梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

15.玄米の被害(着色粒)

食糧庁の検査規格では「着色粒」の混入率が0.1%以上で1等米に合格しないことになっています。
「着色粒」にはイネシンガレセンチュウによる黒点米やカメムシによる斑点米、病害の被害粒である濃い茶米も含まれます。さらに、この中には暗色米(斑点ありの茶米)や褐色米(濃茶米)が入ります。これらは、精米にしても褐色や黒色の斑紋(点)が残ります。軽度の茶米は搗精(とうせい)によって、褐変部が糠と一緒に除去されるので「着色粒」には含まれません。
茶米は、我が国では古くより注目されており、また、世界の米の産地においても発生が認められてきました。
発生原因としては、物理的要因として、台風などによる穂ずれ、フェーン現象による乾燥・熱風などの影響、化学的要因として、開頴時に異物の混入、煙や塩風の影響が知られています。ここでは、生物的影響として、昆虫などの吸汁害、糸状菌の寄生による被害粒について紹介します。

1)褐色米(糸状菌)

〈病原菌〉

Curvularia intermedia Boedijn 等4種のCurvularia属菌、Alternaria alternata (Fr) Keissler

カーブラリア菌

〈病徴〉

玄米の色は、軽症粒が飴色、重症粒が黒褐色となり、その間、連続した茶米症状を呈します。さらに、表面に地色より濃い微細な斑点のあるものと無いものがあります。
玄米表面の光沢は正常米に近いのですが、ごま葉枯病菌に侵されたものは錆状に、また、フェーンの被害による茶米も光沢が無くなります。これらの外見的症状から、原因の推定が可能です。
頴の病徴は、成熟期では褐色の斑点や斑紋が発生し、籾全体が汚れた症状となります。菌接種による観察では、穂ばらみ期に葉鞘内へ、胞子を注射接種、あるいは開花直後の籾表面へ噴霧接種した場合、斑点や斑紋が多くなります。開頴時に乾燥胞子を直接、籾内へ落下接種すると、籾全体が褐変します。頴以外の発病はみられません。

正常米と褐色米

左より、1:重症粒(斑点あり)、2:同(斑点なし)、3:軽症粒(斑点あり)、4:同(斑点なし)、5:正常粒

噴霧接種(右:正常)

頴内へ乾燥胞子接種(右:正常)

接種方法と頴の病徴(7日後)

〈発生生態〉

各病原菌は、野外で、一般に採集され、雑菌に近い糸状菌です。これらの菌は、水稲やイネ科雑草、特にメヒシバなどの枯死寸前の下葉や枯死部位の上で、腐生的に繁殖し、多量の胞子を飛散させているようです。

枯草上での胞子形成

胞子の飛散は、メヒシバが出穂する、梅雨明け頃より多くなり、イネの成熟期まで続きます。
時刻別にみると、いもち病菌は真夜中にピークがありますが、これらの菌は逆に、午前11時頃のイネの開花時刻に合わせたようにピークがきています。これは、イネの開頴状態と胞子の潜入が一致しているとみてよいのです。(図13参照)

図13.各種病原菌胞子の時刻別採集
注)1980, 回転式, 1時間当り平均(富山市吉岡) 18×24mm×2枚

籾表面の胞子、籾内へ潜入した胞子は、時間の経過とともに菌糸が蔓延します。着色程度の推移は、20℃前後の低温下では茶米ですが、28℃前後の高温条件になると、出穂後4週目頃から濃茶米(重症粒)へ、またこれらの表面に、斑点も発生してきます(図14参照)。このことから、多発の誘引として、出穂後の高温が極めて重要であり、残暑の厳しい年は多発が心配されます。

図14.接種後の日数と褐色米の症状
注)品種:コシヒカリ、C.clavata乾燥胞子接種 登熟温度昼32-夜25℃

〈防除〉

耕種的には、土壌・肥料条件として、黒ぼく土でやや多い傾向が認められていますが、むしろ、N肥料の多施用、特に、Nの追肥量が多いと発生が多くなるので、注意する必要があります。品種間差異が認められますが、明確なものでなく、耐病性品種の利用は困難です。
管理面では、早期の落水は、重症粒の発生を助長するので避ける必要があります。また、本菌の飛散源が主に畦畔雑草ですので、生育期の除草は極めて大切ですが、それでも、畦畔沿いに、2~3列に、褐変籾が目立つ場合は、この範囲を約1週間早く、しかも別刈りとして処置します。
また、コンバイン刈りの場合、高温時に、高水分の生脱籾を長時間貯留すると、着色が進むので、すみやかに乾燥作業に入ることが大切です。
有効薬剤はフェリムゾン・フサライド剤(ブラシン)があります。
いずれにしても、出穂期前後の胞子の飛散源を除去することが最も大切です。

初期の籾病斑

2)腹黒米(糸状菌)

