梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

14.本田期の病害3(穂の病害)

穂(籾も含む)の病害には、葉に発生した病原菌が直接関係して発病するものと、外見上、葉や茎に病徴が見られないが、穂のみに発病するものとがあります。前者の場合は、葉の状態から、病原菌の動きがおおよそ予測され、対策もたてられます。しかし、後者の場合、対策が手遅れとなる場合が極めて多く、また、防止技術の確立も不十分のものが多いのです。ただ、これらの病害は「常発地」と呼ばれ、地形や特有の気象条件と係りをもつ性質が強い特徴を有することもわかっており、日頃より注意すべきでしょう。

《伝染源が茎葉の病害》

1)穂いもち

いもち病については、既に何回かに分けて述べてきましたので、詳細は省略します。
一般に、穂は出穂後、日時の経過とともに、各種病原菌に対する抵抗力が増加してきます。いもち病菌に対しても、出穂直後の穂は極めて無防備状態であり、この時期に病原菌に遭遇すると、容易に侵害され多発となります。
特に、梅雨明けが遅れ、多湿条件と出穂期が重なると、病原菌(胞子)が増え、侵入環境が好適、イネの体質が弱い等の条件が重なり、最悪となります。
このような気象条件に遭遇しても、前述の薬剤等により、葉いもちの発生を防止し、胞子密度を低下させるように努めておくことが、大切です。

穂いもち

乳熟期の穂首いもち

もし止葉や次葉に病斑が見られた場合は、出穂前に、薬剤散布による対応が必要です。
また、いもち病菌は、出穂後約20日間(3週間)は穂を侵害する力を持っていますから、出穂前後の条件で安心することは危険です。年により、登熟中期に夏型気候の崩れから、長雨に遭遇し「葉いもち少発、穂いもち多発年」が過去に多くありました。刈取りまで注意深く観察することが大切です。ただし、農薬には使用基準がありますので、収穫物の安全を確保するため、適正に使ってください。

穂首いもち

穂首いもち

2)イネごま葉枯病(穂枯れ)

いもち病と同様に、前述したので詳細は略します。
発生部位はいもち病と似て、葉・節・みご・穂首等、あらゆる部位を侵害します。
特に、みごにおける感染はいもち病より目立ち、登熟後半まで発病が続き、表記のように穂全体が枯れ、登熟不良となります。近年、施肥技術の向上、土壌改良等が進み、本病の常発地が少なくなっています。発病すると玄米品質が著しく劣化します。
防止法は、前述の通りです。なお、後述の褐色米の発生原因ともなります。籾の発病から、玄米は登熟不良の他、玄米全体が褐変、茶米症状となります。

穂枯れ症状

成熟期頃のごま葉枯病

3)イネ褐色葉枯病(糸状菌)(穂枯れ)

〈病原菌〉

Metasphaeria albescens Thümen(Rhynchosporium oryzae Hashioka et Yokogi apud.Hasioka et Ikegami)

〈病徴〉

葉身の発病は穂ばらみ期頃より、下葉において、赤褐色、周縁不鮮明な、褐点(線)から長楕円形(紡錘形)の病斑が発生します。
その後、病斑が拡大したり、重なったりし、葉先より枯死します。出穂後、葉身の他、止葉葉鞘が暗褐色の斑紋をつくり、拡大・融合して葉鞘全体が濃褐色に変色します。このような葉鞘では穂が出すくみ状となります。
穂ではみごや籾で、周縁不鮮明な紫褐色の微小斑点が形成され、その後融合して全体が紫褐色に変色、成熟期には枯死します。

褐色葉枯病<内藤 秀樹氏 提供>

〈発生生態〉

越冬は罹病葉で行われ、これが第1次伝染源となり、さらに、ヒエ、ムギ、イタリアンライグラス等、多くのイネ科作物や雑草に寄生することから、これらも伝染源として重要です。
胞子の形成は、気温25℃になり、被害部が降雨に遭遇することにより助長されます。籾への侵入は穂ばらみ期、穂ぞろい期が多く、黄熟期以降では発病に至りません。穂首、穂軸、枝梗では菌の感染を受けますが、侵害の程度は軽く、枯死することはまれです。
本病は施肥との間に、密接な関係があり、特にNの基肥量が多いほど、また、減数分裂期の追肥で増加する傾向が明らかです。

〈防除〉

耕種的には排水を良好にし、窒素肥料の多施用を避けることが大切です。薬剤防除はEDDP剤(ヒノザン)が有効で、いもち病との同時防除が可能です

4)イネすじ葉枯病(糸状菌)(穂枯れ)

