Dr.岩田の植物防御機構講座

植物の持つ防御機構についての最新の知見とプラントディフェンスアクティベーター(植物防御機構活性化剤)についての最新の知見を総合的に学習ができるコンテンツです。

第3章:植物の病害防御機構

第3章 植物の病害防御機構(3)

<植物と微生物の相互関係(上級編)>
植物に侵入しようとする病原菌とそれから身を護ろうとする植物との両者のせめぎあいについて、少し詳しく解説します。複雑な内容となりますので、「上級編」としました(植物と病原微生物の相互関係について、興味をお持ちの方向けです)。

先に、動的抵抗性は、一般的には、抵抗性遺伝子に主導されると述べましたが、それ以外にも、エリシターとよばれる物質によっても誘導されます。
抵抗性遺伝子に支配される抵抗性と、抵抗性遺伝子に支配されない抵抗性(非特異的エリシターにより誘導される抵抗性)について、以下に述べます。

抵抗性遺伝子に支配される抵抗性

抵抗性遺伝子の役割は、病原菌が侵入してきたことを感知(認識)して、それを実際の防御実行部隊に連絡することにあります。抵抗性遺伝子によりつくられた蛋白質の多くは、細胞膜を貫通して細胞の外と内とをつなぐような形態をしていると考えられています。さらにその多くはNBS-LRR(NBS;nucleotide-binding site=核酸結合部位、LRR;leucine-rich repeat)配列をもっており、LRRの部分で、病原菌の非病原力遺伝子(avr 遺伝子)によりつくられた蛋白質(avr蛋白質)を直接的にあるいは(多くは)間接的に病原菌の侵入として認識します。抵抗性遺伝子によりつくられた蛋白質が病原菌の侵入を認識した後、そのシグナルが防御に関与する遺伝子群を活性化し、植物体は耐病性となります(図3-5)。

図3-5 抵抗性遺伝子に支配された抵抗反応

Avr蛋白質;病原菌の非病原力遺伝子(avr)によりつくられる蛋白質
Avr認識蛋白質;宿主の抵抗性遺伝子によりつくられ、病原菌のavr蛋白質と結合する蛋白質
(この蛋白質の多くはNBS-LRR配列をもっており、上図には描かれていないが細胞膜を貫通しているものが多い。その場合、細胞膜の外側に出た部分でavr蛋白質と結合する)
活性酸素は、細胞膜NADPH oxidase系で酸素が還元されて発生する

抵抗性遺伝子によりつくられた蛋白質が、細胞内に留まる例も知られています。その場合、細胞内の抵抗性遺伝子産物と細胞膜を貫通する植物因子が結合した状態で存在し、細胞膜貫通因子で病原菌のavr蛋白質を認識します。Avr蛋白質が認識されると、抵抗性遺伝子産物と細胞膜貫通因子は解離し、遊離した抵抗性遺伝子産物によって抵抗反応が開始されます(この事例では、抵抗性遺伝子産物が細胞膜貫通因子をガードしていたと表現されます)。
研究が進むと、もっと多くの複雑な様式が見つかると思われます。

2. 抵抗性遺伝子に支配されない抵抗性
(非特異的エリシターにより誘導される抵抗性)

エリシターについては、第二章の「病気を防ぐ方法」の中でも述べましたように、病原菌が感染するときに病原菌から切り出された細胞壁や細菌の鞭毛などの構成成分が、植物の防御反応を開始させるスイッチとしてはたらきます。これは、植物が病原菌の侵害から逃れるために病原菌に特有な成分を認識する能力を獲得したためと考えられます。病原菌あるいは微生物に特有で基本的な構成成分のことを、「Pathogen-Associated Molecular Patterns;PAMPs(パンプス)」 あるいは「Microbe-Associated Molecular Patterns;MAMPs(マンプス)」(病原体あるいは微生物共通の分子パターン)とよび、これらはエリシターとして機能します。多くのエリシターは、病原菌のレースと宿主の品種の組合せにかかわりなく、ときには非宿主植物にも抵抗反応を誘導させる「非特異的エリシター」です。これまでに病原菌由来のエリシターとして、セレブロシド類、グルカン類、細菌蛋白質(ハーピン、フラジェリンなど)、糖蛋白質(エリシチンなど)などが報告されています。
病原菌のエリシターは、宿主の細胞膜などに存在する蛋白質(受容体)で受容され、病原菌の侵入として感知されます。病原菌の侵入が感知された後、そのシグナルが防御遺伝子群を活性化し、植物体は耐病性となります(図3-6)。
なお、病原菌の侵入により活性化された宿主のキチナーゼやグルカナーゼが病原菌の細胞壁を構成するキチンやグルカンを分解し、その分解断片(キチンオリゴマー、グルカンオリゴマー)がエリシターとして機能する場合もあると考えられています。