〈病原菌〉

Alternaria padwickii (Ganguly) M.B.Ellis

〈病徴〉

典型的な症状は、玄米の腹側を中心に、ややくすんだ黒色のアザ状の斑紋が形成されます。重症の場合、斑紋は胚芽部から頂部近くまで拡がり、また、背部まで変色し、玄米全体が黒褐色となります。軽症の場合は腹部がわずかにカスリ傷程度の黒褐色の変色となります。
一般に、玄米の約1/3が変色するものが多く、玄米の光沢は正常米に近く、粒長、粒厚、千粒重はやや小さいですが、米撰機による除去は困難です。
頴の病徴は、外観の症状発現がみられなく、その内側は、玄米の腹黒病斑と相対する腹部の部位が淡褐色から褐色に変色します。

腹黒米

〈発生生態〉

菌の越冬は、主に、乾燥わらと考えられています。腹黒米の発生に直接関与する伝染源は、開花期の下位葉、特に、枯死葉と考えられます。ここで増殖した胞子は空気の流れにより、穂に達し、開頴中の籾内へ潜入するようです。
胞子飛散のピークは午前11時頃で、前述の褐色米の関与菌や花粉の飛散時刻とほぼ一致します。頴内の胞子は、黄熟期に入ると、急激に発芽します。腹黒米は黄熟期がすぎる頃から成熟期までに漸増します、
胞子は、菌の侵入後、約3週間は未発芽のままです。
原因は籾内の湿度、玄米の活力、および植物ホルモンの影響などが考えられます。

図15.A.padwickiiの生活環模式図(田村、1976)

〈防除〉

基本的には、開花期間中の飛散数を少なくするか、胞子飛散のピークと開花期をはずすような管理が重要です。胞子の形成は稲の下葉(枯死)に限定されるので、対策がたてやすいのですが、無効分げつが枯死する時期と重なり、根や地上部の健全化や活力維持が重要です。特に水管理がポイントです。
農薬による対策は、水稲に登録のある剤がありません。

3)紅変米

〈病原菌〉

Epicoccum purpurascens Ehrenberg ex Schlenchtendahl

〈病徴〉

病名が示しているように、玄米の表面が紅色の斑紋を呈すのが特徴ですが、温度条件などにより、紅色、紅褐色~褐色までみられます。発病部位は、玄米全体から中央部や周辺部まで、また、程度も淡~濃まで、また、まだらなものまで様々です。いずれも、健全部と罹病部は明瞭な境界があります。
発生部位は玄米の背部が多く、側部などでも観察されます。頴の病徴は外見上、判別困難です。

〈発生生態〉

本病は古くより、北海道を中心に、東北地方で発生がみられ、まれに、北陸、中国地方でも、出穂後に、低温、多雨が続いた年に発生がみられてきました。
伝染源は、畦畔雑草の枯死葉上に形成された分生子が主と考えられています。分生子の飛散は前述の2病害と同じく、昼間の飛散数が多く、開花時に、頴内に潜入するものと考えられています。
潜入した分生子は、すみやかに発芽、菌糸へと生育しますが、糊熟期まで米粒への侵入ができず、果皮の老化に伴って、感受性が高まり、最も高まる黄熟期以降に侵入するようです。
分生子の形成適温は21℃ですが、登熟温度が低い場合に多発となります。たとえば、昼22℃-夜14℃の低温条件では、30℃-22℃の高温条件に比較して顕著に高い試験結果があります。(図16参照)

図16.登熟温度および低温処理時期と紅変米の発病(1990、田中)
注)開花期にE.purpurascensを接種

品種と発病との関係は、北海道立農試の結果ではかなり明確で、割れ籾の多い品種ほど多発することが明らかにされています。この原因は、玄米への水分の供給と、玄米表面の老化が早いことによると考えられています。
また、発生が出穂後30~35日目頃から初発し、成熟期以降に急増するため、収穫の遅延は発生を助長します。

〈防除〉

伝染源となる畦畔除草は出穂1ヵ月前に終了し、刈草は圃場外に搬出することが重要です。また、風による籾のきず防止に、防風網や防風垣が有効とされています。
また、適期刈取りが最も重要でしょう。
薬剤では、チオファネートメチルゾル剤(トップジンM)があります。

4)斑点米

稲穂カメムシの吸汁害による被害粒を総称しています。斑点(斑紋)は加害虫により異なります。
発生は地域により異なりますので、地域情報を参考にしてください。

カメムシ斑点米 左:正常米

5)黒点米

イネシンガレセンチュウの被害粒です。斑紋は、主に、玄米の側面が黒いクサビ状にき裂します。
成稲では主に止葉の先端が白化、ねじれ状となります。健全種子の利用が基本ですが、温湯浸法や殺虫剤の浸漬消毒が有効です。

黒点米

以上、玄米に発生する病害虫の被害粒は突発的に、収穫後に判明する場合が多いのですが、共通する点は畦畔雑草や稲の枯葉が重要な伝染源であるということです。出穂前にこれらの部位(場所)を衛生的に管理することが最も大切です。

開花中の稲

健全米粒

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