Dr.岩田の植物防御機構講座

植物の持つ防御機構についての最新の知見とプラントディフェンスアクティベーター(植物防御機構活性化剤)についての最新の知見を総合的に学習ができるコンテンツです。

第4章:プラントディフェンスアクティベーター

第4章 プラントディフェンスアクティベーター(2)

プラントディフェンスアクティベーターの作用機構

プラントディフェンスアクティベーターは、植物が本来の機能としてもっている防御システムを活性化するところに特徴があります。
プロベナゾールの作用機構についての研究で得られた結果を整理すると、プロベナゾールを根から吸収したイネはいもち病菌の侵入を受けるときに、
(1)過敏感細胞死を誘導する
(2)抗菌物質の生合成を活発化する
(3)リグニンの生合成を活発化する

のようにまとめることができます。
これらは、第三章の「植物の防御機構」で述べた「動的抵抗性」で観察される現象と類似のものです。プロベナゾールで処理されたイネでは、いもち病菌が感染しようとするとスーパーオキシドなどの活性酸素が発生して宿主細胞の過敏感的な死が生じ、いもち病菌の感染が阻害されます。続いて、ファイトアレキシンや酸化された脂肪酸などの抗菌物質が生成され、さらに細胞壁のリグニン化が進行して、物理的・化学的な障壁が形成されます(図4-3)。

図4-3 プロベナゾールの作用機構の概略

プロベナゾールを根から吸収させたイネでは、感染する病原菌のレースに関係なく上述の抵抗反応が速やかに開始されます。これは、イネの品種といもち病菌との組合せが親和性の組合せの場合も、非親和性の組合せの場合と同じように速やかに抵抗反応が開始されていることを示しています。抵抗反応の開始が速い(非親和性)か遅い(親和性)かは、“イネ対いもち病菌の戦い”の場合には決定的に重要な意味をもっており、遅い場合には病原菌の伸展に遅れをとり罹病してしまいます。プロベナゾールを吸収したイネは、全てのいもち病菌に対して速やかに非親和性類似の反応を示すようになり、いもち病菌の感染を阻害することができます(「親和性」「非親和性」については、第三章の「抵抗性遺伝子と病原菌レースの関係とは?」を参照してください)。
プロベナゾール以外のプラントディフェンスアクティベーターも、ほぼ同じような作用機構で病原菌の感染を阻害していると考えられます。
プラントディフェンスアクティベーターは、作用の特徴から「予防剤」に分類されます。予防剤とは、「治療剤」とは異なり病原菌が感染する前に使用される薬剤のことです。プロベナゾールの場合、感染直後(数時間以内)に処理してもある程度の発病抑制効果を示しますが、完全な非親和性類似の反応を発現できるようになるまでには、もう少し時間を要します。
プロベナゾールなどの抵抗性誘導剤は、圃場では、一般的に「予防剤」ではなく「予防薬」としての位置づけで使われています。これは、これらの薬剤は長期間にわたって効果が持続するという特徴があるので、いもち病が発生する確率の高い地域では事前に「予防薬」として使用することにより、いもち病の発生と蔓延に備えることができるからです。

プライミング効果のおかげで
プラントディフェンスアクティベーターは防除剤として使える

病原菌の侵入に対する防御応答は、植物自身にも大きな負担と一部組織の犠牲をともないます。もし、病原菌感染のない“平時”にも防御応答を強いられると、植物は正常に生育することができなくなり、枯死にいたる場合もあります。そのため常時、植物の防御応答を誘導するような薬剤は、防除剤としては不適です。
好都合なことに、プラントディフェンスアクティベーターの機能は、植物を病原菌の侵入に対しいつでも迎え撃ちできる状態(プライミング状態)にするだけです。プライミング状態にある植物の防御系は、通常は活動していません。しかし、病原菌の侵入を受けると強く速やかにその活動が開始されます(“プライミング”については、第三章の「植物と微生物の相互関係(上級編)」にも記載しました)。
プラントディフェンスアクティベーターは、プライミング効果をもつことにより、植物に過重な負担を強いることなく効果的に発病を抑制することができるのです。プラントディフェンスアクティベーターが防除剤として使用できるのは、この効果をもちあわせているおかげです。

プラントディフェンスアクティベーターの作用点はSAR情報伝達系上にある

プラントディフェンスアクティベーターの作用点についての研究が、最近の分子生物学的解析手法を取り入れることにより、進展してきています。それらの研究を要約して紹介します。
図3-3に示したように、サリチル酸を分解するNahG遺伝子を導入した植物やNPR1遺伝子を変異させた植物(npr1)ではSAR(全身獲得抵抗性)情報伝達系が遮断されるため、病原菌を感染させてもSARが発現しなくなります(第三章「全身に伝わる感染緊急シグナル」を参照してください)。
そのような変異を導入したタバコなどを用いた実験によりアシベンゾラルSメチルは、
(1)SARを誘導する
(2)サリチル酸の合成を誘導しない
(3)NahG遺伝子を導入した植物でも防除効果が認められる
(4)npr1変異植物では防除効果が認められない

ことから、その作用点はサリチル酸が関与するSAR情報伝達系上のサリチル酸とNPR1蛋白質の間にあり、アシベンゾラルSメチルはサリチル酸の役割を代替していると推定されました(図4-4)。これは、アシベンゾラルSメチルは、植物成分であるサリチル酸と同様に機能してSARを誘導し、植物を全身で抵抗性にするというものです。
プロベナゾールの作用点については、理化学研究所の山口勇主任研究員(2001年当時)の研究グループの吉岡啓子、仲下英雄両博士らは、モデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の変異体を用いて実験を行いました。その結果、プロベナゾールは、
(1)SARを誘導する
(2)サリチル酸の合成を誘導する
(3)NahG遺伝子を導入した植物では防除効果は認められない
(4)npr1変異植物では防除効果が認められない

ことが観察されました。このことからプロベナゾールの作用点はSAR情報伝達系上にあるが、アシベンゾラルSメチルとは異なりサリチル酸の合成を誘導するのでサリチル酸より上流にあると推定されました(図4-4)。これは、プロベナゾールはサリチル酸より上流でSAR情報伝達経路を活性化して、その結果、植物を全身で抵抗性にするというものです。
仲下博士らはチアジニルについてもその代謝物を対象として作用点に関する実験を行い、チアジニルはアシベンゾラルSメチルと同様にSAR情報伝達系上のサリチル酸の下流を活性化するとの結果を得ています。
また、イソチアニルの作用点についての詳細な研究は報告されていませんが、化学構造はチアジニルと類似しています(図4-1)。
このようにこれまでに解析されたプラントディフェンスアクティベーターは、サリチル酸を介するSAR情報伝達系でサリチル酸の上流を活性化するブロベナゾールと、下流を活性化するアシベンゾラルSメチルやチアジニルなどに大分されることが明らかになりました。この違いが、プラントディフェンスアクティベーターの作用にどのような影響を与えるのかについては興味あるところです。
なお、東京農工大学の有江力教授と住友化学の研究グループは、主としてイネ紋枯病の防除に用いられるバリダマイシンAは、本来の作用メカニズムはトレハラーゼ阻害により病原菌のエネルギー源を枯渇させてしまうところにあるが、植物の抵抗性(SAR)も誘導することを報告しています。そして、バリダマイシンAで処理されたトマトではサリチル酸が蓄積することから、バリダマイシンAの作用点はサリチル酸より上流にあると推定しています。

図4-4 抵抗性反応誘導におけるシグナル伝達経路とプラントディフェンスアクティベーターの推定作用点

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