図3-6 非特異的エリシター(PAMPs/MAMPs)で誘導される抵抗反応

非特異的エリシター;宿主の品種にかかわらずに抵抗反応を誘導する病原菌の成分
エリシター認識蛋白質;エリシターの受容体となる宿主蛋白質

病原菌のステルス戦略とその攻略

機体の表面を加工するなどでレーダーシステムに探知されることなく敵陣へ近づくことができるステルス戦闘機が、米国、ロシア、中国などで開発されています。植物病原菌の中にも、“ステルス機能”;を装備して宿主の防御システムを巧みにかいくぐり、植物を攻撃しているものがいることが、最近の研究で明らかになってきました。
いもち病菌は、他の病原糸状菌と同じようにキチンやβ-1,3-グルカン(いずれも多糖の仲間)などを細胞壁構成成分としてもっています。侵入の際にはこれらが宿主植物の酵素で切り出されて断片化しPAMPs/MAMPs(本文参照)として機能するようになります。
その結果イネの自然免疫系が活性化され、いもち病菌はこのままでは侵入できなくなります。それにもかかわらずいもち病菌がイネに侵入し感染することができるのは何故なのでしょうか。

農業生物資源研究所の西村麻里江博士らは、いもち病菌が侵入しようとするときに菌糸の表面を構成する成分が変化し、α-1,3-グルカンで覆われることを観察しました。α-1,3-グルカンも、菌糸表面から切り出され断片化されるとPAMPs/MAMPsとして機能します。しかし、イネゲノム解読データから、イネにはα-1,3-グルカンを切り出す酵素α-1,3-グルカナーゼの遺伝子は存在せず、そのためα-1,3-グルカンはイネに対するPAMPs/MAMPsとならないことが分かりました。
いもち病菌は、侵入の際に、PAMPs/MAMPsとなるキチンやβ-1,3-グルカンをイネに分解されることのないα-1,3-グルカンで覆い隠し、いわば“ステルス戦略”;をとることでイネに探知されることなく容易に侵入していたのです。
この巧みな戦略も、人間の知恵にはかないません。西村博士らは、この戦略を逆手に取りα-1,3-グルカナーゼの遺伝子をイネに導入していもち病菌を“武装解除”;することを思いつきました。想定した通り、α-1,3-グルカナーゼ遺伝子を導入したイネはいもち病などに対して耐病性となり、武装解除に成功したのです。

抵抗性誘導剤(プラントディフェンスアクティベーター)で誘導される抵抗性も、抵抗性遺伝子に支配されない抵抗性です。病原菌から抽出したエリシターを植物に処理すると、病原菌の感染にかかわりなく直ちに抵抗反応が開始されるので、エリシターによる抵抗性誘導は直接的です。それに対し、多くのプラントディフェンスアクティベーターによる抵抗性誘導は、単に植物に処理しただけでは防御反応は微弱のままで、(親和性、非親和性を問わず)病原菌が侵入しようとしたときに強い防御反応が開始されます。プラントディフェンスアクティベーターのこのような作用をプライミング作用とよびます(詳細は第四章(2)で解説)。
イネでは、いもち病抵抗性遺伝子に支配される抵抗反応(図3-5)と、非特異的エリシター(いもち病菌由来の成分)により誘導される抵抗反応(図3-6)は極めて類似しています。両者の違いは、最初にそれぞれを認識(感知)する受容体の違いだけであって、その後のシグナルの伝達経路や防御反応の制御系はほぼ共通であると推定されています。最近、奈良先端科学技術大学院大学の島本功教授は、「ディフェンゾーム(defensome)」を提唱しています(図3-7)。

