梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

5.床土

健苗育成には、まず適正な床土を用いることが最も重要です。
適正な床土とは、
1)地上部、地下部のバランスがとれた生育を示し、田植機に適合したマット形成となること。
2)床土由来の病原菌や雑草の種子などが混在しないこと。
3)成品が均質で、育苗の作業や管理が簡便にできること。
4)価格が安いこと。
などが考えられます。
市販の育苗床土はこれらの条件をほぼ満たしているものと考えられます。ここでは育苗センターで作成されるものも含め、自家製床土を作る場合の留意点を述べてみましょう。
床土作りは、原土の採土→ 貯留→ 砕土→ 乾燥(乾熱殺菌) →篩別→ 堆積(保管)の工程となります。

市販の床土

〔物理性〕

1)粒径組成 砂(粗砂,細砂,微砂)含量 85%以下、粘土含量 5%以下

2)土壌水分 約10%

これ以下に仕上げると、播種時の潅水において、箱全体に、短時間で水分が均一に行きわたるのが困難で、床土の水分ムラが発生しやすくなります。また、20%以上になると、播種プラントのふるいの目づまり、ホッパー内でブリッジ現象が生じやすくなります。

3)土壌粒度 床土 4mmふるい通過、覆土 3mmふるい通過

さらに、粒度の比率は1~4mmのもの約50%、1mm以下のもの約50%を目安とする。この基準値は根ばりや田植機の利用上から決められていますが、保水性を高め、根の生育からみると、団粒構造が望ましいことから、市販品の中に、団粒加工した商品もあります。

〔化学性〕

4)土壌pH 4.5~5.0(H2O)

pH5.5以上になると、床土や置床に生息しているピシウム苗立枯病菌(低温時の育苗で被害が大きく、従来ムレ苗と呼ばれ、生理障害の一種と考えられてきた)の被害が図5で示したように急増してきます。
また、pH4.0以下になると図6で示したように、細砂の多い床土では土壌中のアルミニウム(Aℓ)が水中に溶水してきます。このアルミニウムが図7に示したように、イネの出芽時の根の伸長に悪影響を与え、マット形成不良の誘因となります。
原土のpHがこの範囲に入らない場合、高い時は粉砕ピートモスを加え低下させます。また、低い時はくん炭を混ぜるなどして調整してください。

図5.床土のpHとピシウム菌苗立枯病の発生(1986)

図6.床土pHと土壌溶液Aℓ濃度(岡山 1990)

図7.出芽時のAr濃度と芽長1)、根長2)の関係(岡山 1990)

1)水耕法25℃, 7日間
2)Aℓ濃度0の伸長比率

5)置換性アルミニウム 2.5me以下/乾土100g

土壌は長い年月をかけて、岩石から砂(粗砂,細砂,微砂)を経て粘土まで形状変化してきました。堆積したこれらも、水に溶け易いカルシウムやマグネシウムは流亡し、流亡しにくいケイ酸、酸化鉄、アルミナが多く残った粘土へと変化してきました。特に下層土では有機物や肥料の補給もなく、その傾向が強いのです。
このような土壌は、前項のpH 4.0以下(図6参照)となり、そこに、施肥に硫安や過りん酸石灰などを添加することにより、水中にアルミニウムが多量に溶出してきます。これが、出芽時の発根に強く影響を与えることになるのです。
アルミニウムの発根障害、マット形成不良(低下)は床土のpHと置換性アルミニウムの量が組合った結果、発生する被害です。
黒ぼく土や腐植質の富んだ土壌は、緩衝作用が強いことから、アルミニウム溶出が少なくなります。このことを参考に、腐植質の資材を添加することにより、より育苗しやすい床土に改良することが出来ます。

6)肥料添加量 床土(乾土)1kg当り、N・P・Kそれぞれ成分量で0.3~0.36g

小規模(自家用)の場合、用土は箱当り約4kgとして、使用箱数より準備し、播種1週間前に、ミキサー等を用い土壌と肥料をよく混合して作成します。
大量育苗の場合、早くから準備が必要であり、保管中に変質が生じないように、土壌中の水分に注意して作成します。
作成後はビニールシートなどで覆い、リゾープス苗立枯病菌の混入を防止しましょう。

育苗前の準備

7)その他

  • ・乾燥機で土壌を乾燥する場合、乾燥能力を落とさないために、バーナーの燃焼量を大きくし、熱気管に付着したカーボンを絶えず取り除き、燃料の気化の促進に努めましょう。不完全燃焼等により、床土に燃料が付着すると、潅水時に水をはじき、生育ムラの原因となります。
  • ・増量資材 無機質、有機質のものがありますが所定の混合量を守り、土壌・肥料と十分に、均一になるように混合することが大切です。
  • ・代替資材の利用 粉砕籾殻、ウレタン剤などを用いた育苗が行われていますが、製品の特性を十分理解して、特に施肥、潅水に注意して管理する必要があります。物理性や化学性の調査はもよりの農業普及指導センター等の指導、協力をうけましょう。

育苗管理のミスから生ずる障害苗とその対策

1)白化現象

1~2葉目の緑化が不完全となり葉身、葉鞘が白化する現象です。催芽から出芽にかけて、暗黒下で、約35℃の高温で管理した場合、緑化時に約15℃以下の低温に遭遇した場合及び出庫(室出し)直後に直射日光にあてた場合に発生します。
対策として、催芽や出芽の温度設定の確認及び処理時間の厳守、緑化床へ搬出したら、直ちに寒冷しゃ等の被覆をします。

白化現象(左:白化苗 右:正常苗)

2)籾の持ち上がり(根上り)現象

出芽器から出す時点で、覆土が持ち上がったり、タコの足状となった根が覆土の上に出る現象です。原因は根の伸長速度が速いため、床土にもぐり込むよりも、根の伸長力が反動となり、籾と覆土を持ち上げるためです。

対策としては
(1)根がもぐり易い床土にすること。
粒子の大きい砂の含量が高くなると、吸水すると盤状になり易いので、粘土の比率を高めたり、腐植質を加えたり、すきまを作るため団粒化するなど、床土の改善が必要です。
(2)床土に軽い土、覆土に重い土を用いてみましょう。
(3)積重ね方式を利用している施設では最上位に重い捨箱や押え棒を用いるなどの工夫が必要です。
(4)播種量を少なくし、床土と覆土の密着をよくします。
播種量が多いと、籾層が出来、覆土が上がりやすくなります。健苗育成からみても、120~140g播にしましょう。
(5)覆土は芽の貫通しやすい状態で出芽させましょう。
覆土の上から潅水すると土が締り、堅い膜状となり芽の力をまとめて受けることになります。
(6)出芽温度の再確認と室出しが遅れないようにしましょう。このような症状の苗を調べると、メソコチルや鞘葉が伸びすぎている場合が多く観察されます。サーモスタットの再点検や出芽温度の再調整、加温時間と余熱利用などで工夫してください。
(7)発生をみたら、ただちにジョウロで潅水し、土を沈め、地表から籾や根が見えないように覆土を補ってやりましょう。地表部に露出していると、その後の発根が抑えられ生育も遅れます。

覆土が上がった状態

根や籾が露出した状態

メソコチルの伸びた苗

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