40周年記念企画

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耐性菌リスクと抵抗性誘導剤

独立行政法人 農業環境技術研究所 名誉研究員

石井 英夫

はじめに

イネの糸状菌病害では1970年代から1980年代にかけて、いもち病でカスガマイシンや有機りん剤、イソプロチオラン、ばか苗病でベンゾイミダゾール系薬剤に対する耐性菌を経験したが、その後長い間耐性菌問題は起こらなかった。ところが、2000年代になっていもち病でMBI-D剤(メラニン合成経路のシタロン脱水酵素を阻害)耐性菌が、そして最近はQoI剤(ミトコンドリア電子伝達系にある複合体Ⅲたんぱく質のQo部位に作用して呼吸を阻害)耐性菌が発達するに及んで、防除のあり方に大きな疑問を投げかけている。
一方、同じくメラニン合成阻害剤でも、MBI-R剤(還元酵素を阻害)には圃場レベルで耐性菌の確実な報告はない。さらに、過去40年の長きにわたって広く使用されている抵抗性誘導剤のプロベナゾール(商品名:オリゼメート、Dr.オリゼ)には全く耐性菌の報告がない。そこで、薬剤の耐性菌発達リスクを抵抗性誘導剤とからめながら論じてみたい。

1.近年の耐性菌事情

1)MBI-D剤耐性菌

「天災は忘れた頃にやって来る」。寺田寅彦博士によるこの有名な言葉ではないが、長らく耐性菌では無風状態であったいもち病に、新たな問題が持ち上がった。MBI-D剤耐性菌である。筆者が大塚範夫氏(当時、JA全農農業技術センター)と共に関係者の協力を得て設立した日本植物病理学会の殺菌剤耐性菌研究会は、第9回シンポジウムで「メラニン生合成阻害剤はなぜ耐性菌を生じないのか?」を課題として取り上げた(倉橋・山口、1999)。しかしその時点でも、この耐性菌がわずか2年後に現実のものになろうとはほとんど誰も予想していなかった。その意味で、2011年3月11日の東日本大震災やそれに続く東京電力福島第一原発の過酷事故とは異なり、「想定外」と言ってもおそらく許されるであろう。
では、なぜ我々はMBI-D剤耐性菌を予想出来なかったのだろうか?それは、先行して長く使われていた別のメラニン合成阻害剤つまりMBI-R剤に、少なくも国内では全く耐性菌が報じられていなかったからである。メラニン合成阻害剤のように感染を阻害するタイプの薬剤には、耐性菌が生じないのではないか?そのように思っていた。
MBI-D剤耐性菌の実態を少し思い起こしてみよう。カルプロパミド(商品名:ウィン)の入った箱粒剤を使ったにもかかわらず、早期にいもち病が多発した佐賀県から初めて耐性菌が検出されたのは2001年のことであった(山口ら、2002)。その後、同じ箱粒剤を連年使用した地域で独立発生的に、あるいは汚染種子の流通等によって耐性菌の分布は次々に拡大した。沖縄県を除く九州各県、四国、中国から、近畿、北陸、東海、関東東山さらに東北にまで及んだ。
これを受けて殺菌剤耐性菌研究会は遅まきながら「イネいもち病防除におけるQoI剤及びMBI-D剤耐性菌対策ガイドライン」を作成し、2008年4月に公表した(宗・山口、2008)。しかし、残念なことにこのガイドラインは十分に活用されず、2010年以降遂に北海道でもMBI-D剤耐性菌が広域に検出され、その分布は合計36道府県に及んでいる。そればかりか、次に述べるQoI剤耐性菌の発達まで許してしまった。

