梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

8.田植と準備

全国的に、稲作を支える水田土壌が、有機質が少なく、排水不良が多く、根域が狭くなるなど劣化の方向にすすんでいると言われています。
たとえば、施肥は有機質資材の補給が少なく、化学肥料中心となっています。このため、有効態珪酸の含量や遊離酸化鉄が低下しています。耕転においても、作業効率面から、速度中心となり、作土深が浅く、あるいは、大型農業機械の利用により、耕盤形成が生じ、根圏の制限へとつながり、生育後半の栄養凋落や環境変動の影響を敏感に受けるようになっています。
このようなことに対応するには、田植前から、十分に処置しておく必要があります。

1)圃場全体の均平

移植直後の水中への苗の水没防止、面干しによる、除草剤の効果ムラの防止などのため、圃場内の水深を出来るだけ同じくなるようにしなければなりません。
近年、大型農作業機を利用することから、旋回位置で、高低差が目立ったり、基盤整備5年未満のところで、盛土層の沈下により、切土層との高低差が目立つなどの事例が発生しています。
この様な規模が大きい場合、代かき時の均平作業のみでは十分に修正ができません。まず、高い部位をトラクタで軽く耕転し、フロントローダを用いて、低い場所に移動しましょう。それには、秋冬期に、雨水の停滞状況を地図化し、利用するとよいでしょう。

代かき(オリゼメートフォトコンテスト入賞作品より)

2)客土

砂質浅耕田は作土深が浅く、また黒ボク田は漏水が多いため、これらの改良には、赤土を2~5cmの厚さ(20~50m3/10a)の客土により、根域が拡大されるとともに、透水性も含めた理化学性も改善されます。また、粘質な透水不良田では、山砂を2~5cmの厚さに客土することにより、透水性が改善され、根ぐされ防止や中・後期の水管理などが容易となります。

3)有機物の施用

全国的に、有機物の含量が低下の傾向にあるようです。土壌中の腐植含量を高めるため、堆肥、稲わらなどの有機物の施用、緑肥作物の栽培が勧められています。
施用量は各県、地域により差がありますが、一般的には土中の腐植含量を約3%以上に維持するように指導されています。
一例を示すと、乾田・春施用の場合、10a当り、牛ふん堆肥で1t、豚ふん堆肥で500kg、発酵鶏ふん堆肥で100kg、籾殻堆肥で2tを目安としています。秋施用の場合はこの50%増しとします。施用した場合、N量が過剰となりますから、基肥Nを成分で約1kgの減肥とします。ただし、粘質田で、発酵鶏ふん堆肥施用の場合、肥持ちが良いことから、約1.5kgの減肥がよいでしょう。
施用はマニュアスプレッダ(0.5ha/1hr)を用い、連年施用が望ましく、少なくても隔年施用としたいものです。

4)土壌改良資材の施用

(1)珪酸質資材

水稲の成熟期の珪酸成分は全体の約10%もあります。水田土壌の骨格となっている砂や粘土は珪酸やアルミナが主体をなし、多量に含んでいますが、稲の利用できる有効態珪酸はそれほど多くありません。
毎年、収穫物として持出されることから、用水からの供給を加えても、漸減します。このため、いもち病に対する抵抗力や気象災害に耐える力が弱まったり、玄米品質の低下につながったりします。
そこで10a当り、珪酸石灰で100~200kgを連年施用したいものです。施用を中断すると図8に示したように、中断直後から有効態珪酸が急激に低下し、2~3年で施用前のレベルまで減少します。
施用にはブロードキャスタ(2.0ha/1hr)を用いるとよいでしょう。

図8.珪酸石灰施用と中断後、土壌中有効珪酸の推移
(富山県農枝セ 2005)

(2)含鉄資材

土壌中の遊離酸化鉄含量の少ない土壌では、根の活力低下や根ぐされが起りやすく、これが誘因となって、いもち病やごま葉枯が発生しやすくなります。特に、黒ボク土では不足しやすいので、10a当り100~200kgの含鉄資材が有効です。

