梅原博士の美味しい米作り講座

日本の米作りは、規模の大小があるものの稚苗による機械移植栽培を中心とした、機械化体系がほぼ確立されつつあります。稲作管理面では低コスト化を目指し、機械や施設の効率化・省力化にポイントがおかれています。そのため、本来、技術の中心となるべきイネの生理や生態が軽んじられる傾向にあり、手抜きも見られています。小さな手抜きやミスにより大損害を受けた育苗施設の事例もあります。 皆さんの目指す低コスト稲作は、 失敗や被害は許されないはずです。手抜きとならないように、基本技術を、現場に利用できる情報として提供できればと思っています。特に「若手の農業技術指導者」、「団塊の世代で新しく米作りに挑戦しようと意欲に満ちた方々」に参考になれば幸いです。

9.育苗箱施薬

いもち病とニカメイチュウはイネの最も重要な病害虫です。戦後、これらを対象として農薬が発展してきました。当初の防除法は粉剤及び液剤の散布剤が中心でしたが、昭和40年代に入り、ニカメイチュウを対象に、粒剤を中心とした本田水面施用剤が開発されました。引続き、いもち病でも開発され、根からの吸収・移行を利用した、新しい防除法が加わりました。
50年代に入り、イネミズゾウムシの侵入により、より効率的な防除法の開発が求められるようになりました。イネミズゾウムシは、既存の害虫にない、根部侵害や土まゆ形成など、複雑な発生生態をとります。これに、最も適合した施薬方法として「育苗箱施薬」が開発され、今日に至っています。

いもち病(葉いもち)

ニカメイチュウ(幼虫)

適用害虫の種類も、イネミズゾウムシに加えて、ニカメイチュウ、さらに、北日本で重要な、イネヒメハモグリバエ、イネハモグリバエ、イネゾウムシ、イネドロオイムシ、イナゴ類など、また、暖地のイネしま葉枯病の媒介虫、イネヒメトビウンカ、さらに、ツマグロヨコバイなどの越冬害虫で、本田前半期に加害する重要な害虫にも有効であることから、対象害虫が大幅に拡大されました。
このことから、全国的に普及しています。防除効果が田植直後から、本田中期までの約2ヵ月間、持続していることから「長期残効型育苗箱剤」と呼ばれています。
この中には、現在、カルタップ剤(商品名:パダン)、ベンフラカルブ剤(オンコル・グランドオンコル)、カルボスルファン剤(アドバンテージ・ガゼット)、イミダクロプリド剤(アドマイヤー)、フィプロニル剤(プリンス)、ジノテフラン(スタークル)、クロチアニジン(ダントツ)などがあり、さらに新剤の開発がすすんでいます。

イネミズゾウムシ(成虫)

コバネイナゴ(成虫)

いずれの剤も、イネミズゾウムシには有効ですが、その他の害虫に対しては効力に差があります。一例を示すと、ニカメイチュウに卓効を示すが、ウンカ類には弱いとか、その逆に、ウンカ類に強いがニカメイチュウに弱いなど、特色を持っていますから、防除対象を考慮しながら選択してください。
一方、殺菌剤の長期残効型育苗箱剤は、プロベナゾール剤(Dr.オリゼ、ビルダー)、カルプロパミド剤(ウィン)、ジクロシメット剤(デラウス)、ピロキロン剤(デジタルコラトップ)、チアジニル剤(ブイゲット)、オリサストロビン(嵐)などが現在市販されています。
このうち、いもち病菌に対する作用が、メラニン生合成阻害剤で、脱水酵素阻害型(MBI-D)に含まれる剤は、感受性低下菌が発生し大きな問題となっています。現在3剤が含まれますが、交叉耐性を示すことから深刻です。
現行では、市販剤の大部分は殺虫、殺菌の混合粒剤で、田植時処理により、本田初、中期までに発生する、いもち病、イネミズゾウムシ、イネドロオイムシなどに、1回の処理で防除が可能となっています。殺虫と殺菌がそれぞれ組合され、多数の特色ある製剤があります。選択にあたって、重点とする病害虫をそれぞれ見極めて使用することが大切となります。
育苗箱施薬は、多発条件を想定し、予防的に、被害を最小限に抑えることをねらっています。発生がなかった場合、むだな処理、過剰処理となるわけです。そのようにならないために、出来るだけ正確な発生予測をし、正確な選択をすべきでしょう。特に害虫は、越冬前密度、発生のツボなどがあり、参考となります。いもち病は予測が困難で、蔓延速度が速く、防除適期を逸しやすい特色があり、保険的な比重が大きく、経営の安定上やむをえないでしょう。
施薬量は、現在、箱当り50gに設定されています。均一に散布することが大切です。また、処理苗の移動や田植時に薬剤をこぼさないように作業することも大切です。
施薬時期は、薬剤によって多少の差がありますが、播種時覆土前、緑化期から移植当日に大別されます。播種時覆土前処理は、床土の種類や緑化床搬出時の気象条件により、苗の生育に影響を与える場合があり、育苗環境を理解の上、実施したいものです。特に、播種、出芽から硬化期前半までの管理は手抜きのないようにすべきです。また、失敗や余剰の苗の処分にも考慮しておくことも大切でしょう。
省力を追及する点では、「田植え同時箱施用剤散布機」が発売されています(写真参考:「箱まきちゃん」((株)クボタ製)。落下量の精度も高く、田植時の繁忙時の混乱回避に役立つと考えられます。
特に、大規模栽培では、田植え、側条施肥、除草剤散布と一緒に、同時作業が可能となり、省力的です。
選択に重要な、各剤の特徴について、詳細に紹介すべきですが、紙面の関係上、省略せざるを得ませんでした。関係機関の情報を活用してください。

箱処理した苗

箱まきちゃん

育苗箱施薬の注意点

省力的で、環境保全にも有効ですが、次の注意も大切です。
(1)健苗を用いる。
(2)規定の薬量(50g/箱)を厳守し、箱全体に均一に散布する。
(3)箱からこぼれないようにする。特に、用水・河川に流れないようにする。
(4)野菜栽培と兼ねたハウスを利用する場合、こぼれや薬剤の流出液が土壌汚染とならないように、予め、処置しておくこと。
(5)田植後、直ちに入水し、また、用水への流水を防止するため、止水も厳守する。

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