散布技術の進化とオリゼメート 機械化の進展とともに

機械化の進展とともにオリゼメートを取り巻く環境も進化をしてまいりました。このコンテンツでは、その機械化の変遷とオリゼメート散布技術の進展、水稲作における農薬と散布機の現状と展望、そして有人ヘリコプターやラジコンヘリコプターを活用した空中散布をテーマにした内容をご紹介します。

6.粒剤散布と今後の農薬散布技術

図6 乗用管理機に搭載された粒状物散布装置(散布幅15m)の例

粒剤や粉剤散布では、背負式動力散布機が使用される事が多いが、類似する背負式動力噴霧機による液剤散布に比べて、散布量(質量)が少なく、機体も小型軽量となり、作業者への負担が少ない散布技術である。例えば、「1キロ粒剤」では、その名のとおり、10a当たり1kgの薬剤を散布するのみであるが、動力噴霧機を用いた一般的な液剤散布では、10a当たり100L程度と、質量で100倍程度の非常に大量の資材を散布していることになる。また、粒剤には「3キロ粒剤」もあるが、こちらでも、液剤の通常散布(多量散布)に比べて1/30程度の量である。すなわち、粒剤散布は、通常の液剤散布と比べて、極めて効率的な「少量散布」を実現している。

本来の「少量散布」は、液剤散布に位置付けられており、ブームスプレーヤ等の高性能な液剤散布機を用いて行われ、欧米では既に一般的な散布技術として定着している。我が国でも水稲用には数十種類の農薬が少量散布用として登録されており、北海道の水稲作地域などを中心に、乗用管理機に搭載する方式のブームスプレーヤ(散布量25L/10a設定における速度連動式噴霧装置を搭載)による水田内防除が行われている。また、畑作においても、テンサイ、馬鈴薯、小麦等の畑作物に対して少量散布用農薬の登録が進められており(散布量は25L/10a程度が主体)、大規模な畑作地域である北海道などでは、一層多くの作物に対して少量散布が可能となる事が要望されている。

ここで、液剤散布機(すなわち、動力噴霧機)の作業幅は、国産の散布機の場合、大型のものでも10~15m程度であるのに対して、背負い動力散布機による粒剤散布では、多口ホース噴頭を使用することができ、この場合、作業幅30m以上が可能となり、作業能率も非常に高い方法である。なお、この方法では、作業者は散布機本体側と多口ホース噴頭の先端側にそれぞれ1名ずつ、計2名が必要であるが、さらに省力的な散布方法としては、乗用管理機に搭載された粒状物散布装置(図6)を用いる方法がある。

この方法では、作業者は散布機の運転者1名のみで、省力的で高能率かつ作業負担の少ない粒剤散布作業が可能である。また、水稲作における田植作業に特化した乗用田植機を利用する方法とは異なり、乗用管理機が走行可能な地耐力があるほ場であれば、水田であれ畑であれ、粒剤散布作業を効率的に行うことができる。このため、大規模化とともに栽培の多様化が進む我が国の農業現場においては、今後、乗用管理機を用いた粒剤散布作業が広く行われていくものと予想される。

粒剤のもう一つの特徴は、ドリフト発生リスクの低さである。農薬散布時における薬剤粒子は、細かいほど飛散、すなわち、ドリフトの発生リスクが高くなることが知られているが、粒剤は、1粒の粒径が0.3〜1.7mm(300~1,700μm)程度あるとされ、粉剤粒子の粒径20~30μmと比較すると、遙かに大きな粒子であり、ドリフト発生リスクが極めて低い剤型である事が確認されている7)。このため、農作物の農薬残留基準におけるポジティブリスト制度施行後の農薬散布作業時におけるドリフトに起因とする生産現場への危被害発生の防止対策が懸案となって以降、ドリフトの極めて少ない剤型として、生産現場におけるドリフト対策において、大きな貢献をしてきたものと考えられる。

なお、粉剤については、その粒子が、液剤散布機(動力噴霧機)で使用される慣行のノズルの噴霧粒子よりも細かく、ドリフト発生リスクが極めて高い事が確認されている8)。このため、ドリフト防止の観点から、何らかの対策が必要とされて来たが、粉剤は液剤散布におけるノズルとは異なり、散布機器で粒径を制御することが困難であることから、どのように対応するかが課題となっていた。そこで、(社)日本植物防疫協会では、全農、農薬ならびに防除機メーカー各社と共同で、粉剤に比べて大幅にドリフトを低減できる「微粒剤F」という剤型の薬剤の開発を行った。「微粒剤F」は、粒子径の範囲が60~200μmとこれまでの粉剤(DL粉剤)の粒子径に比べて3〜10倍の大きさがあり、ドリフト低減効果が飛躍的に向上している。同剤は、従来の粉剤や粒剤と同じく、背負式動力散布機を用いて散布が可能となっている。ただし、散布機本体に接続して用いるホースや噴管は専用タイプに取り替えて使用する必要がある。同剤は、これまでに数剤が登録され、今後も登録薬剤の追加が検討されており、普及を目指した取り組みが行われている。

さらに、既に進められている水稲作における大規模化、コスト削減に加えて、転作拡大による多様な作物栽培が行われる複合的な経営等においては、複数の栽培作物を栽培する過程で、肥培管理、病害虫・雑草防除等の生育管理に加えて、複雑化する作業計画・人員や資材の配置・配分への対応、収穫物の品質や安全性の確認、あるいは、生産物価格の市場状況や経営分析等、多種多様かつ大量の情報やデータを効率的に管理・分析し、それを運用するシステム等が農業者に必要となる時代が近づいていると思われる。ここで特に、農薬に関しては、適正な使用による安定した効果と安全性の確保とともに、消費者に対する信頼性確保等の観点から、作業履歴情報の管理・運用が現場に求められると考えられる。ここでは、いわゆる、GAPの取り組みなどが該当するであろう。この時、従来の帳簿的な管理方法では対応しきれないことは明白であり、農業者(経営者)が、効率的な作物生産と農業経営を実現していくために、情報やデータを効率的に管理・運営するための情報・通信技術(いわゆる、ICT技術)の農業部面への応用技術についても今後一層注目すべきと考えている。

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