梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

2.良い種籾に仕上げるために

採種作業をめぐる環境は後継者不足や高齢化の影響を受け、良い種子の生産に変化を与えています。
特に、後継者不足は、採種地域内において中止農家の発生から、一般管理の水田へと転換し、混在するようになってきているようです。そのため、これらの水田に発生した病害虫が採種田に影響し、トラブルの原因となるケースもあるようです。
また、高齢化は採種圃の管理、特に炎天下の被害株の抜取りや病害虫防除などの作業への対応が出来なくなっている現状も生じているようです。
一方、加温育苗の普及にともなって、苗代でそれほど目立たなかった種子伝染性の病害が育苗後半より発生するケースが顕在化してきました。この原因は加温育苗は発芽適温(32℃)に設定されることにより、未熟籾や病害虫の被害籾も発芽し、十分に成苗化し、これが保菌苗となって、その後の蔓延の源となり、問題となっています。
以上のことを考慮して、以下の作業の必要性を理解していただきたいと思います。

籾表面の菌糸生育状況(ばか苗病菌)

ばか苗病菌の小型分生胞子

比重選

水田では、昼夜を通じて、いろいろな種類のカビ(胞子)が飛んでいます。その種類は、いもち病菌やごま葉枯病菌のように、イネに対して強力な病原力を有するもの、葉や茎に直接侵入出来ないが、籾の中に入るとじわじわと繁殖し、登熟に悪さをするもの、まったく無害(雑菌)なものまで、多種多様です。また、菌の生息部位は、当然のことながら籾表面が種類も量も多く、比率は低いが、胚部まで侵している重症のものまでいろいろです。
このうち籾表面の菌は洗浄や種子消毒で完全に除去されますが、玄米や胚部まで達している病害の除去が重要です。幸い、従来より実施されてきた比重選は、これらの選別に良い方法です。種子伝染の代表病害である、イネばか苗病を例に、述べてみましょう。

図1は多発圃場7筆7品種を採取し、比重区分を行い、それぞれの項目について調べ、平均したものです。
特に、比重1.0以下の水に浮く籾は、籾の発芽率が低いだけでなく、ばか苗病発病苗率および玄米からのばか苗病菌の検出率も著しく高いことがわかります。比重を高めるにつれて、籾の発芽率は高まり、病苗率が漸減することがわかります。
このことから、水に浮く「しいな」の除去が重要であると理解していただけると思います。また、このように、激発田で収穫された籾は、比重選のみで、完全に防止出来ないこともわかっていただけると思います。
「比重選」には、一般に硫安液を用います。うるち籾では比重1.13(水10ℓに硫安2.64kgを溶かす、卵を浮かすと、10円玉程度浮く)に、もちおよび酒米の籾では1.08(水10ℓ,硫安1.50kg)が基準とし、浮き上るものを除去します。選別後、ただちに、よく水洗し、種子消毒なり、風乾して保存するなりしてください。

図1.種子の比重区分と籾の発芽率, ばか苗病菌率および玄米からのばか苗病菌の検出率の関係(1973)

種籾につく病原菌の種類

種子伝染する病害には、表1に示したように、細菌病で3種、糸状菌(カビ)で3種が主なもので、細菌病はいずれも育苗期の発生・被害を及ぼし、糸状菌病は育苗後期から本田期に発生し、苗箱から本田への持込み病害として重要です。いずれの病害も、採種圃での防止が最も重要です。
防止には、発病株等の抜き取りによる除去と農薬による防除の2通りの方法がありますが、前者による方法が最も有効で、基本となります。いもち病とごま葉枯病には発生後に、地上散布でも有効剤がありますが、その他の病害には発生後に防除する有効剤はありません。

表1.種子伝染する主な病害と病徴

また、もみ枯細菌病には予防的に、有効な薬剤があります。有効な薬剤のうち、Dr.オリゼ箱粒剤はいもち病、ごま葉枯病およびもみ枯細菌病に、育苗箱施用でいずれも有効です。
発病株の除去には、写真にみられる病徴を指標として抜き株していただければよろしいですが、細菌病の褐条病および苗立枯病は成稲に病徴をしめしませんので方法がありません。
この2細菌病は、水田内ではどこにでも生息している、雑菌的な生活環を持つと考えられています。そのため、圃場レベルでは倒伏させないような管理が最も重要です。

このほか、種籾としては、イネ稲こうじ病の被害粒の混入はゆるされません。常発地や出穂前の降雨により、発生が左右されるので事前に注意したり、薬剤による対応が必要でしょう。

籾表面の菌糸生育状況(ばか苗病菌)

ばか苗病菌の小型分生胞子

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