(3)燐酸質資材

地域による差は大きいのですが、洪積土壌や沖積の半湿土壌で有効態燐酸が不足しやすいので、燐酸資材を施用します。燐酸が不足すると、初期成育の遅延から、穂数不足となりやすい特徴を持っています。
土壌改良資材の施用にあたって、土壌中の濃度が地域により、それぞれ異なりますから、農業技術指導センター等の指導のもとで実施してください。

5)耕転

全国的に、作土深が浅くなっています。作土深が浅いと、根域が狭くなり、肥料や土壌水分の一時的変化を強く受け、また、中・後期の生育コントロールなど生育全般の管理が難しくなります。特に、生育後半の栄養凋落による登熟障害の回避には、施肥法による小手先の対応では限界があり、地上部を支える十分な根量を与えてやることが大切です。また、干ばつや冷害など気象災害に耐える力も劣ります。
このことから、作土深は15cm以上の確保が重要で、18cm程度が望ましいです。時期は稲ワラの腐敗促進と併せた秋耕と春耕の2回実施が望ましいです。特に、春耕は深耕のため、トラクタの速度を落し、ロータリーの回転数を遅くしながら耕しましょう。
近年、大型農業機械の利用により、乾田・洪積土などで、作土の下層がち密化し、いわゆる耕盤が形成され、排水不良田となっています。このような水田ではディスク耕により、耕盤を破壊し、根域の拡大を計ってやることも重要です。

6)代かき・均平

田植機を安定して操作し、しかも高い植付精度を確保するため、丁寧な代かきと高い均平度に仕上げることが大切です。
苗の活着や根の伸長に好適な条件は、土壌を練りすぎなく下層に孔げきの多い状態に仕上げることが大切です。圃場の均平には、ドライブハローを用い、圃場全体で、±2.5cmを目標としたいものです。この範囲では、田植直後の水没、除草剤の効果の持続、ムラ防止に有効です。このことが、その後の中干し、コンバインの作業能率など稲作全期間に影響を与え、大変重要な作業です。

代かきした水田

7)本田施肥

施肥量は地域、作期、品種、水田の地力などと密接に関係しますが、全国的にみると、10a当りの施肥量はN:10.5kg、P:11.0kg、K:9.5kgになるようです。コシヒカリ、ササニシキの作付け、稚苗栽培の拡大した頃より、基肥が減少し、追肥が増加する分施技術が定着してきました。
地力は、全国的に、(1)作土深の減少 (2)すき床層の緻密化と透水性の低下 (3)有機物含量の低下 (4)石灰含量や塩基の減少、富化などのアンバランス、など関連する要因の低下がみられています。
分施技術は、基肥Nの利用率が低いことや植代時に成分の流出が少なく、環境保全によく、また、基肥Nは有効茎決定期までに吸収を終える程度でよいとする考え方などから、普及してきました。
土壌からのNの供給は、基本的には温度の影響を強く受けます。北海道、東北地方では低温下で移植され、この時期の供給量が少ないことから、これを補うため、基肥重点となっています。
一方、暖地では、高くなってからの移植であり、多量に吸収されると、過繁茂につながり、基肥量を少なく、追肥重点の方向になっています。
一般的な施肥体系は、基肥-早期追肥(活着肥、田植後5~7日)-中間追肥(移植20~25日後)-穂肥(1回目)-穂肥(2回目、出穂10日前)-実肥となっていますが、寒地は基肥重点のため、基肥と穂肥、その間に早期追肥を加えて2~3回、暖地では追肥回数が増え、4~5回に、北陸では5~6回となっています。1回の施肥量など具体的には地区の関係機関の情報を活用してください。
田植機の発達により、ペースト状または粒状の配合肥料を田植条から3cm、深さ3~5cmの位置に、施肥、覆土できる「側条施肥」が可能となり、普及してきました。側条施肥は長所として、(1)局所施肥であるため、全層施肥に比較して肥効調節が容易です。(2)田面水への溶出が少なく、利用効率が高いことから減肥が可能です。(3)初期生育が促進されます。短所として(4)過繁となりやすい。(5)中、後期に肥切れしやすい。などの特徴を持っています。
このことから、初期成育の確保が困難な北日本や山間地でより普及しているようです。側条施肥は、肥料の価格が割高となりますが、減肥があり、何より省力であるため、大規模農家で普及が著しいようです。
また、尿素樹脂被覆による緩効性肥料(LP肥料)の出現により、溶出速度が自由に調節出来ることから、現行の施肥体系の追肥をまかなえるようになりました。
現在、溶出速度の異なるタイプを、基肥と組合せ、1回施用で、基肥、つなぎ肥、及び穂肥の施用時期に溶出する、肥効調節型肥料(基肥一発肥料)として利用されています。
これにより、大幅な省力化が期待できるようになりました。ただし、問題点として、25℃が溶出点であることから、気温、標高、移植時期などを考慮しながら、組合せや配合比を決定したり、葉色の推移などから、微調整が必要でしょう。