2)QoI剤耐性菌

1990年代後半に登場したQoI剤は、当初耐性菌リスクが不明であった。ところが、野菜、果樹病害を中心に、各国で耐性菌の報告が相次ぎ、その数は60以上を記録している(石井、2012)。このため、耐性菌発達は「次はいもち病」と誰もが予想出来たはずの、真に「想定内」の出来事であった。
2012年の初夏から西日本とくに中国、九州、四国で、オリサストロビン(商品名:嵐)を含む箱粒剤を使用してもいもち病が多発する地域が見られ、これに耐性菌が深く関与することが関係機関によって明らかになった(宮川・冨士、2013;石井・冨士、2013)。耐性菌の検出は最初に公表された山口県をはじめ、これまで14府県に上っている(2014年8月現在)。2014年も各地で夏季の多雨が報じられる中、いくつかの県からいもち病関連の警報や注意報が発令されている。
痛恨の極みとはこのことで、殺菌剤耐性菌研究会は2012年8月に改めて先のガイドラインを農林水産省植物防疫課経由で全国のすべての都道府県に配信し、ガイドラインの徹底を図った。それまでの経緯や対策については、2013年及び2014年の殺菌剤耐性菌研究会シンポジウムで取り上げられたほか、総説(石井、2014)もあるので参考にされたい。

3)耐性菌対策ガイドライン

耐性菌発達に至るこれまでの状況を見る限り、研究会のガイドラインに掲げたことが着実に行われていれば…との思いは強い。「QoI剤の使用は最大で年1回」や「採種圃場およびその周辺圃場ではQoI剤は使用しない」は当然として、とくに「育苗箱処理では連年使用は避け、可能な限り1年または2年おきに作用機構の異なる薬剤とローテーションで使用」の項目が遵守されていなかった。箱施薬に長期残効性を期待したとしても、耐性菌リスクの高い薬剤の場合、耐性菌に対する選択圧がより長く強く働く。そのことはMBI-D剤で経験済みであったにもかかわらず、その教訓が生かされなかった。
さらに、「耐性菌が検出された場合、薬効低下が認められなくても当該薬剤の使用を一旦中止する」としたガイドラインについても、実は県によって対応が異なる。QoI剤の使用を全県的に中止したところもあれば、そうでないところもある。MBI-D剤では、耐性菌を検出した当初はごく低率であったものが、翌年も同じ薬剤を使用したために耐性菌率が急速に高まり実際の被害を招いた例もあった。筆者は、QoI剤で同じ過ちを繰り返すことがなければと祈っている。とりわけ、十分な防除がなされない飼料用種子を他県に供給する場合、種子が耐性菌に汚染していれば、相手先がいかに対策を講じようとも耐性菌の持ち込み自体を防ぐことは出来ない。
近年、薬剤の利便性や眼前の経済的利益を優先するあまり、現実に問題が起こるまでその薬剤を使い続け、挙句の果てに耐性菌で台無しにしてしまうケースが目立って仕方がない。優れた薬剤をいとも簡単に葬り去ることで将来何が起こるのか、それに思いを馳せる想像力を養うとともに、使用制限を守ってより長く使用する工夫をしていただきたいものである。

2.耐性菌リスクの高い薬剤と耐性機構

1970年代初頭から内外で深刻な耐性菌問題を引き起こしてきたのはほとんど、特異作用点阻害剤と呼ばれる、ごく限られた作用部位を持つ薬剤に集中している。ベンゾイミダゾール系薬剤、MBI-D剤、そしてQoI剤などである。
またその裏返しとして、耐性のしくみも単純な作用点変異、つまり薬剤が作用するたんぱく質の遺伝子がごく一部突然変異し、それでアミノ酸の一部が変化して作用点たんぱく質に対する薬剤の結合が妨げられるというものが多い。薬剤が作用点と十分に結合出来なければ、効果も発揮されない。
いもち病菌のMBI-D剤耐性菌では、シタロン脱水酵素遺伝子の塩基配列に1つだけ変異が見られる(Takagaki et al., 2004)。そのような耐性菌が薬剤の使用で選択的に増殖し、やがて薬効低下を引き起こした。QoI剤耐性のいもち病菌でも、ミトコンドリア複合体Ⅲたんぱく質のQo部位(チトクロームb)の遺伝子がGGTという塩基配列からGCTに点突然変異を起こし、その結果143番目のアミノ酸がグリシン(G)からアラニン(A)に置き換わるG143Aが起こっていた(宮川・冨士、2013)。
このチトクロームbたんぱく質のG143A置換こそ、QoI剤に高度耐性をもたらすものとして、最も警戒すべきものであった。なぜなら、これは今回いもち病菌で見つかるずっと以前から、芝いもち病菌(Kim et al., 2003)を含む数多くのQoI剤耐性菌で検出され、高度耐性の主因とされていたからである(石井、2012)。イネいもち病菌のQoI剤耐性は、決して降ってわいた話ではなく十分予想され、それだからこそ筆者もQoI剤の使い方について機会あるごとに注意を呼びかけていた。

