梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

10.水管理・中干し

1)水管理

水稲はその名が示すように、水を上手に利用して栽培する作物です。
特に、水は田植直後の保温、肥料の吸収と移行、雑草の抑制、分げつなど生育制御、登熟などと密接に係わっています。

(オリゼメートフォトコンテスト入選作品より)

(1)活着期

水が最も必要とされる時期は活着期と幼穂形成期から穂ばらみ期の穂の成長期です。
まず、活着期の水管理は、田植直後から、新しい茎が発生する約2週間まで、日中は1~3cmに、夜間は4~5cmの深水に保ち、田水温の上昇に努めることが大切です。入水は早朝とし、日中は止水により、水温が効果的に高く保持され、分げつの早期確保につながります。
ただし、高温日が続いたり、有機物が多い場合、湛水期間が長くなると、田の「ワキ」が見られるので、1~2日程度の田干しにより、ガス抜きにより酸素供給をはかり、発根を促進します。

(2)分げつ期

活着が確認されたら、その後、1~3cmの浅水で管理します。田植後、約1ヵ月経過すると、地域により若干の差がありますが、有効茎がほぼ確保されます。
この間、水不足になると、根の発育が遅れ、栄養生長に大切な窒素などの肥料分や体質を高める珪酸分などの吸収が十分に出来ません。また、ヒエの後次発生や多年生雑草、収穫期のタデなどの畑雑草の発生を助長することにもなります。

(3)中干し

田植後、約1ヵ月過ぎると、中干しのために溝切りや落水をすみやかに行うため、3~5m間隔とし、時期は砂質系の土壌では田植後20日頃から、粘質の強い土壌では30日頃が、作業の効率や溝くずれがなく、よいでしょう。
大切なことは潅排水がすみやかに出来、硬化が圃場全体、均一に出来るようにすることです。中干しにより、稲体の窒素吸収が制限されることから、開始時期は有効茎数が約80%以上確保された頃となります。
程度は田面に小さなひびわれが見られ、足跡が軽くつく程度がよいでしょう。
中干しの時期は、実施中の天候、圃場の状況、特に土質、地下浸透などの条件によって異なりますが、約2週間程度でしょう。
中干し後は成熟期まで間断通水とします。中干し後の根は、根ぐされが発生しやすいと考えられていますから、高温期や長雨(梅雨)などと重なる場合が多いので、湛水日数は3日以内になるように気をつけたいものです。
中干しの時期は、5月上旬の田植の場合、入梅の頃となり、葉いもち防除のプロベナゾール剤(オリゼメート粒剤)の処理時期とも重なり易く、気象予報の活用と計画的に作業をすすめ、効果の高い中干しにしたいものです。
中干しは本田中・後期の穂肥施用、倒伏防止、コンバイン作業まで影響を及ぼすので、管理の中でも最も重要なポイントと考えられます。

中干し状況(軽いヒビ割れ発生)

(4)幼穂形成期から穂ばらみ期の水管理

幼穂形成期から穂ばらみ期にかけて、活着期と同様に、水を最も必要とする時期です。用水不足地域や異常干ばつとなった場合、計画的に節水に努め、ポイントとなるこの時期のために、地域全体で水管理したいものです。

(5)落水期

コンバイン収穫を念頭において、落水時期を早めたり、強い田干しとなるケースが多いようですが、白未熟粒や胴割粒の発生防止の点からも、刈取りの約7日前までは、間断通水により、土壌水分を十分に保ち、健全な根を保ちたいものです。

