40周年記念企画

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近年の山形県におけるいもち病防除を取り巻く状況と今後について

山形県農業総合研究センター 食の安全環境部 開発専門研究員

横山 克至

山形県における水稲の作付面積は全国と同様に減少傾向であるが、県の米の産出額は農業生産全体の産出額の約4割を占めており(2011年)、依然として基幹的な作物である。そのため、米価の低下に対応した生産性の高い米づくりが求められており、近年は農地の集積が進み、大規模稲作農家・経営体による生産が増えている一方、大規模稲作経営ほど米価変動の影響を受けやすく、産米の高付加価値化とともに低コストに向けたあらゆる検討が必要となっている。病害虫防除についても、省力化、低コスト化へのニーズが強まるとともに、特別栽培に代表される農薬使用低減の取り組みも拡大しており、従来のような早期発見・早期防除を基本とする防除体系が難しくなりつつある。そのため、稲作農家が抱える背景をふまえたうえで、いかに適切な病害虫防除を行うかが模索されている。

山形県のいもち病発生面積の推移と特徴

近年、山形県のいもち病の発生面積は少ない傾向にあり、1980年以前は葉いもちの発生面積率が60%を超える年次がみられたが、その後は少発生傾向であり、最近10年間(2004~2013年)の発生面積率の平均は、葉いもちが6.9%、穂いもちが2.0%となっている(図1)。
いもち病の発生には気象的な要因が大きいが、葉いもち発生予測システムBLASTAMの感染好適条件の出現状況についてみると、2004年以降はむしろ出現日数が多い傾向となってお

図1 山形県におけるいもち病発生の推移

図2 山形県内のBLASTAM感染好適条件の月別出現累積日数(アメダス20地点合計)

山形県におけるいもち病防除の体系

山形県では従前から現在に至るまで、いもち病が最も重要な水稲病害であることは変わらないが、近年は特別栽培への取り組みが拡大しており(図3)、限られた農薬成分回数の中で防除する場合が多くなっている。そのため、事実上多発生時の追加防除は行わず、予防的な防除体系が基本となり、特に育苗箱施用剤や水面施用剤による葉いもちの予防防除の重要性が増してきている。
山形県における標準的ないもち病防除体系は、育苗箱施用剤または水面施用剤による葉いもち防除と穂孕後期および穂揃期の2回の穂いもち防除からなる体系である。最近10年間(2004~2013年)の葉いもち防除回数(延防除面積/実防除面積)の平均が1.2回、穂いもち防除回数の平均が1.8回であり、多くは標準的な防除体系が実施されていると推察される。葉いもちの発生が多い年次には複数回の葉いもち防除が必要であり、上位葉に病斑がみられる場合には穂揃期1週間後の追加防除が必要であることを考えれば、前述のとおり葉いもちの予防防除を主体とした現在の防除体系が少ない防除回数で安定した防除効果が得られる効率的な防除体系であると考えられる。

図3 山形県内の特別栽培米作付面積の推移

山形県における水稲作付品種の変遷

いもち病の防除対策を考える上で作付品種のいもち病抵抗性は重要である。山形県では1990年代前半までは、いもち病抵抗性が葉いもち「やや弱」、穂いもち「弱」の「ササニシキ」が主体で、その後、いもち病抵抗性が葉いもち、穂いもちとも「中」の「はえぬき」が主体となった。県内の過去10年間の品種の作付割合をみると、2002年は「はえぬき」62.9%、「あきたこまち」10.2%、「ひとめぼれ」10.1%、「コシヒカリ」7.8%、「ササニシキ」4.8%で、2012年は「はえぬき」60.3%、「ひとめぼれ」11.6%、「つや姫」10.3%、「コシヒカリ」8.8%、「あきたこまち」5.0%であり、近年「つや姫」の作付が増加している以外は品種構成には大きな変化はない。「つや姫」のいもち病抵抗性は、葉いもち、穂いもちとも「強」であるが、その他の主要品種は「中」~「弱」である(表1)。

表1 山形県奨励品種(水稲)等のイネいもち病抵抗性  (「稲作指針」より抜粋)

また、各品種のいもち病真性抵抗性遺伝子型をみると、「ササニシキ」がPi-a、「はえぬき」および「あきたこまち」がPi-aおよびPi-i、「ひとめぼれ」がPi-i、「コシヒカリ」が+、「つや姫」がPi-iおよびPi-kと推定されており、これらの品種の作付変化にともない(表3)、いもち病菌レースの変化もみられた(表2)。1991年はレース003の比率が61%で007が34%であり、003が優占していた(小泉ら,1992)が、1993年はレース003の比率が26%で007が65%、1994年は003が31%、007が69%となり007が優占した(佐藤ら,1995)。さらに1997年は003が1%、007が87%となった(本田ら,1998)。1990年代に「ササニシキ」主体から「はえぬき」主体へと品種作付割合が変化していったとともに、1991、1993、1995年はいもち病の発生が多い年次となったことから、Pi-iの品種を侵すレース007の比率が急速に拡大したと考えられる。また、近年はPi-kの遺伝子型を持つと推定される「つや姫」が約10%の作付比率となっており、レース007が優占しているもののレース037の分布が拡大傾向である(越智ら,投稿中)。
一方、山形県ではいもち病に対する高い圃場抵抗性を有する新品種「山形95号」について、従来の基本防除体系(葉いもち1回+穂いもち2回)より1回少ない葉いもち1回+穂いもち(穂孕後期~出穂期)1回を基本防除体系とし(越智ら,第57回東北農業試験研究発表会講演予定)、現地での普及を図っている。「山形95号」は良食味・高品質で高いいもち病抵抗性を有する品種であることから、より環境保全型農業に取り組みやすく、特徴のある販売につながるものと期待されている。