3.耐性菌対策と抵抗性誘導剤

特異作用点阻害剤とは対照的に耐性菌リスクが低いものに多作用点阻害剤がある。詳しくは研究されていないものの、その名のとおり多くの異なる作用点を持つ薬剤であるため、一般には耐性菌を生じにくい。仮に1つか2つの作用点が遺伝的に変化して薬剤から逃れたとしても、まだほかの作用点が残っていて耐性菌とはなれないのである。
病原菌に直接作用して殺菌効果を現わす特異作用点阻害剤に対して、病害抵抗性誘導剤には抗菌活性がないか、あっても低いものが多い。その代わりにこれらは、植物側に作用して植物の免疫機能を飛躍的に活性化させる。その際に植物は実に多くの防御応答をして総力を挙げて病原体に対抗する。
作物の病害抵抗性育種に関して「質的形質で主働遺伝子による真性抵抗性は、新たな病原菌レースの出現によってその抵抗性が打破されやすい。一方、量的形質で複数の微動遺伝子(ポリジーン)の支配を受ける圃場抵抗性は打破されにくい」と、多くの教科書に書かれている。つまり、抵抗性誘導剤には作物に圃場抵抗性を付与するような、ちょうどそんな働きがあるといえよう。

4.抵抗性誘導剤の作用様式と情報伝達経路

長らく耐性菌研究に携わってきた筆者であるが、実は我々のグループでも抵抗性誘導剤の作用機構や実用的な病害防除効果などについて研究してきた。ただし、対象としたのはイネでもプロベナゾールでもなく、キュウリやナシ、トマトとアシベンゾラルSメチル(ASM)の組み合わせであった。耐性菌問題がよく起こるこれらの作物に殺菌剤に代わる防除技術を導入し、耐性菌の選択圧を下げる上で抵抗性誘導剤が有効と考えたのである。
ベンゾチアジアゾール(BTH)系のASMは、プロベナゾールや後発のチアジニル(商品名:ブイゲット)、イソチアニル(同:ルーチン)と同様、防御応答に重要な植物ホルモンの一種サリチル酸の類縁体である。このため、サリチル酸(SA)を介した情報伝達系によって抵抗性を発現すると考えられている。
確かに、あらかじめキュウリにASMを処理すると、その後接種した炭疽病菌などに全身獲得抵抗性(Systemic Acquired Resistance、SAR)が速やかに誘導され、その過程でキュウリ体内のSA経路が活性化される。炭疽病菌の分生子発芽と付着器形成には影響しないが、

図1 イネにおけるサリチル酸(SA)とジャスモン酸(JA)の情報伝達系(De Vleesschauwer et al., 2013を改変)

キュウリ細胞壁のリグニン化やパピラ形成(カロース生成)が促進されて、菌はクチクラ層を突き破ってキュウリ内部に侵入出来なくなる。感染特異的たんぱく質の1つPR-1や、抗菌作用も知られる酵素キチナーゼやグルカナーゼの遺伝子発現も高まる(Narusaka et al., 1999)。それらの過程には活性酸素種の生成や消去も関わっている(Deepak et al., 2006; Lin and Ishii, 2009)。抵抗性誘導剤とはまさに、植物が防御応答機能を総動員して病原体から自身を守るのを手助けするものである。
最近、イネの防御応答とSAやジャスモン酸(JA)をはじめとする各種植物ホルモンとの関係について、優れた総説論文が発表された(De Vleesschauwer et al., 2013)。そこには、この分野で大きく貢献している我が国の理化学研究所や農業生物資源研究所などの研究者の論文も多数引用されている。この論文にある、SAとJAの情報伝達系の関係図を示す(図1)。
両シグナル伝達系はかつてそれぞれ独立性の高いものと考えられていたが、近年の研究でそれらの間には複雑なクロストークがあることが分かってきている。先のASMにしても、キュウリではSA系のみならずJA系遺伝子の発現を高めることが、筆者らのグループにより明らかにされた(Deepak and Ishii, 2012)。その意味でも、抵抗性誘導剤の作用機構にはいまだ不明の点が多い。