(6)深水管理

深水は、高温時で浅水に比較して2~3℃低く、低温時では逆に2~3℃高く、さらに日較差も小さく推移することが明らかになり、この特徴を活かした深水管理の技術が生まれたようです。
特に、コシヒカリのように、倒伏しやすい品種ではこの技術により、草丈がやや短くなり、茎が太く(1茎重が重い)、また、収量構成要素では穂数がやや少、1穂着粒数がやや多、登熟歩合が高いなどの効果がみられるようです。
実施時期は、活着期から連続する方法と有効分げつ終期頃からの2方法があります。早くからの実施では穂数不足となるので、茎数確保が予想される時点で実施した方が安全でしょう。
この場合、水深は10~15cm、期間は15~25日程度とし、最高分げつ期から穂首分化期頃に終了とします。終了後は急激な田干しをさけ、徐々に水深を下げ、間断通水に切り換えることが大切です。
この技術はどこでも実施できるものでなく、用水量、畦畔の高さ、水持ちなど圃場条件が満たされなければなりません。

図9. 水管理模式図

2)分げつ

イネは完全葉のある節(図3の第2節を参照)から新しい茎が発生する性質を持っており、これを「分げつ」と呼ばれています。分げつは主稈(籾から出た茎、親茎)の各節から出る1次分げつ(子茎)とこの1次分げつから、さらに出る2次分げつ(孫茎)、さらに3,4次分げつまで発生する可能性を持っています。
箱育苗の4本植の場合、ほとんど1次分げつで株が構成されます。2次分げつが発生しても、ほとんど無効分げつとなります。
成苗植や直まきの場合は3次分げつまで発生し、2次分げつにも、立派な穂をつくります。
分げつの発生する節位は、箱育苗の場合、密播、密植条件のため、1節、2節は休眠となり、3節(3号分げつと呼ぶ)から8節の間で発生してきます。
ただし、株当り植付本数が6~8本以上と多くなった場合は、さらに3節も休眠し、4節目からの発生となります。
このように分げつは、植付時の、苗質、苗齢、深さ、本数など、環境に大きく左右されます。一般に、分げつ節位は4~8節ですから、株当り、4本植の場合、1株の穂数が約20本となります。
下位節で出来た分げつは、早く形成されるため、桿が太く、穂重が重く、穂長も長くなります。このことから、活着を早め、早期に有効茎を確保することは、収量を高め、倒伏を回避する上で重要であることが理解できると思います。
なお、なぜ有効と無効に分れるのか、疑問に思っておられる方もあると思いますが、有効分げつは全て根を有していますが、無効分げつは根がありません。それぞれの分げつは根を持ち、自力で養分吸収が出来て、はじめて有効茎となれると言うことです。
また、稲作診断とは直接関係がありませんが、出葉と分げつの間に規則性があります。主稈のある葉が抽出したとき、それより3枚下の葉の葉腋から、分げつとなる葉が出現してきます。
たとえば、移植3週間後に、主稈6葉目が出たとき、6-3=3、3葉の葉腋に3号分げつの葉身が抽出してきます。この関係は主稈だけでなく、分げつにも、同じ規則性を有し、これを「同伸葉理論」と呼ばれています。

図10. 箱育苗の分げつ模式図

3)根

根は種子根と節から発生する冠根(親根)からなっています。冠根は分岐して1次根(子根)、さらに2次根(孫根)、3次根へと根数を増やします。先端は生長を続け、最先端に根冠があります。
養分や水分の吸収は根の先端部が重要な働きをします。また、根の表面には肉眼で観察が困難な小さな根毛が密生しており、ここから養水分が吸収されます。
冠根(親根)の発生は分げつと同様に、移植時等の環境条件の影響を受け、第4葉節まで休眠し、第5葉の主稈や分げつ茎から、それぞれ発生し、根群が形成されていきます。その後、生育が進むにつれて、根数は増加し、幼穂形成期に入ると、分げつは停止しますが、根の方は最も盛んに伸長し、それより約10日遅れの出穂20日前頃まで増え続けます。
この頃の根数は株当り600~800本と最大となります。
この時期は節間伸長が始まる時期で節間が5mm以上になると休眠状態となり、発根してきません。このことから発根の節位は主に5~10節です。
上部の休眠状態の節は、早期の倒伏、水害等により、水没期間が長くなったり、イネばか苗病の侵害を受けると発根してきます。
水田の根は酸素が多いと、下層まで伸び、1次根や2次根の数が多く、根長も長く、また根の直径も太い比率が増大し、分岐根全体として多くなります。さらに「うわ根」の発生も多くなります。このことは、酸素不足の湛水状態は根の発育に極めてよくないと言えます。
「うわ根」は幼穂形成期から出穂期にかけて、出現、伸長した冠根(1次根)より発生した分岐根が、黄熟期から成熟期にかけて、表層部分(0~5cm)に伸び、マット状の層を形成する根群のことで、登熟に重要な役割を持っています。

