層有機質)

表12 コープガードD12の減量施用による葉いもち防除効果
(2004年 グライ土下層有機質)

・本技術の普及
本試験結果からコープガードD12の減量施用、すなわち10a当たり20kgでの使用が可能となった。したがってコープガードD12は単独施用はもちろんのこと、有機質肥料や緩効性の育苗箱施肥等との組み合わせができるので、2005年の防除基準には使用量を20~50kg/10aとして採用した。本技術は地域にあった省力体系の米作りが可能となることから、これを機に使用率が向上した。

2.オリゼメート剤の減量施用による持込み・稲わら設置畑周辺水田における防除体系の構築

乾燥状態で冬越しさせた稲わらをマルチに活用した野菜畑等に隣接する水田では、発病苗の持込み水田と同様に早期から葉いもちが多発し、防除に苦慮する事例が多々みられた2)。そこで、以前、現地試験で実証したオリゼメート粒剤の減量2回施用や側条オリゼメート顆粒水和剤の移植時減量施用は早期発生に有効と判断され検討した結果、高い効果が得られたので内容等を記す。

試験方法

2003年、農業試験場において前年水稲栽培圃場の一角をスイカ畑とし、苗を5月9日に定植した。さらに、6月11日には前年葉いもち多発圃場から採取し、乾燥状態で保管した稲わらをスイカ畑の畝間にマルチとして設置した。本畑に隣接する水田には品種ナツミノリ(中苗)を5月14日に移植し、同時にペースト肥料(N 4.8kg/10a)を側条施用した。

試験区の構成
①オリゼメート粒剤1.5kg/10aを6月7日、6月26日の2回 水面施用
②オリゼメート粒剤2kg/10aを6月15日 水面施用
③オリゼメート顆粒水和剤250g/10a 移植時側条施用
④無処理

試験結果

当年の全般発生開始期は7月4日であり、その後の感染好適な気象条件は2回程度で一般圃場では少ない発生となった。しかし、稲わら設置畑に隣接する水田では、葉いもちの発生が早くから認められ、7月初めには第2世代期病斑で構成され、病斑密度が高まり激発状態となった。
結果は表13に示すとおりで、オリゼメート粒剤を6月上旬、下旬の2回、10a当たり1.5kgを施用した区及び側条オリゼメート顆粒水和剤を10a当たり250gをペースト肥料に混和した区はオリゼメート粒剤を6月に10a当たり2kgを1回散布した区よりも防除効果が高く、実用性を確認できた。

写真4

表13 稲わら設置畑に隣接する水田における各薬剤の葉いもち防除効果

写真5

図6 稲わらからのいもち病菌の伝染状況

・本技術の普及
スイカ圃場等では5月下旬~6月上旬に稲わらをマルチとして設置することから、周辺水田では、発病苗の持込み水田と同様に6月中旬には初発が確認された。そこで、これら水田ではオリゼメート粒剤(10a当たり2kg)の1回目散布は通常より早い6月上旬とし、2回目を6月下旬に散布することとした。また、側条オリゼメート顆粒水和剤は防除効果が高いことから10a当たり250g施用を持込みいもちに対応できる技術として提案し、活用されてきた。なお、その後の調査等で稲残渣(稲藁や籾殻)内のいもち病菌は戸外で越冬すると死滅することが判明し、マルチ等で使用する稲残渣は戸外で保管することを提案し、野菜生産者等から受理された。したがって現在ではオリゼメート剤の本施用技術は持込みいもち対策で活用されている。

写真6 戸外越冬ではいもち病菌は死滅する

・種子生産技術に活用
本技術(オリゼメート粒剤の10a当たり2kg施用2回散布及び側条オリゼメート顆粒水和剤10a当たり250g施用)は防除効果が高いことから、秋田県内に設置されている水稲採種圃場(約700ha)において、いもち病菌の保菌を回避する防除法として提案し、現在も活用されている。

3.「安全・安心・あきた米プロジェクト」におけるオリゼメート剤の位置づけ

1990年代以降、経営規模拡大や基盤整備による水田区画の拡大化に伴って粉剤や液剤の茎葉散布による適期防除が困難となり、葉いもち防除についてはオリゼメート粒剤をベースにした暦日防除に移行した。しかし、発病苗の本田への持込みが多い年はオリゼメート剤といえども完璧に葉いもちに対応できず、注意報・警報等が発令され、穂いもちの追加防除が行われてきた。
そこで、発病苗の持込み回避、すなわち育苗施設での発病防止技術を確立し4)、被害軽減の方向性を見いだした。

表14 年次別全般発生開始期の病斑分布状況

2000年代に入り生産者から省力・低コスト型の高品質米生産技術の確立が求められ、病害虫防除においては農薬のさらなる散布回数の削減技術の要望が高まった。また、消費者からも減農薬米のニーズが高まってきた。そこで、いもち病防除対策として育苗施設からの持ち込みを回避し、葉いもち防除をオリゼメート剤の減量施用で対応し、穂いもち防除を削減する技術を確立した4)、5)、9)ことを機会に、2003年、農業試験場内に「安全・安心・秋田米プロジェクトチーム」を結成した。本プロジェクトは県農林部(病害虫防除所含む)、各地域振興局農林部、病害虫防除員協議会、各JAの協力体制で結成され、取り組み課題は良食味米の効率的(省力・低コスト型)・安定生産をめざすための栽培技術の確立・普及をねらいとしたものである。病害虫・雑草防除の分野では薬剤散布回数の削減は勿論のこと防除作業の軽労化を目的とした技術の確立に取り組んだ。ここでは、いもち病の伝染源排除による効率的減農薬防除体系の現地試験の一例について記載する。