5.抵抗性誘導剤の作用機構と防除スペクトラム

プロベナゾールをはじめとする抵抗性誘導剤の作用機構は、岩田(2014)によって簡潔にまとめられている。中でも注目されるのは、SAシグナル伝達系における抵抗性誘導剤の作用点が、プロベナゾールはSAの上流に、一方チアジニルやASM、イソチアニルは下流にあると考えられる点である。このことから、イネの抵抗性誘導剤といえども、その働きには違いがありそうである(ただし、現在ASMには農薬としての国内登録がない)。
De Vleesschauwer et al.(2013)の総説論文に立ち戻ろう。SA経路の下流に位置し、抵抗性誘導に重要な役割を果たす転写因子、OsWRKY45が過剰に発現しているイネではいもち病や白葉枯病への抵抗性が大いに高まるが、紋枯病には感受性を示すという(Shimono et al., 2012)。しかし、JAではいもち病、白葉枯病に加えて紋枯病に対する免疫性も付与されるらしい。その一方でJAには、茎葉散布、根部処理のいずれにおいても、ペレニアルライグラスのいもち病感受性をむしろ高めたとの報告もある(Rahman et al., 2014)。抵抗性誘導剤に見られる防除スペクトラムや効果の違いは、それぞれの化合物が持つ微妙な作用機構の違いを反映しているのであろう。
全国一の種もみ生産県であり、日本一の種もみ供給県でもある富山県では、2013年度県病害虫防除指針から「QoI剤を含む箱施薬剤」が削除され、2014年度もこの薬剤を採用するJAはなかったという(守川、私信;鈴木ら、2014)。さらに、県農業研究所においては箱施薬剤として抵抗性誘導剤を使用するものの、1~3年おきに抵抗性誘導剤の種類を変更する念の入れようである。プロベナゾールやチアジニル、イソチアニルによる抵抗性誘導の過程では大きな転写変動が起こるが、これら薬剤の作用性や作用機構に微妙な違いがあることを見越した慎重な対応といえよう。
薬剤による全身抵抗性誘導の過程で、どのようなシグナル物質が植物体全体に行き渡るのかは大変興味深い。サリチル酸(SA)の上流でピペコリン酸が初期のSARシグナルに関わる可能性が指摘されている(Kachroo and Robin, 2013)。また、SA自体は移行しないが、これに由来するサリチル酸メチル(MeSA)あるいはSAが誘導するアゼライン酸、グリセロール-3-リン酸などは師管部(師部)を通じて運ばれ、協調的に働く(Veloso et al., 2014)ほか、これらを局所的に処理するとSARを誘導する。
SAのシグナル伝達系では転写補助因子のNPR1というたんぱく質が鍵となり、これが転写因子TGAと相互作用することにより防御応答に必要な数々の遺伝子が発現する。SAと結合する植物側のたんぱく質(レセプター)として、SAをMeSAに変換する酵素メチルエステラーゼが同定されたが、さらにNPR1自体やこれを介したSAへの反応を調節するNPR3やNPR4もリセプターとして提唱されている(Veloso et al., 2014;野元・多田、2013)。ASMやSAが誘導するいもち病への防御反応には、先にも述べた転写因子WRKY45が重要な役割を果たしている(Shimono et al., 2007)。
反対に菌のエフェクター(植物の防御に必要なたんぱく質の働きを抑えて発病に導く)は植物細胞膜のリン脂質に結合した後、離れた組織に移行して受容性の誘導を起こすらしい(Lapin and van den Ackerveken, 2013)。SARの誘導剤が植物クチクラの発達に貢献する可能性や、クチクラの構成物がSARシグナルの生成に関わることも指摘されている(Kachroo and Robin, 2013)。

