梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

4.種子予措

1)種子消毒

種子消毒は、浸種前の乾燥籾を対象とする乾燥籾消毒と浸種後または浸種と同時に行う湿籾消毒に分けられます。前者は冬季など農閑期中に作業を実施出来ますが、消毒後の籾の保管などに注意すべき点があります。「消毒済の種籾」はこれにあたります。後者は播種前の浸種との体系の中で実施されています。
消毒の方法は、薬剤の種類によって若干異なりますが、種籾の表面に薬液を塗す、粉衣法と薬液に浸す浸漬法があります。さらに、浸漬法には高濃度・短時間消毒と低濃度・長時間消毒があります。また、消毒済種籾には粉衣と薬液吹付けの2方法があります。
実用にあたって、いずれの方法も有効ですが、使用上の注意点を守って、経営規模や実施時期などを考慮し、選択してください。
薬効発現には水が必要です。特に、消毒済籾では籾表面に薬剤が附着した状態で、籾内部の病原菌は生きたままです。そこで、病原菌を殺すのに、液(水)温と時間が密接に関係しています。特に、後述の浸種と同時消毒する場合、薬剤の流亡や消毒時間(液温)などの不足から生ずるトラブルに注意したいものです。
また、近年、無農薬栽培の一手段として、60℃・10分間温水浸漬と育苗期に発生する細菌病対策として催芽時に2.5%食酢液・30~32℃、16~24時間浸漬を組合せた技術も実用化しています。

市販の種子消毒籾

2)浸種

胚が活動を始めるには籾全体が十分に吸水する必要があります。さらに、適度の温度が与えられると発芽します。一般に、籾水分が約15%になると発芽の準備に入り、約25%で発芽します。
吸水は水温と密接な関係にあり、積算温度100℃でほぼ25%の水分が確保されます。これより、浸種日数を計算すると水温10℃の場合10日、13℃で8日、15℃で7日の日数が必要となります。10℃以下の場合、計算上の浸種日数を確保しても苗丈など、その後の生育がやや抑えられる影響があり、また20℃(5日)以上の高温条件で、発芽に個体差がみられ、バラツキが目立ってきます。そのため、13℃~15℃の水温を用い、100日度を目指したいものです。

浸種状況

種籾は網袋を用い、袋の内部まで、発芽に必要な酸素が十分に含んだ水が行きわたるような管理が必要です。
水量は、種籾の2倍量以上の水が入る容器を用い、浸種中は、袋内の吸水程度を均一に保つため、上下を入れ換えることも大切です。特に、浸種の後半(完了3日前頃)には酸素が消費され、炭酸ガスや有機酸または発芽阻害物質も溶け出しています。水の更新により除去してやらねばなりません。発芽阻害物質は、不明のところも多いのですが、休眠物質のモミラクトンA、同Bも関係していると考えられています。
コシヒカリは日本稲の中でも休眠性の最も強い品種に位置付けられています。また、登熟後半の高温条件によって発芽が遅延することがわかっています。前年の登熟期間に高温が続いた場合、浸種は十分注意して行う必要があります。
また、浸漬温度と種子由来の病害の発生との間に図4に示したように温度が高くなるとばか苗病などでは発生率が高まります。
特に注意すべき点として、
(1)3月末から4月初旬の早い育苗の場合、水温を高める工夫が必要。
(2)消毒済籾を用いる場合、浸種後2~3日は水の交換なし、その後籾袋を上下に入れ換え、酸素の富んだ流水などを利用。
(3)大型施設で、長期間にわたる場合、前半と後半で水槽の温度条件が大きく変わるので、籾を見ながら管理する必要があります。

図4.浸漬時の水温とばか苗病発生率3)との関係(1978)

1)浸種日数は100日℃をそろえた。
2)催芽温度は全区30℃、播種後の温度は全区25℃とした。
3)供試品種は日本晴など3品種の平均値

3)催芽

催芽は芽長約2mmに揃えるために重要な作業です。暖地の一部や温度が高くなった時期の育苗では、浸種が完了した時点で催芽まで進み、改めて、この作業を実施しない場合もあります。催芽には蒸気式催芽機(湿熱)や電気式催芽機(温水)または風呂を利用した温湯による方法などがあります。いずれも、設定温度はイネの発芽最適温度32℃です。
出芽には品種間により難易幅が大きく、この点を十分考慮し、数品種を一緒に処理することを避け、品種毎に実施することが大切です。コシヒカリは出芽難の品種です。
注意点として、湿熱方式では籾袋の水切りを十分に行い、袋の中心部まで温度がすみやかに、均一に保たれるように、また、温水方式では水と籾の比率を守り、水中酸素が不足とならないように気をつけたいものです。

催芽籾

4)播種

深さ20mmにつめた床土に、箱当り1.0~1.2リットルの潅水、全体に水がゆきわたり、かつ、水がたまらないように切れた状態の土に、所定量の種籾を播き、約5mmの覆土をします。
播種量は、地域や品種、育苗方式によって差があります。たとえば、稚苗では箱当り乾籾で約120~140g、中苗で80gなどですが、10a当りの箱数、栽植密度、田植機のかき取り面積(本数)により決められます。品種間では大粒種(主に酒米)はコシヒカリよりも多めとなります。(播種量表2参考)
育苗施設では、播種プラントを利用して、潅水、播種、薬剤処理(後述:苗箱発生の病害及び本田期発生の病害虫防除剤)、覆土までの工程が流れ作業で実施され、特に問題点はありませんが、運転始めには毎年「試し播き」による確認が極めて大切です。

表2.コシヒカリにおける乾燥籾を基準とした播種量換算表

播種状況

播種プラント

5)出芽

表3でもわかるように、出芽器の温度は30℃が適温です。処理日数は2~3日です。芽の長さが覆土表面より5~10mm出た時点で加温を終え、出庫しましょう。
若干の不足の場合は余熱を利用してコントロールしてください。伸びすぎは苗質の劣化に直接つながります。設定温度を発芽適温の32℃を目標にすると、出芽には良好ですが、リゾープス菌などの繁殖が急激に増加し、被害を受けやすくなります。さらに高温になると、白化現象の誘因となったり、メソコチルや鞘葉の異常伸長につながり、その後の管理が非常にむずかしく、障害苗の発生につながります。
一方、29℃以下では出芽が遅れ、さらに不揃苗となります。出芽器の温度の管理には温度計の確認やサーモスタットの点検に注意したいものです。

表3.出芽と温度との関係(星川 1971)

出芽施設における大量育苗状況

出庫時の出芽状況

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