伝染源排除によるいもち病防除

試験方法(試験年度:2004年)

試験実施場所
横手市平鹿町明沢の水田が約30haが集約した地域
種子消毒
60℃、10分間の温湯消毒法。
育苗記防除
緑化始期にデラウス(ジクロシメット)顆粒水和剤の1,500倍液を育苗箱当たり500㎖かん注。
本田葉いもち防除
オリゼメート粒剤を10a当たり2kgを6月17日に散布。
穂いもち防除
なし

なお、稲稲残さ処理や防除作業等は全て生産者が実施した。

調査対照圃場
近隣の一般ほ場
防除体系
聞き取り調査結果
育苗期防除
2割程度の生産者がラブサイド剤を用いて1回防除している状態である。
葉いもち防除
オリゼメート粒剤を10a当たり2kgを6月中旬散布。移植時にオリゼメート剤(側条施用剤や箱粒剤)を施用、一部でデジタルコラトップ、ブイゲットの箱粒剤の使用確認。
穂いもち防除
出穂期以降3~4回散布(例年より葉いもち多く散布回数1~2回多い)

試験結果

当年の全般発生開始期は6月27日で例年より5日早かった。その後、7月中旬にかけて感染好適な気象条件が続いたことから葉いもちが多発し、一般ほ場では7月中旬以降、ズリコミ症状が確認されるようになり7月23日付けで警報が発令された。そこで被害を最小限にくい止めるべく穂いもち防除が追加されたが、いたるところで穂いもち発生による減収が認められた。このような発生経過の中で、本試験の対照としていた一般防除地域では7月26日には葉いもちの平均発病株率が61%と高く、1/3以上被害を被った罹病穂の平均発病穂率が7.1%であった。一方、一般圃場から500mほど離れた、試験地の明沢地区(伝染源排除のため育苗期防除を徹底し、葉いもち防除対策としてオリゼメート粒剤を2kg/10a施用)では16%の水田で葉いもち病斑が確認されたが、いずれも100mの見歩き調査9)で1個の葉いもち病斑が発見される程度で、病斑密度は著しく低かった。また、穂いもちについては72%の水田で発生が確認されたが、平均発病穂率が0.2%と極めて低く、1回分の穂いもち防除用農薬費に満たない被害であった。
以上のことから伝染源排除すなわち育苗期防除と本田葉いもち防除を組み合わせた体系は効果が高く、省力・低コスト型の防除技術になり得ると考えられた。

表15 伝染源排除による効率的防除体系試験(2004年)

写真7 現地検討会

・伝染源排除による効率的(減農薬)防除体系の普及
一般圃場においては近隣に伝染源(発病田)の存在を想定し、育苗期防除と本田葉いもち防除(オリゼメート粒剤、側条オリゼメート顆粒水和剤、コープガードD12の減量施用等)を組み合わせ、穂いもち防除を削減する体系とした。
これまでの基礎試験を踏まえ、2001~2006年にかけて現地(旧平鹿町明沢、鹿角市八幡平水沢、秋田市雄和左手子地区等)において大規模(30~100ha)な減農薬防除実証試験を計8箇所、延べ340haで実施した。その結果、いずれの年においても本防除体系を導入した圃場では他の圃場に比べ発生が少なく、より効率的な防除体系であることが実証された7)
本技術は2005年から普及体制に入った。その後、育苗施設からの持込みが少なくなったことから本田多発事例が少なくなり、いもち病による減収圃場が大幅に低下した。

図7 2006年いもち病による被害額(億)東北農政局報告

今年でオリゼメート粒剤は上市40周年とのこと。種々オリゼメート剤の開発は秋田県における省力・低コスト型いもち病防除技術の構築を導き、高品質な秋田米の安定生産に多大なる貢献をして下さったことに感謝いたします。

引用文献

  • 1)深谷富夫(1990):北日本病虫研報 41:17-22
  • 2)深谷富夫ら(1996):北日本病虫研報 47:156(講要)
  • 3)深谷富夫ら(2001):北日本病虫研報 52:11-13
  • 4)深谷富夫ら(2002):日植病報 68:209(講要)
  • 5)狭間 渉ら(1982):九病虫研会報 28:12-14
  • 6)本藏良三(1989):北日本病虫研報 40:18-19
  • 7)加藤雅也ら(2004):北日本病虫研報 55:37-39
  • 8)小林次郎(1984):秋田農試研報 26:1-84
  • 9)小林次郎(1986):植物防疫 40:429-432
  • 10)梅原吉弘ら(1972):北陸病虫研報 20:64-67
  • 11)山口富夫(1974):植物防疫 28(12):467-470

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