梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

7.育苗管理

〔緑化期〕

育苗箱の搬出により緑化期に入ります。緑化期は苗作りの中で非常に重要な時期です。この時期のイネは、葉緑素の形成、最初の冠根の発生など生理的にみて、大転換期にあたります。加えて、暗黒下・32℃の高温・恒温条件から、陽光下・低温・変温条件などへ環境面でも大きな変化に遭遇します。
理想的な育苗のために、目標温度を1日目が約25℃、2~3日目が20℃前後になるように管理することが大切です。

1)苗箱の搬出

出芽器からの搬出の適期は、芽が床土上に1cm程度伸びた頃です。
搬出時の好適な条件は温暖で、無風の午前中に実行することが理想です。小規模な育苗では、育苗時期や作業量から、この条件を満たすことは容易ですが、大規模な施設では育苗計画に沿った作業のため、多少の不良天候でも進めなければなりません。
緑化期に、10℃以下の温度に遭遇すると、第1葉(完全葉として)の葉鞘高が短くなり、また、根の生長も一時停止したり、抑制され、その後の正常苗へ向けての軌道修正の管理が非常に難しくなります。
床土温度を急激に下げないために、出芽器(台車)のまま、置床付近まで運搬したり、シートで被覆して移動するなど、保温に心掛けます。
また、作業は午前9時以降の気温が高まってから開始し、午後3時頃までに終了したいものです。

搬出直後の状況

緑化室を利用した方法

2)被覆

前述のように、高温、暗黒下で育った芽が、直射日光に遭遇したり、極端な高温や低温にあうことにより、重症の場合、葉身が白化現象を示します。このような苗は苗丈が短く、生育遅延となります。
対策として、置床に並べたら、直ちに、遮光と保温を兼ねて、寒冷しゃやマットなど、保温資材で被覆しましょう。
被覆前に、根上りが目立つ場合、水分多目の覆土をし、籾や根の乾燥を防いでやりましょう。この時、覆土を落着けるため、潅水したくなりますが、やらないでください。床土には、緑化期間(約3日間程度)水分が十分に保つだけの湿りがあり、過湿は発根を極端に抑制しますから注意してください。夜間、10℃以下が予報される場合は、石油ストーブ等の利用による気温上昇を計ることも、大変有効です。

搬出後の保湿資材による被覆

〔硬化期〕

3)除覆

約3日間被覆した後、不完全葉が完全に抽出し、さらに第1葉の先端が見えた時、昼間に除覆します。
除覆により、硬化期に入ります。光合成を十分にさせ、地上部、地下部の生育を旺盛にします。前半の7~10日間は、寒い時期では夜間被覆、昼間除覆とし、その後は完全に除覆し、硬化させます。

緑化苗

4)水管理

最初の除覆時には、たっぷりと潅水します。1葉期までは蒸散量が少なく、水の吸収量も少ないため、床土の乾き具合を見ながら、1~2日に1度の潅水とします。
2葉期以降は蒸散量が多くなるため、朝潅水はたっぷり行う必要がありますが、床土の乾き具合や苗の状態から判断して、昼や夕方の潅水が必要な場合もあるでしょう。後半は水不足とならないように注意する必要があります。
根張りの良い、マット形成のすぐれた苗に育てるには、過潅水状態で育苗しないことが大切です。1日に1度は、萎凋直前まで床土の水分を落す気持ちで育てることがコツです。
特に夕方、若干乾き気味でも、夜間の蒸散量は少ないので、萎凋することがありませんので、潅水しないほうがよいでしょう。
過潅水は、根の発達が劣るほかに、軟弱徒長苗となったり、病害の被害を受けやすく、田植後の活着が遅れる原因となります。
また、地方によって、常時給水する、いわゆる「どぶづけ」法もあります。育苗期間中に、10℃以下に遭遇する地方では、「ピシウム苗立枯病(ムレ苗)」の誘発となるのでさけます。実施する場合は、置床の均平度を高め、生育ムラの生じないようにすべきです。

潅水状況

5)換気

緑化期は保温がポイントですが、硬化期、特に後半は日中、ハウス内の温度は40℃付近まで上ることが多くなります。換気により少なくとも30℃以下に保つことが、軟弱徒長苗を作らない要件となります。
天気予報の精度が高いので、温度計を利用しながらコントロールします。当然のことながら、換気により、イネ苗からの蒸散量も増加し床土中の水分の減少も多くなりますから萎凋防止のため「潅水-換気」をセットで対応することが重要です。
なお、前述の緑化期の低温遭遇により、第1葉鞘高が2cm程度の短い苗となった場合、伸長を促す目的で温度を高めるため、換気を抑えた管理をしているケースをよく見ますが、この様な方法では第3葉目が異常に伸び、植傷みが激しく、活着が極めて悪くなります。
管理のみで軌道修正が出来ませんから通常の管理で仕上げ、本田の均平度をより高め、田植後の水管理で初期成育を確保する方向に切り替えることが重要でしょう。

ハウスの日中換気

6)追肥

育苗中の籾内の胚乳の減少の推移は表4で示しましたが、移植期まで残るのが稚苗の特色です。この養分と床土の元肥で育ちます。
市販の床土は、育苗期間、約4週間分の肥料が混入されているので、あらためて追肥の必要はありません。しかし、「田植作業が遅れ、育苗日数が長くなり、肥料切れ状態になったので、対策はどうすればよいか?」との質問もよくありました。
このような苗は老化苗と同様に、本田での活着が遅れます。稚苗移植の特徴である土付き苗の効果を発揮させるためにも、活着促進のため「弁当肥」として田植2~3日前に施用すると有効です。
肥料は、肥効の早い、硫安などを用い、葉焼けしない程度に、薄い溶液として、ジョウロを用い灌注してください。

大型ハウスの育苗状況

表4.生長にともなう胚乳の減りかた(星川 1971)

1)モミがらの乾物重は約5mg
2)地上部や根

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