Dr.岩田の植物防御機構講座

植物の持つ防御機構についての最新の知見とプラントディフェンスアクティベーター(植物防御機構活性化剤)についての最新の知見を総合的に学習ができるコンテンツです。

第2章:病気を防ぐには

第2章 病気を防ぐには(2)

主因(病原菌)を制御する方法

2.生物的方法-1(微生物の利用)

生物的防除法は、自然界の生物間の関わりあいを農業に活用したもので、微生物など生物の力を借りて病害虫を防除するものです。化学農薬の代替技術のひとつとして重要な位置を占めつつあります。日本の農薬取締法では米国と異なり、天敵昆虫や微生物も農薬として取り扱われることになっています。現在(2012年6月)、31種の微生物製剤が殺菌剤として農薬登録されています。
生物防除に用いられている微生物は、
(1)病原菌と栄養源や生育場所を競合することにより拮抗的に働く
(2)抗菌物質を分泌する
(3)病原菌に寄生したり、捕食、溶菌する
(4)植物の病害抵抗性を強くする
などの性質をもっています。
(1)は、微生物農薬には病原菌を直接攻撃する力はないもののある種の病原菌と植物の表面で棲(す)む場所と栄養の奪い合いをするため、高濃度に散布された微生物農薬に比べ数の少ない病原菌は棲む場所や食糧が得られなくなって排除され、結果的に植物が病原菌からガードされる現象です。
防除のメカニズムが主として(1)~(3)にあり病原菌の密度を減少させている(主因を小さくしている)と思われる主な微生物種を表2-2にまとめました。

表2-2 殺菌剤として農薬登録されている微生物

最近の微生物農薬の進歩は著しく、しかも防除効果の高い製剤が多くなってきています。納豆菌の仲間であるBacillus subtilisが微生物農薬として既に使用され、漬物などから分離した食経験のある乳酸菌の利用も検討されるなど、意外と身近な微生物が活用されています。散布剤だけでなく種子消毒剤も開発され、使用方法も多様になってきています。表2-2に示した微生物の一部には、植物の抵抗性を誘導する作用もあると考えられています。

微生物農薬の長所として、
(1)作用がマイルドである
(2)安全性が高い場合が多い
(3)天敵生物、有用生物に対し悪影響が少ない
(4)選択性・特異性が高く標的生物のみに有効である
(5)クリーンなイメージがある

などをあげることができます。短所としては
(1)遅効的で効果が不安定である
(2)スペクトラムが狭く防除対象が限定される
(3)処理適期幅が狭く適期以外では効果が著しく劣る
(4)製剤中で徐々に生菌数が減少するため長期保存が難しい

などをあげることができます。このように微生物農薬の作用に関しては長所と短所が表裏の関係にあり、ときには長所が短所となる場合があります。
微生物製剤を利用する場合は、これら微生物製剤の性状を理解し長所を生かすような工夫が必要と思われます。

3.生物的方法-2(ネギ属植物との混植)

昔から栃木県のユウガオ栽培地帯では、ネギと一緒にユウガオを栽培するとユウガオのつる割病の発生を少なくすることができるということが知られていました。栃木県農業試験場の研究により、ネギ属植物の根から分泌される有機物などを栄養源として根の周りで根圏細菌Pseudomonas gladioliが増殖し、この細菌が病原菌(Fusarium菌)と拮抗するためつる割病の発生が抑えられるということが分かりました。この研究成果は、メロンやイチゴのFusarium菌による土壌病害を軽減するためにネギ属植物との混植という方法で各地で応用されています。民間伝授法が研究者の熱意により科学的に裏打ちされ、応用範囲がさらに広がった好例です。これも生物的防除法のひとつといえるでしょう。

4. 物理的方法(お湯・太陽熱・光・色の利用)

温湯や太陽熱を利用して物理的に病原菌を殺菌あるいは不活性化する方法は、農薬のなかった時代から生活の知恵的に工夫され防除に活用されています。そして、最近ではそれらの方法がさらに改良され、新たな方法も考え出されています。
例えば、種子に付着している病原菌数を減らすため種子を熱いお湯に短時間浸す温湯処理法は古くから用いられていましたが、最近では、対象病害別により効果が確実な条件が開発されてきています。長野県農事試験場が開発したイネの種子伝染性の4病害(ばか苗病、いもち病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病)を同時に防除する方法は、種籾を「60℃のお湯に15分間浸し、その後水で直ちに冷やす」というものです。保菌率が高い場合には、これに食酢を併用する方法を開発した試験機関もあります。
ビニールハウスなどの施設栽培では、同じ施設を繰り返し使用するため土壌病原菌が蓄積する傾向にあります。こうした施設では、夏場に使い古したビニールシートで土壌表面を被覆すると土壌温度が40℃以上に達し、多くの土壌病原菌を死滅させることができます。この方法は、害虫の駆除や除草にも有効です。
野菜類のウイルスを媒介するアブラムシ類・アザミウマ類は、白色や銀白色を嫌う傾向があります。シルバーマルチや銀白テープの利用は、これらの害虫を忌避する効果があります。
病害防除効果が認められているリンゴやナシの袋かけ栽培や、翌年の伝染源となる被害残渣を取り除くことも、物理的防除法のひとつです。
最近は、手法は物理的であるがメカニズムは「植物の抵抗性を誘導する」ことにある防除法がいくつか開発されています。イチゴのうどんこ病防除に、紫外線(UV-B)を照射する方法が兵庫県立農林水産技術センターで開発されました。これは紫外線の殺菌力でうどんこ病菌を死滅させることを目的としたものではなく、植物が紫外線ストレスを受けることによって防御系を活性化させることを利用したものです。茨城大学の佐藤達雄准教授は、ビニールハウス内の野菜が短時間(数分間)45℃程度の高温にさらされると、病気にかかりにくくなることを発見しました。調べてみると、植物が高温ストレスを受けたことにより免疫システムが活性化されていたためと分かりました。佐藤准教授はこの研究を発展させて、野菜にお湯を散布することにより「野菜も風呂に入ると風邪をひかない」を実現する技術の確立に取り組んでいます。

5.耕種的方法(輪作の導入)

耕種的防除とは、作付けする作物の種類・品種を工夫する、作付け時期を調整する、輪作を取り入れるなど栽培やその管理を工夫することにより病害の発生を軽減・回避する方法のことをいいます。
同じ作物を何年にもわたって繰り返し栽培すると、土壌病原菌が蓄積してきて収穫量が徐々に減ってきます。いわゆる連作障害です。このような場合に、異なった種類あるいは遠縁の作物を組み合わせて輪作を行うと、土壌中の病原菌の増加を回避することができます。このような組み合わせに加え、さらにトマトなど実を取る果菜類、ニンジンなど根を収穫する野菜、ハクサイなど葉を利用する野菜などに分けて組み合わせることも効果的であるといわれています。輪作も主因を小さくする(病原菌数を減らす)手法のひとつです。しかし、最近は、ブランド力をもたせるため生産団地をつくってダイコンやハクサイなど同じ野菜を毎年繰り返し栽培する地域が増加し、これらの地域では輪作の導入が難しい状況になってきています。

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