Dr.岩田の植物防御機構講座

植物の持つ防御機構についての最新の知見とプラントディフェンスアクティベーター(植物防御機構活性化剤)についての最新の知見を総合的に学習ができるコンテンツです。

第1章:植物と病気

第1章 植物と病気(3)

植物の病気の種類;病徴・症状で分けると

植物は、病気にかかるとさまざまな病徴、症状を現します。そして植物の病名は、主に肉眼的な病徴、症状により名づけられています。その例を、表1-1に示しました。

表1-1 植物病害の病徴・症状と病名

悪臭をともなってニンジンやタマネギをドロドロに腐らせる軟腐病や、草木のうどんこ病は、身近に“体験”できる病害です。また、変わったところでは、果実に病原菌が感染したため甘みが薄くなるブドウ“味無果(あじなしか)病”、胞子が詰まった病変部を押しつぶすと生臭い異臭がするのでコムギ“なまぐさ(腥)黒穂病”のように病徴ではなく性状に基づいて名づけられた病名もあります。
植物の病名は、病徴や性状に宿主植物名を片仮名でつけて表すことになっています。例えば、ニンジン軟腐病、タマネギ軟腐病、バラうどんこ病のようにです。
このような名づけ方は、見た目の病徴や性状と病気の名前が一致するので覚えやすく、病名の診断もしやすくなっています。しかし、実際の病徴は発病の進展にともなって変化することが多く、病気が蔓延すると他の微生物による二次感染がおきて診断が著しく困難になります。また、植物の抵抗性の程度や環境条件によっても病徴は微妙に異なるので、診断に際しては注意が必要です。病原菌の分離を試みる場合は、病斑部と健全部の境目から試料を採取するのがよいとされています。

植物の病気の種類;感染・発病部位で分けると

植物の病気は、感染や発病部位の違いで根の病気、葉の病気、果実の病気などと分けることができます(表1-2)。

表1-2 植物病害の感染・発病部位と病名

根の病気は、主に土壌中に生息している病原菌の感染によっておこります。また、根から侵入した病原菌は、導管に入り込んで導管を閉塞させそれにより地上部を萎凋(いちょう)させるなど地上部へ影響を与えることがあります。土壌病害は、一般に防除が難しいといわれており、いわゆる難防除病害とされる病害が多くなっています。
葉に病原菌が感染して病斑が形成され時には葉枯れが生じると、生育が抑制され減収となります。また、葉菜類では、商品価値を損ねることにもなります。
病原菌が穂、花、種子、果実に感染して発病すると、種子や果実の収穫量が減り、花卉や果実の商品価値が著しく低下します。また、病原菌に汚染された種子は、翌年の伝染源ともなります。

被害の大きい病害は?

農薬登録のときに農林水産大臣から農薬会社に交付される「農薬登録票」には、その農薬の適用病害虫名や使用方法などが記載されています。そこで、各種薬剤の農薬登録票に記載されているイネ病害名を集計してみますと約30種となります。この数字は、実際には防除されていないものも含めた日本で発生しているイネ病害のおおよその数をあらわしていると思われます(“植物と病気(1)”で述べた「80種」は、これまでに発生が報告されている病原菌の数を示したものです)。そのなかでも防除面積の広い主要病害を、表1-3に示しました(農薬要覧2011年版、日本植物防疫協会)。

表1-3 イネの主要病害(2010年)

表1-3に示した病害のなかで、もみ枯細菌病以外は糸状菌によるものです。最も重要な病害はいもち病で、イネの生育ステージにより感染部位が異なるため葉いもち、穂いもちに分けられ、それぞれ別々に防除されます。この病気は発生すると被害が大きいため複数回防除することが多く、いもち病に対する延べ防除面積は、毎年350万ha前後になります。苗立枯病は、数種の病原菌により引き起こされ、種子消毒や薬剤の育苗期処理によって防除されます。紋枯病は、発生しても実質的な被害が軽度な場合が多く、発生面積の割には防除面積が少なくなっています。
イネ以外の作物、野菜、果樹の主要病害を、表1-4に示しました。

表1-4 作物別の主要病害

疫病、べと病、うどんこ病、灰色かび病は、広範囲の作物・果樹で発生している病気です。しかし、このなかで、灰色かび病以外の病原菌は、同じ病名でも植物種が異なると病原菌が異なる場合があります。例えば、キュウリべと病菌はPseudoperonospora cubensisですが、ハクサイべと病菌はPeronospora parasitica、ブドウべと病菌はPlasmopara viticolaです。

ムギの赤かび病は、主として穂に発生し時には不稔やくず麦などを生じさせます。しかし、本病は収量にほとんど影響を生じない少発生の場合でも注意が必要です。それは、原因菌(複数ある)が、ヒトや家畜に対して有害なマイコトキシン(かび毒)であるデオキシニバレノール(DON)を生産するからです。そのため、収穫物中(玄麦)に許容されるDON濃度の暫定基準値(1.1ppm)が設定されており、それを超えたものは流通させることができないことになっています。
作物や果樹に発生する主要病害は地域や国により異なります。例えば日本ではイネいもち病が最重要病害ですが、ヨーロッパではコムギふ(稃)枯病、ブドウべと病が重要病害となっています。これは、栽培されている植物種、気候などの違いのほか、日本ではイネが主食用に栽培され、ヨーロッパではコムギが主食用にブドウはワインの原料用に大面積で栽培されているように、作物の経済的な位置づけがそれぞれの地域や国で異なるためです。

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