梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

12.本田期の病害2(白葉枯病、ごま葉枯病、紋枯病)

ここでは、イネ白葉枯病、イネごま葉枯病及びイネ紋枯病について紹介します。
イネ白葉枯病は用水路の整備事業などにより減少傾向にありましたが、近年、各地で発生が復活しつつあるようです。
イネごま葉枯病は風土病的に、発生地が限定され、継続して発生する、被害の激しい病害です。
イネ紋枯病は、早期栽培や多肥・密植時代では被害が著しかったのですが、その後、コシヒカリ等、被害の少ない品種の作付けなどで大きな問題とならなくなっているようにみえますが、西南暖地など、全国的に、潜在的発生に高い関心があるようです。
これら3病害について、診断と要防除基準を中心に述べます。

イネ白葉枯病

〈病原菌〉

Xanthomonas campestris pv. Oryzae (Ishiyama) Dye(細菌病)

〈病徴〉

発生は主に、梅雨明け、幼穂形成期頃から見られるようになります。最初は葉縁部が黄化したり、黄色の不整形の斑点や斑紋が発生し、次第に拡大、融合し、葉縁部では波状の病斑となり、その先端が枯死します。

イネ白葉枯病初期病斑

病斑をよく見ると、枯死部と健全部の境には黄色の中毒部があり、風害による葉枯れと区別されます。また、晴天の場合、葉縁部や病斑の付近に、黄色の小さな丸い粒状の粘液塊の発生がみられます。これは病原細菌が水孔から溢出し、それが乾いて、固まったものです。
籾では、先端部より緑白色、水浸状となり、その後、頴全体が灰白色となります。
また、移植時に苗感染すると、移植後20日頃に、突然、苗全体が萎ちょう症状をおこし、枯死します。これはクレセックと呼ばれ、前述の病徴と明らかに異なります。
風害による葉先枯れとの区別は、前述の菌泥塊の有無、健全部との境界に黄色の中毒部の有無、さらに、健全部を含めて病斑を切断し、水を入れた試験管に挿すと、上部切断部より濁った水滴(健全イネは透明)が溢出します。また、顕微鏡があれば、切断面より菌液の流出が観察されます。

イネ白葉枯病の病徴

〈発生生態〉

古くより、水系に沿った発生地があることが認められてきました。これは、伝染環として重要な水辺雑草のサヤヌカグサが伝染に重要な役割をはたしています。
九州地方以外では、この根で菌が越冬し、翌年の1次発生源として非常に重要です。九州地方ではこのほか、稲刈株でも越冬します。
感染は水孔や傷口から浸入します。そのため、低湿地帯で毎年、浸冠水を受けるところは常発地となり、また、台風による葉ズレから、侵入が助長され、多発となります。
また、7月を中心とした降雨日数や降水量が発生量と密接な関係にあることも、侵入のチャンスが多いからと考えてよいでしょう。
白葉枯病菌にもレースがありますが、品種間差異もかなり明確です。

水路のサヤヌカグサ

〈発生予察と被害〉

常発地の巡回調査による確認が第一ですが、河川や用水、田面水中の白葉枯病菌数を明らかに出来ればよいのですが、現在のところ、簡便で直接調べる方法はありません。白葉枯病菌に寄生するファージを調べ、間接的に推測する方法が利用されています。この方法は、発生の大まかな予測が可能ですが、変動要因も多く、まだ、確実性は十分ではありません。
このため、気象要因との関係が比較的精度が高く、九州地域では7~8月にかけての降水量、降水日数と発生面積、発生程度との間に高い相関関係が認められ、予察式も出来上っています。その他の地域でも、6~7月(梅雨期)の降雨の多少と発生に密接な関係があることがわかっています。詳細は各県の病害虫発生予察情報をご覧ください。
被害は一般に早く発生する程、著しくなります。着粒数への影響は少ないのですが、登熟不良からくる、千粒重の低下、腹白米、乳白米など、未熟粒の増加が著しく、最高減収率で30~40%と考えられていますが、今日の良質米生産上、被害はもっと大きいと考えられます。

〈防除法〉

常発地を無くすため、サヤヌカグサ等、第1次伝染源となる雑草の防除や浸冠水を防止するような、用排水路の整備が非常に重要です。また、品種間差異が比較的明確なので、常発地では抵抗性品種の作付けを優先すべきでしょう。
農薬の利用では、いもち病防除にも利用されている、プロベナゾール剤(オリゼメート)の田植時処理や同剤の出穂3~4週間前(最高分げつ期頃)の本田期処理が予防的に有効な方法です。

Dr.オリゼ剤使用圃場(左)と白葉枯病多発圃場(右)

イネごま葉枯病

〈病原菌〉

Cochliobolus miyabeanus (Ito et Kuribayashi) Drechsler ex Dastur(糸状菌)

〈病徴〉

苗発病の項でも示したように、いもち病と同様に、イネの全部位で発生します。本田では、分げつ最盛期すぎから、黒褐色楕円形、いわゆる「ごま粒」状で、健全部との境が黄色の病斑です。中心部は灰褐色となりやや不鮮明な褐色輪紋ができます。
みご、穂軸、枝梗では、始め、すじ状の黒褐色斑となり、拡大して、全体が褐色から「穂枯れ」となります。節では、激発条件下の場合、止葉節が黒褐色に変色し、その上部が枯死します。
籾では、出穂直後に侵害されると黒褐色の斑点~斑紋となり、拡大して褐変籾へと移行し、玄米は褐色米となります。傾穂期以降の感染では、斑点から頴全体が生気を失い、淡褐変籾となり、籾の肥大も抑えられます。

