梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

6.育苗期に発生する病害と対策:2)育苗資材由来の病害

2)育苗資材由来の病害

育苗箱や施設などの洗浄や消毒により、育苗環境を清潔に保つことが防止の基本です。

(7)リゾープス菌による苗立枯病

〈病徴〉

出芽時に菌糸が急速に繁殖し、搬出時に、箱全体が白い綿毛状のカビで覆われ、その先端に胞子が形成されると、灰白色に見えます。この状況から「白かび立枯病」とも呼ばれています。発生すると、出芽不良や生育不良苗となります。根は短く、根数少なく、褐変し、また、先端部が異常肥大する症状もみられます。

〈病原菌〉

Rhizopus chinensis, Rhizopus arrhizusなど6種類

〈発生生態〉

病原菌は室内に生息し、育苗箱、出芽器のカバー、床土や施設が伝染源と考えられます。各菌とも生育適温は約30℃で、発育が極めて早い特徴を持っています。
床土との関係では、保水力の大きい、火山灰土は砂壌土より多くなり、N施用量が多いと発生が助長されます。また床土水分が過湿になると障害が増加します。さらに、緑化期に5~10℃の低温に遭遇すると助長されます。

〈防除〉

(1)育苗箱などの資材は、洗浄や消毒を手抜きせず行い、保管についても、ネズミの住みかとならないようにし、乾燥する場所で行ってください。
(2)作業や運転開始前に、清掃してから始めます。
(3)前年の床土の残りなど(残土の利用)は使用しないようにします。
(4)薬剤防除は、育苗箱の消毒にベンチアゾール剤(イチバン)、次亜塩素酸カルシウム剤(ケミクロンG)があり、播種時の灌注に、TPN・ベノミル剤(ダコレート)があります。使用上の注意事項を守って使ってください。

床土表面に綿状菌糸の繁殖

(8)トリコデルマ菌による苗立枯病

〈病徴〉

搬出直後の育苗箱の中央部で、不出芽から出芽遅延が集中して発生し、地表にうっすらとした、白い絹糸状のカビが発生します。その後、出芽した苗は、不完全葉が黄化や褐変し、生育が停止し、枯死に至ります。根は短く、根数も少なく、褐変しています。籾の周囲は白色の厚い菌叢に覆われます。2~3日すると、床土表面と同じく青緑色(胞子塊)に変り「青カビ立枯病」と呼ばれています。

〈病原菌〉

Trichoderma viride (Persoon) Link ex Gray

〈発生生態〉

育苗資材や床土が伝染源となって、加温育苗により発生、被害を与える病害です。発育適温は30℃付近で、出芽温度とほぼ同じであることから、温度管理によるコントロールは困難です。本病は床土のpH4.0付近で多くなり、また、砂質土で多発することから、リゾープス菌とほぼ反対の発生条件をもっています。

〈防除〉

(1)リゾープス菌と同様に、育苗資材や周囲の環境を清潔にします。
(2)消毒剤はベノミル(ベンレート)、ベノミル・TPN剤(ダコレート)の播種時の潅注が有効です。

出庫直後の白色菌糸繁殖と出芽不良

箱中央部の過湿と菌糸の繁殖と出芽不良

(9)ピシウム菌による苗立枯病

〈病徴〉

主に、1.5葉期から2.5葉期の苗箱において、床土水分が十分に保持されているにもかかわらず、晴天日の日中に、突然同心円状、またはドーナツ状に葉身が巻き、青立ち、枯死します。曇天で蒸散量の少ない時は夜間に回復しますが、2~3回繰返し枯死に至ります。地際部はアメ色に変色しています。

〈病原菌〉

Pythium graminicola Subramanian など6種類

〈発生生態〉

病原菌は床土及び置床に生息している土壌菌です。特に、水田土や畑土を床土に用いると多発します。置床の菌は潅水や根の伸長により置床中の菌を拾うことにより発病します。床土pHとの関係は5.5以上のアルカリ側で発生が多くなります。また、5~7℃以下の低温に遭遇すると、また回数が多くなるほど多発します。このため、暖地や暖かくなってからの育苗では発生しません。感染は、播種直後や早い時期で不発芽籾に、その後では立枯症に、さらに1葉期頃より、萎凋症となります。

〈防除〉

(1)前述(床土の項)の適正な床土を用います。
(2)置床の排水に注意し、箱の下に、不織布などを敷き、根が置床に達しないようにします。
(3)5~7℃の低温が予測される場合は暖房を利用します。
(4)処理薬剤として、ヒドロキシイソキサゾール・メタラキシル剤(タチガレエース)があります。

発病初期(中央部葉身のロール症状)

育苗後期(ドーナツ状に枯死)

(10)フザリウム菌による苗立枯病

〈病徴〉

水田土や畑土を床土に利用した場合、緑化床搬出直後より、不発芽籾や生育不良苗が発生し、その後の低温遭遇などにより、箱内の生育ムラが目立ってきます。生育不良苗は、はじめ鞘葉や不完全葉の基部が褐変し、生育停止から枯死に至ります。地際部、特に籾やその周囲の土に、白色~紅色のカビが密生します。これより「赤かび立枯病」と呼ばれています。根は褐変し、短く、細根も少なくなります。

〈病原菌〉

Fusarium roseum Link f. sp. Cerealis (cooke)snyder et Hansen, F.solani (Martius) saccardo

〈発生生態〉

病原菌は畑土や水田土、山林など有機物の多い、表層土に生息している菌です。一般に、病原性はそれほど強くありませんが、傷籾、出芽や育苗中の低温遭遇などにより、苗の体質が低下した状態になると発生が助長されます。

〈防除〉

(1)特に適正な床土を利用しましょう。(床土の項参照)
(2)防除薬剤 ヒドロキシイソキサゾール・メタラキシル剤(タチガレエース)、TPN剤(ダコニール)があります。

生育ムラ症状

坪状に発生した状況

(11)リゾクトニア菌による苗立枯病

〈病徴〉

育苗後半に、箱の中央部などで、葉身が褐色や黄化、一部萎凋します。かきわけてみると第1葉の葉身の黄化、「葉腐れ」と葉鞘には灰緑色~褐色の周縁部がまる味をおびた、一見、紋枯病に似た病斑が高さがほぼ同じ位置の発生がみられます。よく見ると、罹病部には細い菌糸が、くもの巣状にからみあっています。時に、病斑上に、白色~淡褐色の小さい菌核がみられます。

〈病原菌〉

Thanatephorus cucumeris (Frank) Donk〔Rhizoctonia solani kühn〕

〈発生生態〉

本菌は、イネ紋枯病のなかまで、土壌伝染性の病害として有名です。床土に畑土を用いたり、水田を利用した「どぶ付け潅水」法の利用において、多発がみられます。発生が育苗の後半になることから、枯死に至ることはありません。一般に、厚播きや多肥で、発生が助長されます。

〈防除〉

(1)毎年発生をみている場合は、育苗場所や潅水方法などの再点検が必要です。
(2)薬剤による防除は、バリダマイシン剤(バリダシン)など紋枯病防除剤の利用があります。

病斑の位置はほぼ同じ

紋枯病に似た病斑

(12)その他

イネシンガレセンチュウには種子消毒後、MEP剤(スミチオン)またはカルタップ剤(パダン)の 浸漬消毒を行います。

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