〈病原菌〉

Sphaerulina oryzina Hara (Cercospora oryzae I. Miyake)

〈病徴〉

葉、葉鞘、穂首、枝梗、籾に発生します。7月中、下旬から下葉で発生し、次第に上位葉や葉鞘へと進展し、出穂後は穂首、枝梗、籾を侵し、穂枯れとなります。
葉では、葉脈に沿って、まず水浸状の褐色の微細な楕円形斑点が現われ、これが上下に進展し、幅1mm内外、長さ5~10mmで周縁不鮮明な紫褐色の条斑となります。進展すると病斑が融合、拡大し、不整形の大型病斑となり、成熟期頃に枯死します。
穂首、穂軸、枝梗では、水浸状、褐色、微細斑点を生じ、進展しながら紫褐色の条斑となります。
ごま葉枯病の病徴に比較して、長く、紫色が強く、周縁やや不鮮明です。籾では、全体あるいは一部が紫褐変します。

すじ葉枯れ病菌による穂枯れ葉の病徴
<島根県農業技術センターホームページより>

〈発生生態〉

伝染源は罹病わら、穂が考えられています。これらと、気温16℃前後(生育適温は25~27℃)、降雨に遭遇することにより、分生子が形成され、飛散します。発生は、出穂期頃より、下葉で病斑を形成、そこに出来た胞子により穂に侵入、侵入後約30日経過した、登熟後半になって発病するようです。
本病は全国的に発生が認められていますが、なかでも、島根県を中心に、中国地方で多いようです。

〈防除〉

耕種的には、発病に品種間差異が明らかであることから、常発地では抵抗性品種の利用を、また、田植時期が早いと多発しやすく、N肥料が多く、穂肥が遅れると多くなることなどより、管理面で対応しながら、それでも発生がある場合、薬剤ではフェリムゾン剤(ブラシン等)が有効です。

5)小黒菌核病(糸状菌)(穂枯れ)

〈病原菌〉

Helminthosporium sigmoideum Cav. var. irregulare Cralley et Tull:s

〈病徴〉

本菌は水際部の葉鞘や桿を侵害し、倒伏に影響を与える病害です。
1960年代後半に、穂枯れの原因究明の中で、穂、止葉、止葉葉鞘を侵害し、地域的ではありますが、穂枯れの関与菌として注目されています。
主に、みご部があめ色に変色し、その中に、黒色の条線、または黒褐色の斑紋が点在、周縁部不鮮明な病斑をつくります。
みごの内部が崩壊し、中に多くの小さい菌核を形成します。乾くと、組織がもろくなり、折れやすくなります。菌核は黒色で、球状から長球状、光沢がありません。分生子は病斑部や菌核の上に形成し、鎌形状で、3個の隔膜を持ち、中央の2細胞が暗褐色、両端の2細胞は淡色です。

小黒菌核病の発生による倒伏

〈発生生態〉

1次伝染源は水面に浮遊する菌核で、この上に出来た胞子により、水際部の葉鞘が発病、さらに、この病斑上に形成された分生子により、止葉や止葉葉鞘が発病します。この病斑との接触やこの上の分生子により、みごが発病します。
発病には水分が十分必要です。そのため、本病は出穂後に雨天が続くと多発条件となります。一般に、菌の侵入は稲の登熟後半が中心で、発病は出穂後20日頃から漸増してきます。
被害は、みご折れも含めて、登熟不良による収量の低下と品質低下がみられます。

〈防除〉

本病は、昭和30年頃までの肥料不足時代の病害でしたが、現在は出穂後に多雨に遭遇する以外、発生が少ないようです。
耕種的防除は、一般に、早生種の被害が目立ちますが、これは登熟期が高温条件にあたることのようで、明らかな品種間差は無いようです。そのため、深耕や客土、含鉄資材、珪酸石灰の施用など、土壌改良が重要です。
施肥面では、カリ欠乏で多発しますので、穂肥に、カリを十分に入れておくことが大切です。
農薬では、EDDP剤(ヒノザン)、IBP剤(キタジンP)、イソプロチオラン剤(フジワン)があります。

《茎葉に発生無く、穂のみに発生する病害》

6)もみ枯細菌病(細菌病)