〈発生生態〉

第1次伝染源はいもち病と同じく、種籾や被害わらです。前述の通り、老朽化土壌、泥炭土壌、砂質土など、いわゆる、地力のない土壌地帯で多発が認められてきました。さらに、排水不良と重なり「根腐れ」し易い条件下で激発します。また、肥料のK欠乏との合併症としても有名です。

〈防除法〉

まず、根腐れ対策として、排水対策、含鉄資材の施用、秋落防止の肥培管理が重要で、これにより、発病や被害が軽減されます。
農薬による対策として、いもち病及び白葉枯病に有効な、プロベナゾール剤(オリゼメート粒剤)の出穂3~4週間前の本田処理で、ごま葉枯病菌による「穂枯れ」に有効です。散布剤として、フェリムゾン・ラブサイド剤(ブラシン剤)、フェリムゾン・ビーム剤(ノンブラス剤)の穂ばらみ期~穂ぞろい期散布が有効でしょう。

ごま葉枯病:葉とみご

ごま葉枯病:葉鞘

イネ紋枯病

左:古い病斑 右:新鮮病斑

紋枯病

紋枯病:止葉への発病

〈病原菌〉

Thanatephorus cucumeris(Frank) Donk (Rizoctonia solani kühn)(糸状菌)

〈病徴〉

初発は茎数が約20本、株が開いてくると見られ、幼穂形成期頃から目立ってきます。病斑は、主に葉鞘に緑褐色~褐色、中央部が灰緑色~灰白色の楕円状の大きな病斑をつくります。その後、病斑周囲や罹病茎には、白い菌糸がクモの巣状にはり、病斑上に、褐色の2~5mmの半球形状の大小の菌核が形成されます。
幼穂形成期以降、節間伸長につれて、病斑は上位へ進展し激しい場合、止葉や止葉葉鞘を侵し、枯死したり、茎の挫折による倒伏を助長します。長雨が続いたり、倒伏した場合、葉身も侵害されます。

〈発生生態〉

伝染環は単純な病害で、病斑上に形成された菌核が地表に、落下、越冬し、次年の代かき時に浮遊、畦畔等に1時停留、田植後の潅水により、再び浮遊、田面へ、茎数約20本、株が開いた状態になると、株元に漂着(付着)、気温22℃以上になると発芽、菌糸により、葉鞘内へ侵入、病斑をつくります。菌糸は葉鞘の合せ目より、裏面に入り、組織へと侵入し、または上へと伸びます。
梅雨明け後の気温の上昇、イネの繁茂度の高まり、株内の高湿条件、幼穂形成後の葉鞘内の澱粉の蓄積、イネ自身の節間伸長などが重なり、急激に、上位進展します。
品種としては、紋枯病菌が高温を好む(適温30℃)ことから、熟期が高温となる早生種で被害が大きくなります。
多発条件としては、気象条件として高温多湿、栽培条件として、早期・早植、肥培管理として、多肥、密植があげられます。

紋枯病の多発状況

〈発生予察と被害〉

発生源はほとんど越冬菌核に限られ、推移は菌核浮上期→菌核漂着期→発病株増加期(水平進展)→発病茎増加期→上位葉鞘進展期(垂直進展)→被害、と比較的単純です。このことから、防除要否の予測は、防除適期を出穂前10~20日とした場合、おおよそ、穂ばらみ中期の発病株率より可能です。
被害は、成熟期の発病個体の調査では、穂首・止葉までの罹病で約40%減収、止葉の葉鞘までで約30%、第2葉の葉鞘までで20%、第3葉の葉鞘までで約15%の減収とみられています。
一般に、多発条件の場合、穂ばらみ期の発病株率10%の場合-成熟期の被害度14、同15%-19、同20%-23、同30%-30、同50%-43と推定されています。
また、全国の要防除水準を見ると、おしなべて、穂ばらみ期調査において、発病株率ほぼ20%以上で、出穂期または即時の防除を必要とされています。調査時期が出穂期や同15日前と遅れた場合、5~10%増しで、また、早生種の場合、5~10%減で、晩生種の場合、10%増しを基準に要否判定がされています。

表6. 発病がイネの収量構成要素に及ぼす影響(堀 1991)

〈防除〉

防除適期は上位進展の始まる出穂15日前頃が、多くの試験例の中で、1番良いとされています。現在の市販剤は、薬害も無く、安定した効果を発揮しますが、剤によって、耐雨性に若干の差がありますので、雨の多い時期や地域では、適合する剤の選択が必要でしょう。
現在、下記の剤が主に使用されています。

薬剤散布

[箱剤]

フラメトピル粒剤(リンバー)、チフルザミド剤(グレータム)、アゾキシストロビン剤(アミスター)

[散布剤:粉剤や液剤]

バリダマイシンA剤(バリダシン)、ペンシクロン剤(モンセレン)、メプロニル剤(バシタック)、フルトラニル剤(モンカット)、ジクロメジン(モンガード)、フラメトピル(リンバー)、アゾキシストロビン(アミスター)等があります。
紋枯病は、病害の中でも、幼穂形成期頃の調査により、高い精度で成熟期の減収率の予測が可能ですので、防除要否判定に基づいた防除に、是非挑戦してください。

PAGE TOP