図3-7 非特異的エリシターとavr蛋白質を認識するディフェンゾームと、防御系の活性化

MTI;MAMPs Triggered Immunity、ETI;Effector Triggered Immunity

島本教授らは、植物の自然免疫応答にかかわるいくつもの蛋白質が複合体を形成していることを見つけ、この複合体を中心に植物は、病原体の感染を知った後の病原体を迎え撃つ反応を制御していることを実験的に確かめました。そして、この免疫応答にかかわる蛋白質複合体のことを「ディフェンゾーム」と名づけました。ディフェンゾームは、細胞内の生化学反応のスイッチの役割をするOsRac1(GTP 結合蛋白質の一種)や、蛋白質の安定性を制御するRAR1、HSP90(heat shock protein 90)などから構成されています。
ディフェンゾームは、病原菌の非特異的エリシターをその受容体で認識してイネの免疫系(MTI;MAMPs Triggered Immunity)を活性化する複合体と、病原菌のavr蛋白質を抵抗性遺伝子がつくる受容体で感知してイネの防御系(ETI ; Effector Triggered Immunity)を活性化する複合体からなります(図3-7)。これらの複合体を構成する蛋白質の種類はほぼ同じですが、エリシター受容体とavr蛋白質受容体はそれぞれ異なる蛋白質と結合しています。それぞれの複合体でエリシターあるいはavr蛋白質を感知すると、それぞれに結合しているOsRac1が活性化されます。活性化されたOsRac1は、ディフェンゾーム複合体から遊離し、NADPHオキシダーゼ系を活性化させて活性酸素を発生させたりPR蛋白質や抗菌物質の産生を誘導するなど防御系全体を活性化させます。
親和性の関係にあるいもち病菌が感染しようとするときも、非特異的エリシターがイネに認識されて抵抗反応が誘導されます。しかし、実際にはこの抵抗反応の開始は非親和性の場合に比べて(いもち病菌のステルス性のため?)遅いことから、イネは感染・発病してしまいます。抵抗反応の開始が遅いと、病原菌の伸展に間に合わないからです。一方、非親和性の関係にあるいもち病菌が感染しようとする場合には、イネ細胞内ではavr蛋白質が認識されてETI系が活性化され、遅れてではあるが非特異的エリシターによるMTI系が活性化されます。そのため、防御系がより強固なものとなり感染をほぼ確実に阻止することができます。植物が病原菌の非特異的エリシターとavr蛋白質を似たような仕組みで認識し防御系を共有化するメリットがここにあると思われます。

省エネ仕様となっている植物の防御システム

植物の防御反応には多大なエネルギーの消費と一部の細胞の犠牲をともないます。
病害抵抗性遺伝子は病原菌の感染とはかかわりなく常に発現し、病原菌のavr蛋白質を認識する蛋白質をつくっています。抵抗性遺伝子が発現していると植物体内では防御系が亢進していると思われがちです。しかし、抵抗性遺伝子によりつくられる蛋白質の役割は、病原菌の侵入を見張るだけですので、その蛋白質が存在するだけでは抵抗反応が進行することもなく、エネルギーも消費されません。Avr蛋白質を認識する“見張り”;蛋白質は、病原菌の侵入を見つけたときだけ指令を出して、エネルギーを消費する防御実行部隊を動員します。
日常的に防御系を活性化していては疲弊してしまいますが、植物には必要なときだけエネルギーを使う効率的な仕組みがあるのです。

3.抵抗反応につながる情報伝達系

病原菌のavr蛋白質やエリシターを受容した後、宿主植物が防御反応を開始させるまでの仕組みのひとつを簡単に紹介します。
病原菌の侵入は植物にとって緊急事態ですので、時間を要する防御遺伝子の活性化などの前に、とりあえずの対応が必要です。とりあえずの対応としては、細胞毒性のある活性酸素の放出が知られています。まず、病原菌の侵入が認識されると、リン脂質(ホスファチジルイノシトール二リン酸;PIP2)の分解などをともなう細胞膜情報伝達系が活性化されます。その結果、カルシウムイオン(Ca2+)が細胞内へ流入し、Ca2+の流入が、細胞膜にあるNADPHオキシダーゼと結合する細胞内因子をリン酸化します。それにより活性化されたNADPHオキシダーゼは、酸素を還元してスーパーオキシドを生じさせます。スーパーオキシドはさらに、過酸化水素へと変換されます。スーパーオキシドも過酸化水素も活性酸素です。ここまでは、短時間ならば細胞内の蓄えを利用することにより、遺伝子の発現がなくとも(新たな蛋白質の合成がなくとも)進行します。
細胞膜情報伝達系からもたらされた情報は、リン脂質(PIP2)が分解されて生じたジアシルグリセロール(DAG)やイノシトール三リン酸(IP3)を通じて細胞内情報伝達系へと伝わります。IP3は、細胞内の液胞から細胞質側へCa2+を流出させ、それがDAGと一緒になって細胞内のある種の蛋白質をリン酸化します。リン酸化された蛋白質はさらに次の蛋白質をリン酸化します。これを繰り返し、最終的に、遺伝子の発現を制御する転写因子を活性化させます。活性化された転写因子は、核内のDNAと結合(あるいは解離)し、防御関連遺伝子を活性化させます。このようにして、遺伝子の発現をともなう防御系が機能するようになります。
Ca2+は、情報伝達物質として働くことから、セカンドメッセンジャーともよばれます。また、緊急に発生した活性酸素も、シグナル因子として機能します。概略を図3-8に示しました。
抵抗反応につながる情報伝達系は、ネットワークが次々と接続を繰り返して情報を伝えていくインターネットと類似しており、しかも複雑に制御されています。一方で、情報伝達系は、動植物で共通しているところもあり、生物の進化の面から考えると興味深いものがあります。

図3-8 抵抗反応につながる情報伝達系の概略図

PIP2;ホスファチジルイノシトール二リン酸、PLC;ホスホリパーゼC、IP3;イノシトール三リン酸、DAG;ジアシルグリセロール、Rac1;GTP結合蛋白質

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