6.抵抗性誘導剤に耐性菌が生じるとすれば

いもち病に対する真性抵抗性遺伝子を単独で導入したイネ品種には、これを犯す新たなレースがすぐに現れて、抵抗性の崩壊が起こる。そこで、真性抵抗性のみが異なり他の形質が片方の親と同じ同質遺伝子系統(マルチライン)を複数混ぜる栽培法が登場した(石崎ら、2009)。しかし理論的には、それさえ崩壊させるスーパーレースが出現する可能性もあるらしい。このため、マルチラインが広く普及した新潟県では、レース分布の変化を把握しながら、播種する系統の組み合わせを適宜変更している。
一方、抵抗性誘導剤はいもち病菌のレースに関係なく発病を抑制する。まるで非宿主抵抗性を連想させるが、抵抗性誘導剤の処理で、それぞれのレースが感染時に分泌するはずのエフェクターたんぱく質をイネが一つ一つ認識して、これに対抗出来るようにするのであろうか?
さて、もはや何事にも「想定外」は許されない。それが、3.11の大震災と事故を経験した我々の責務であろう。そうならば、どのようなことが起これば抵抗性誘導剤にも耐性菌が生じうるのか、あるいはなぜ抵抗性誘導剤が効かない場合があるのか?それを考えておくこともあながち無駄ではなかろう。
抵抗性誘導剤によって活性化される数々の防御応答反応を無効にするような「スーパーストレイン」は将来出現するのだろうか?たとえば、ジャスモン酸の類縁体として作用するコロナチンという植物毒素があるが、これは実験植物シロイヌナズナのサリチル酸依存性の防御システムを抑えることで、病原細菌Pseudomonas syringaeの発病を可能にしている(Brooks et al., 2005)。トマト青枯病菌Ralstonia solanacearumは感染時に、シグナル伝達の鍵となるサリチル酸やその中間体ゲンチジン酸を分解するので、これらに依存する防御応答を抑制する可能性がある(Lowe et al., 2014)。
病原性の決定因子として宿主特異的毒素(Host-specific toxin、HST)が知られるが、抵抗性誘導剤は一般に、HST産生菌による病害には効果がない。ASMがナシ黒斑病(病原菌:Alternaria alternata Japanese pear pathotype)やキュウリ褐斑病(同:Corynespora cassiicola)に効果がないことは筆者が確認している。前者の場合、ASMを処理しても分生子発芽が抑えられず、胞子発芽管や侵入菌糸からHSTのAK-毒素が分泌されてしまうために手遅れとなり、発病するのではないかと考えている。また最近、エンバクビクトリア葉枯病菌(Helminthosporium victoriae)の産生するHSTのビクトリンが、サリチル酸による抵抗性誘導を阻害すると報告されている(Lorang et al., 2012)。
病原菌の中にはABC(ATP-Binding Cassette)トランスポーターやMFS(Major Facilitator Superfamily)トランスポーターを使って、自身の細胞内に入って来た薬剤などの異物を体外に排出するものがある。このしくみは、作用機構の異なる各種薬剤に対する多剤耐性(Multidrug Resistance、MDR)に関係する。ただし、通常は耐性レベルが低いことから、圃場で起こる薬効低下に影響を及ぼす可能性は低い。また、病原菌のABCトランスポーターはファイトアレキシン(感染に伴って植物体内で増大する抗菌性の低分子化合物など)への対抗手段としても知られている(Schoonbeek et al., 2001)。抵抗性誘導の過程では、植物中でキチナーゼなどの溶菌酵素をはじめ多くの物質の生成が増大するが、これらを一気に排出出来れば、その菌は「耐性菌」になるかも知れない。

おわりに

抵抗性誘導剤は比較的最近まで海外で大きく注目されることはなかったが、我が国ではベストセラーのプロベナゾールで40年間の使用実績がある。これを受けて、チアジニルやイソチアニルも登場した。耐性菌対策として、またIPMを実現する上での有効なツールとして、抵抗性誘導剤がイネのみならず野菜、果樹などの他作物にも今後更に広く活用されることを心より期待している。また、よもやとは感じるものの、抵抗性誘導剤に対する「耐性菌」出現の可能性についても引き続き関心を持ち続けたい。
最後に、今回執筆の機会を与えていただいたMeiji Seika ファルマ株式会社 生物産業事業本部の齋藤好明氏をはじめ、関係者の皆様に深謝申し上げる。

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