梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

3.苗半作~苗の生育を科学する

苗作りは、昔から『苗半作』と呼ばれ、稲作りにおいて最も重視されてきた技術です。良い苗を植えることは、その後の活着、初期生育が早く、また、圃場全体の揃いが良いため、本田全般の肥培管理が容易となるからです。
良い苗を作るため、籾から移植時に至る、イネの形態や生理をよく知り、理にあった管理を行うことが極めて重要です。

水稲苗

籾は玄米と籾殻からなり、その基部に護頴など付属器官がついています。籾殻は図2で示したように、内頴(ないえい)と外頴(がいえい)からなり、外頴の先に芒(ぼう,のぎ)があります。両頴の縁はチャック状で、外頴が内頴を包みこむように鉤合(こうごう)しています。成熟後半に、玄米の肥大が良いと、鉤合部にすきまが発生し、“割れ籾”となる場合もあります。外頴は籾殻の約2/3を占めています。
玄米は胚と胚乳に分かれ、胚乳の上面には「ぬか層」と呼ばれている果皮と種皮で覆われています。胚には、上方に幼芽、下方に幼根の原基が分化しています。幼芽には、外より鞘葉、1葉、2葉、3葉までの原基が分化しています。幼根は種子根となります。
乾燥状態ではいずれも休眠していますが、吸水し、適度の温度が与えられると、活動を始め、まず鞘葉が外頴を破り、上方へと発芽し、つづいて種子根は下方へと伸長してきます。

図2.出芽時の籾の構造模式

地上部の生長過程

(1)メソコチル(中胚軸)

乾籾の時は未発達ですが、吸水・出芽にともなって、種子根の基部と鞘葉節の間がつながり、これを「メソコチル」と言います。正常値は約2mm程度ですが、暗黒・高温下に遭遇すると、敏感に伸長する特徴をもっています。この性質を利用して、出芽時の温度条件などが診断できます。

(2)鞘葉

籾から最初に現れる半透明・円筒形・鞘状の幼芽を鞘葉(しょうよう)と言います。この中から、腹面を破り、第1葉が出葉してきます。またこの基部には鞘葉節があり、最初の冠根が5本出てきます。

(3)第1葉(不完全葉)

最初に現れる緑色の出葉を言いますが、葉身部がこん跡程度であることから不完全葉とも呼ばれています。この基部に第1節があり、そこから冠根が約9本出ます。この冠根は田植後の活着に最も重要です。

(4)第2葉(完全葉、普及上は第1葉としている)

葉身と葉鞘が明確に区別できることから普及上、この葉を第1葉と呼んでいます。葉鞘高は出葉から緑化期の温度により左右されやすく、目標は3.0~3.5cmとしたいものです。これより長くても、短くても、その後の管理や田植(活着)に支障を与えます。

(5)節と節間

葉の基部には節があり、節から発根します。葉と節間と節の関係は図3の通りです。各節には定った数の根のもとがありますが、不良な育苗環境(特に、は種量・床土の条件・育苗温度など)により、発根の出来ない根のもとが発生してきます。
多くの根を確保するためには、太い茎(節)が得られるような育苗条件が求められるのです。

図3.苗の形態の模式図と名称

(6)根の発達

根のもとは、鞘葉節が5、第1葉節が9、第2葉節が11~13あると言われています。この根のもとは、さらに分化→決定→発根へと発達します。
この過程で軟弱徒長苗のように、細い節では当然、根のもとが少なく、また、物理的・化学的な影響を強く受け、素質の低下した苗は根のもとの減少や発根にまで至らない現象が生じるのです。このため、は種量・育苗温度・床土条件などに注意すべきです。
出芽と発根の間には、おおよそ、出葉と同時に、その1枚下の葉で節の分化が、さらにその1枚下で根数の決定、さらにその1枚下で発根する関係があります。
たとえば、3.5葉期(普及上で2.5葉)の移植では、種子根が1本、鞘葉節の冠根が5本で、計6本の根があります。第1葉節の冠根はまさに発根直前で、活着に極めて重要な役目を持っています。
また、冠根(親)は日数の経過とともに、2種類の分岐根(子)を出します。まず細い分岐根を出し(これには2次分岐根が出ません。)、次に、等間隔に太い分岐根を出し、長く伸び、この分岐根に、さらに分岐した根が発生し、これを2次分岐根(孫)と言います。これら分岐根はマット形成に重要な役目をはたしています。これらの発生に対しても、冠根の場合と同じように、環境要因等の影響を受けるのです。

(7)胚乳

図2で示したように、乾籾の胚には第3葉まで分化していることを示しましたが、胚乳はこれらを完全に展開、育てる栄養源を保持しているのです。そのため、胚乳の残存は、1葉期で約70%、2葉期で約65%、3葉期で約10%、移植時の3.5葉期で約5%まで減少します。移植時の5%の残存は活着に極めて有効な活力源となります。老化苗では残存がなくなり、活着が遅れる原因となります。
また、2葉から3葉にかけて急激に胚乳の量が減少しますが、これは地上部の乾物の増加に使われた証拠であり、この頃より、床土中の肥料が利用されます。

(8)目標とする苗

暖地と寒地で多少差があると思われますが、乾籾120g/箱まきの場合、草丈12~13cm、第2葉鞘長(普及上で第1葉)3.0~3.5cm、葉数3.5枚(同で2.5枚)、乾物重14~15mg/本、生体重70~75mg/本が健苗と言えると思います。

理想的な苗

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