根の状態

以上のようなことから、水田が酸素不足とならないように、中干しや間断通水を実施していただきたいと思います。
また、根は土壌や施肥によっても変化が見られ、たとえば、深耕や堆肥の施用により、水田の上層から下層にわたり、冠根(1次根)が多くなり、さらに太い2次根の密度が高まることがわかっています。
Nの追肥によっても「うわ根」の発達が著しく促進され、さらに、太い2次根が多くなります。
ただし、追肥の場合は根の生長が止ったような「いじけ根」も多くなる作用があります。このことから、土壌改良や1回の追肥量、回数などに工夫が必要でしょう。
健全な根は、根から出る酸素と土壌中の亜酸化鉄とが結びつき、赤褐色の酸化鉄の皮膜で覆われています。

酸化鉄に覆われた茶褐色の根

しかし、土中の鉄分の不足や根から出る酸素が不足すると、硫化水素等により、直接冒され図11に示したように、色々な症状の根が発生し、養水分の吸収が出来なくなるほか、生育末期に、容易に引き抜けるような不健全なイネになります。

図11. 健全な根と病気の根の診断(星川 1975)

4)穂の発育と地上部器官との関係

幼穂形成期を正確に把握することは本田中後期の肥培管理の上で非常に大切です。
この時期は、第4節間の伸長期にあたり、また、籾の退化しやすい時期とも一致します。体内のN濃度が高いと倒伏に最も影響する第4節間が伸びすぎ、逆に、低いと1穂着粒数が減少し、収量低下につながる微妙な時期です。
幼穂形成期を正確に知る方法として、①移植期を0.1として、その後の日平均気温より、毎日の発育量を積算し、0.7に達した日を計算上求める、DVS法があります。②直接、イネの幼穂を確認する2方法があります。それぞれに、長短がありますが、ここでは②について述べます。
まず、最高分げつ期を過ぎた頃より、時々、圃場3~4列中の、ほぼ中庸の生育を示す株より、主幹(株の中で最も草丈の高い茎)を選び、基部より抜き取り、針やピンセットを用い、小さい葉をはぎ取り、生長点を虫眼鏡で確認します。白い幼穂が1mm程度の突起なら、1次枝梗の分化期、2mm程度で、白い毛があれば、2次枝梗分化期です。幼穂分化はこの5日前くらいと判定されます。
幼穂2mmの頃は、上から2枚目の葉(次葉)が抽出し、第4節間や止葉が伸長している最中に当たります。
その後の幼穂の発達は、図12の概要図に示したようになります。減数分裂は幼穂長1.5cm頃から始まり、止葉葉耳間長0(止葉と次葉の葉耳の位置が並行となった時、止葉が抽出し、葉鞘はまだ次葉葉鞘の中)の時が盛期です。その10日後に出穂期となります。穂の伸長は止葉抽出と同時に急激におこり、葉耳間長0で約6 0 % に、出穂の7 日前に、ほぼ100%の長さに達します。
穂肥の施用との関係をみると、たとえば、コシヒカリの場合、出穂15日前は減数分裂の始期であり、7日前は幼穂長がほぼ決まり、減数分裂もほぼ完了した時期です。

図12. 出穂前日数と地上部器官、穂の伸長との関係1)(コシヒカリ)
1)星川(1975)らのデータをもとに作図

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