表2 山形県におけるいもち病菌レースの推移

表3 山形県で作付される主要イネ品種のいもち病真性抵抗性推定遺伝子型と作付面積率の推移
(「米に関する資料」より作成)

山形県におけるMBI-D剤耐性いもち病菌の発生について

山形県では2004年にシタロン脱水酵素阻害型メラニン合成阻害剤(以下、MBI-D剤)に低感受性のイネいもち病菌が初めて圃場で確認された(早坂ら,2006)。その後、2005年には調査した広域合併前の21市町村中10市町村で確認され(早坂ら,2006)、2006年は36市町村中27市町村、2007年は29市町村中22市町村と県内全域でMBI-D剤耐性菌が確認された(上野ら,2008)。このことにともない、山形県内のMBI-D剤の使用面積割合は2005年の約33%をピークに減少に転じ、2007年には約4%となり、現在ではほとんど用いられていない。
近年は他県においてストロビルリン系薬剤(以下、QoI剤)の耐性イネいもち病菌が確認されており、育苗箱施用剤が葉いもち防除の中心となっている山形県では耐性菌出現を未然に防ぐために対策を徹底する必要があると考えられた。2008年には日本植物病理学会殺菌剤耐性菌研究会から「イネいもち病防除におけるQoI剤及びMBI-D剤耐性菌対策ガイドライン」が公表されており、この中に示されている対策について県全体での取り組みを進めている。

山形県における今後のいもち病防除について

冒頭で述べたとおり、山形県における水稲の病害虫防除を取り巻く状況は、稲作経営の大規模化を基調とした省力・低コストのニーズと環境保全型農業の拡大にともなう農薬使用低減のニーズが年々強くなっている。一方で、いもち病は依然として山形県の最重要病害であり、多発生となれば作柄に大きく影響し、農家経営に大きな影響を及ぼしかねないため、必要な防除を確実に実施することも重要である。また、山形県では「総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指標(水稲)」の中で、他の病害虫については防除要否判断基準に基づく防除を基本とするものの、いもち病については予防防除が基本であり、発生してからの防除より予防防除のほうが結果的には防除回数が少なく、効率的な防除方法であると位置付けている。これらのことから、山形県では今後とも育苗箱施用等による葉いもちの予防防除と穂孕後期および穂揃期の2回の穂いもち防除が基本となると思われる。
なお、現状で求められている防除体系は、少ない防除回数によるいもち病防除であるため、長期残効性の薬剤の開発や普及に対するニーズがさらに強まると考えられる。しかし、長期残効性で防除回数が極端に少なくなると耐性菌出現の懸念が大きくなる。今後はプロベナゾールのような抵抗性誘導剤の効果的な活用や、高いいもち病抵抗性を持つ品種の導入など、生産コストを上げることなく実施可能な技術を組み合わせた総合的な対策が重要であると考えられる。
さらに将来的には、極端な大規模稲作経営を想定した低コストで省力的な防除体系や、極端に防除回数を減らした防除体系など、新たな技術開発に基づく防除体系の構築が求められることが予想される。今後は水稲品種開発や栽培技術開発、農業機械などの他の研究分野と病害虫分野がこれまで以上に連携して技術開発に取り組む必要がある。

引用文献

  • 1)早坂剛(2003):北日本病虫研報 54:7-11
  • 2)早坂剛・菊地繁美(2006):北日本病虫研報 57:215
  • 3)本田浩央・本間隆・佐藤智浩・内藤秀樹(1998):北日本病虫研報 49:5-7
  • 4)小泉信三・武田真一・佐久間比路子・根本文宏(1992):北日本病虫研報 43:7-8
  • 5)越智昭彦・横山克至(2014):北日本病虫研報 65(投稿中)
  • 6)佐藤健治・佐藤智浩・齊藤初雄・園田亮一・芦澤武人・内藤秀樹・根本文宏(1995):北日本病虫研報 46:6-7
  • 7)新・米づくりやまがた日本一運動本部・山形県農林水産部(2010):稲作指針
  • 8)上野清・早坂剛(2008):北日本病虫研報 59:222
  • 9)山形県農林水産部県産米ブランド課・山形県産米改良協会連合会(2014):米に関する資料

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