いもちの素性を知る

第1章 いもち病の被害

いもち病がイネの収量、品質に及ぼす影響は、発生面積が広く、減収程度が高いことから、全県的規模で問題となる。これは他のイネ病害虫の比ではない。局地的に見れば、ウンカの発生や、冠水に伴う黄化萎しゅく病など深刻な被害もあるが、いもち病に比べれば問題とならない。それだからこそ、古くからの記録もあり、研究の業績も他病害虫のそれよりもはるかに多いのである。

例えば東北、北海道地域の病害虫研究者や、病害虫防除所職員等で組織する北日本病害虫研究会において、今日までに発表された演題数を拾ってみると、第1号(1950年発行)から第44号(1993年発行)まで、44年間の集計では、イネの全病害発表数768題のうちイネ病害一般30、いもち病415、紋枯病52、赤色菌核病等いわゆる擬似紋枯病関係7、小粒菌核病22、ごま葉枯病24、苗立枯(苗腐敗)等61、苗立枯細菌・もみ枯細菌病(白葉枯)等35、ばか苗病19、いなこうじ・すみ黒穂病(葉しょう褐変、黄萎病)32、その他71題となっている(会報総目次1~3号登載以後は、演題名から私の判断で類別、または1~3号を含めて少数題を一括したものもあるので、若干の誤差があるかも知れない)。これをみると、いもち病関連の発表数割合は、全体の54%にも達し、発表の半数以上がいもち病の生理、生態、抵抗性、防除などの研究結果で占められていることになる。他ブロックの研究会誌(例:北陸、関東病害虫研究会報など)や日本植物病理学会々報においてもほぼ同じ傾向にあると言えよう。

前記のように東北を含む各地において、いもち病がイネ病害の中で、最も重要な地位にあることがわかる。

その理由は申すまでもなく各種病害虫の中で、収量と品質に与える影響が最大であって、その発生の多少は、減収(農家収入減)に直結するからである。

東北地方の作況指数は、過去13年(1983~1995)のうち6回が100を下廻っており、したがってほぼ2年に1回、即ち隔年毎に不作に見舞われ、稲作にとっては不安定な地域であるとみることが出来る。このことは古い時代と大きな違いはなく、近代の稲作技術を駆使しても避けられない難題なのかもしれない。

1983年(昭58)98、1988年85、1989年98、1991年91、1993年56、1995年96の作況指数のうち、1988年、1991年、1993年、1995年はそれぞれいもち病の多発生によるものであり、うち1993年は長期間の低温による出穂遅延と登熟阻害による冷害であって、さらにいもち病の激発によってもたらされた現象であり、100年に1回あるか否かともいわれた大凶作であった。その惨状は未だ記憶に新しいものがある。このように東北地方の作況は、低温による冷害といもち病の併発、或いはいもち病の激発(夏期の多雨、低温に原因するが)によって左右されたものであり、そのことは古い時代も今日でも少しも変わらない状態である。

いもち病による損害は、一般には葉いもちによる穂の枯死、穂軸の折損、登熟阻害等直接的な損害によるが、葉いもちにおいてもズリコミいもちにみられるように、イネの発育阻害、株の枯死、生育量の減少、遅延、弱小穂の形成等によって減収、品質低下の被害が著しい。また、葉いもちの後期発生では、出穂期に近接していることによる伝染源の増加と供給から、穂、節いもちの多発生を招く結果となり(1988年はその好例である)、従って葉いもちと穂いもちを分けて収量、品質等の関係を論じてみることは不可能である。とくに東北地方のいもち病発生は、いわゆる「東北型」と呼ばれるように、葉いもちの盛期と出穂期(穂いもち感染期)の接近から、葉いもち発生の多少がストレートに穂いもち発生量に反映する特徴をもっている点で注意しなければならない。

マクロにみていもち病発生でとの程度作柄に影響したか、東北地方及び岩手県が他地域と異なる点は何か等につき、農林水産省統計情報局から公表された作物統計からその概略を解析してみよう。

過去13年間(1983~1995)では前半の1986年から1991年までは減反の強化で作付面積が減少し、全国で2,318,000haから2,033,000ha(1985年→1991年)に、同様東北地域で572,200haから519,500haに、岩手で82,500haから74,000haになった。その後1992年から1994年まで減反緩和措置でそれぞれ2,200,000ha、556,000ha、78,800haに微増したが再び減反強化措置で1995年には2,106,000ha、537,900ha、76,500haに減少した。1983年から1995年まで13年間の単純平均による年平均値は、全国作付面積は2,157,461ha、東北542,138ha(全国面積に占める割合25.1%)、岩手県77,669ha(東北地方面積に占める割合14.3%)となる。これから東北地方のイネは全国水稲面積の約1/4に当る25.1%を占め、総収量ではそれを上廻る27.4%を示して、収量レベルが他地域より高いことを物語っている。したがってその豊凶は、わが国のコメ需要に与える影響は大きい。そして東北地方の豊凶は前述したようにいもち病の多少によって決まるケースが多いことに注目しなければならない。

東北各県の作況をみると、指数の差異は若干みられるものの高低年度はほぼ同一であるから、その要因もほぼ同じとみて差支えない。状況はほぼ同様である点にも注目しなければならない。いもち病発生状況、原因等にも大差はない。ここでは岩手県の例でそれをみてみたい。

毎年の総収量、被害総量、被害原因別には気象災害と病害に分けて公表されているから、それを全国、東北、岩手別に集計して年平均で比較した。

被害総量が総収量の中で占める割合は、全国10.3%、東北13.0%、岩手14.6%となり、東北地方は冷害等の影響で全国平均よりも被害を多く受けやすいこと、同様に岩手は東北平均よりも高い割合を占めていることがわかる。要約すると生産の安定を阻害する要因が多いことを意味している。

気象被害が全被害量の中に占める割合は、全国62.8%、東北77.2%、岩手82.6%となり、東北地方は全国を上廻り、岩手はさらに東北地方のそれを上廻り、気象被害の比率は北国ほど大きいことが分かる。

病害による被害量が全被害量の中に占める割合は全国28.9%、東北20.6%、岩手17.2%で、気象災害の比率が高い分、低率となっていることは当然である。

この病害のうちでいもち病の被害の占める割合をみると、全国59.7%、東北84.4%、岩手90.7%であり、東北地方はいもち病による被害が約8割を、さらに岩手では9割を占め、被害の大部分はいもち病の発生によってもたらされる損害であることがわかる。

病害の発生相は、西南暖地ほど多種で複雑、北は少数単純である。西南暖地は紋枯病をはじめ細菌病類、ウイルス病など多種の病害発生があって、相対的にいもち病の被害率が低い。それに対して東北地方、とくに岩手県ではいもち病の被害が主体の単純なものであり、いわばいもち病の一極集中と言うことが出来る。このほか暖地はウンカなど害虫による被害も多いが、統計では「虫害」として別項目扱いとなっていることから、ここでは対象外とした。なお参考までに付記すると岩手県の害虫による被害は、1990~1995年の(6ヵ年平均で116.5tであり、同期のいもち病被害量11,830t(6ヵ年平均)のそれに比して1/100以下である。このことからも明らかなように、病害虫による損害防止は、まずいもち病防除の徹底を図ることに終始することでよいと思われる。

表1. 近年13ヵ年の水田作付け面積並びに作況
(農水省作物統計)

表2. 同気象災害、病害による被害量
(農水省作物統計)

表3. 同気象災害、病害、いもち病による被容量の割合
(農水省作物統計)

●参考文献

  • 農林水産省統計情報部:作物統計(1983~1995)

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