箱育苗の幼苗腐敗症の病害でもあり、詳細は略し、穂部の病害について述べます。

〈病徴〉

はじめ、籾の基部が淡黄色に変色し、先端部へと拡大するとともに、黄白色へ、さらに灰白色へと変色します。小枝梗は緑色を保っていますが、まれに褐変するものもあります。1穂の中に、健全粒が混在する場合もあります。
登熟中・後期には、穂軸、枝梗が緑色を保ちながら、罹病籾は淡紅色を呈し、稔実不良のため、傾穂の程度は小さいか、立穂状となります。
罹病穂はほとんどが「しいな」となり、正常に稔実しません。玄米は乳白色から淡黄色に、中央部に褐色の帯状斑ができ、本病の見分けのポイントとなります。

〈発生生態〉

葉の発病が無いので、病原細菌の動きに不明の点が多いです。病原細菌は、葉身や葉鞘から検出されますが、主な生息場所は葉鞘内で、稲の生育につれて上方へと移行し、穂への伝染となると考えられています。

〈防除〉

耕種的には、第1次伝染源は、保菌種子や幼苗腐敗の被害部と考えられていますので、前述の項までの対策をまず守ってください。
薬剤による防除法は、その上で、プロベナゾール粒剤(オリゼメート)の出穂3~4週間前、10a当り3~4kg施用、または箱粒剤(Dr.オリゼ)の施用が有効です。
また、粉剤では、カスガマイシン・フサライド剤(カスラブサイド)、有機ニッケル剤があります。
九州地方の常発地域では、プロベナゾール剤の箱剤と、本田剤の体系的施用により、いもち病、白葉枯病との同時防除も期待され、実用性が高いとの報告もあります。

もみ枯細菌病

稔実不良による立穂

もみ枯細菌病に罹病した玄米

7)稲こうじ病(糸状菌)

〈病原菌〉

Claviceps virens Sakurai[Ustilaginoidea virens (Cooke) Takahashi]
本菌は菌糸、厚膜胞子、分生子、分生子柄、菌核および子実体からなる子のう菌です。

〈病徴〉

本病は籾のみが発病します。穂ばらみ期に感染することから、出穂直後の籾を光にかざすと、健全籾は透けて見えますが、罹病籾は不透明で、やや肥厚、乳液状のものがつまった状態に見えます。
傾穂期頃に、籾の表面が黄緑色から灰緑色に変色します。その後、頴が開き、黄緑色の肉塊状の突起が現われ、次第に肥大し籾を包みこむようになります。
成熟すると表面の薄い膜が破れ、粉状となります。罹病粒は最初は黄緑色ですが、次第に緑色が強く、さらに黒味が増し、成熟期には暗緑色へと変化します。これを割ってみると、外より、暗緑色、黄緑色、淡黄色、中心部が白色です。
淡黄色部に黒色の菌核形成が観察できます。ただし、全てで観察されるとは限りません。菌核は球状、ネズミの糞状等、形状はまちまちです。粉状物は厚膜胞子で、菌核は成熟後、罹病籾の表面に現れる場合と菌糸の中に、埋れている場合とがあります。

〈発生生態〉

古くは豊年病と言われ、多日照条件で発生する病害と理解されてきましたが、1950年以降の調査や研究により、穂ばらみ期の稲の葉鞘内に胞子が入り、感染、発病に至ることがわかりました。また、穂ばらみ期の多雨が誘因となることも明らかです。発生実態として、多雨年、日陰田、山間地等で多発がみられています。
発生地は常発地となっている場合が多く、伝染源である越年の菌核等の密度が高いと考えられます。
伝染環は、罹病籾で形成された菌核は、次年に、20~25℃になると、子実体を作り、この中に、子のう胞子がたくさんでき、飛散して葉鞘内に入ります。一方、発病籾の表面に出来た粉状物質は厚膜胞子で、これが直接、葉鞘内に入り感染、発病に至る経路が考えられます。特に後者の場合、早生種で発病した厚膜胞子が飛散し、隣接田の晩生種の感染源となると考えられます。

〈防除〉

無発病圃場からの採種を行うことは当然ですが、N質肥料が多かったり、施用時期が遅れると多発の誘因となるので注意が必要です。
農薬による防除は、フェリムゾン・フサライド剤(ブラシン)、イミノクタジン酢酸塩・フサライド剤(ラブサイドベフラン)、銅剤(Zボルドー剤など)などがあります。いずれも出穂10~20日前の散布が有効です。出穂以降の散布では効果がありません。

稲こうじ病(薄い膜のある状態)

稲こうじ(膜がやぶれ、粉状の暗緑色)

PAGE TOP