8)雑草防除

水田雑草の種類は、一年生雑草として、ノビエ、コナギ、カヤツリグサ類が、多年生雑草として、ホタルイ類、マツバイ、ウリカワ、ミズカヤツリ、オモダカ等が全国的に優占種としてあげられています。しかし、地域や圃場の差も大きいのが雑草の特徴です。
除草剤の使用に当って、雑草の繁殖様式を知っておくことが大切です。一年生雑草は種子によって、多年生雑草のうち、種子によるものに、ホタルイ類、ヘラオモダカがあり、塊茎や越冬芽によるものに、マツバイ、ウリカワ、ヒルムシロ、クログワイが、さらに両方の繁殖をとるミズガヤツリ、オモダカがあります。地表への出芽は地温と関係が密ですが、土壌中の深さによっても差があり、処理法や時期の決定に注意すべきでしょう。
一方、除草剤の作用は、一般に、処理された有効成分は土壌表面に沈着し、いわゆる「処理層」を作ります。有効成分は日時の経過とともに、光、土壌条件、水の移動、微生物等の影響を受け、漸減します。
雑草は発芽、生長の際に、ここ(処理層)を通過することにより、接触、死滅に至るのです。死滅に必要な濃度は除草剤と雑草の間で定まっていますが、有効な濃度範囲は、具体的に「使用時期」として示してあります。安定した効果を得るには使用時期を厳守することが大切です。
雑草は代かき後、すみやかに発生するノビエから、遅れる多年生雑草まで混発してきます。それぞれに、使用時期を守ると何回も体系的に処理する必要があります。現行では、ヒエ剤、ヒエ以外の雑草に対しても、持続効果長い剤が開発され、特色のある組合せ(体系是正剤)により、多種類が市販されています。
近年、ヒエ以外の雑草に高い効果のあったSU系剤(スルホニルウレア)が1997年に、除草効果の見られないアゼナが出現しました。その後、ホタルイ、コナギ、オモダカなど8種の雑草で効果がみられなく、SU抵抗性雑草の発生として問題となりました。ただし、現在もタデ、ミズカヤツリ、ウリカワには有効です。
効果のないSU抵抗性雑草に対し、その後、有効な非SU剤が開発され、現在、ヒエ剤+SU系剤+非SU系剤の3種混合剤として、初中期一発剤として広く使用されています。
除草剤の使用にあたって、
(1)多少の水没に対しても活着、生育出来る健苗を植える。
(2)土壌の種類、優占雑草を考慮して選択する。
(3)田面の均平度を高め、水管理(水深、湛水日数など)を適切に行う。
(4)処理時期、処理量、回数など、使用基準を守る。
(5)処理後の止水は確実に、用水への流出を防止する。
(6)魚毒、野菜への害がある剤の使用は特に注意する。
(7)剤により、カブレる人があるので直接人体に触れないようにする。
(8)ジャンボ剤やフロアブル剤もあり、使用法をまちがわない。
以上の様な点に留意し、適切な処理を行いましょう。

雑草が繁茂している状況

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