いもちの素性を知る

第2章 いもち病とはどんな病気か

2.いもち病の病原菌

植物の病気は生物的な原因と、非生物的原因によって起こる。これを病因という。

生物的な病因として重要なものは、細菌、糸状菌(カビ類)の寄生、ウイルス、ウイロイド、線虫、ダニなどである。このほかヤドリギ、蘇苔類など健全植物に寄生して病気を起こす場合がある。

非生物病原としては、土壌中の栄養条件、PH、水分、土性などの土壌条件や、気象、産業廃棄物その他の原因によるものである。これらは一般には(狭義には)植物病理学分野の対象外としている。

さて、イネいもち病はどんな病原によっておこるのか。それは糸状菌のPyricularia oryzae CAVARAの寄生によっておこるイネの病気である。この菌は不完全菌類に属している。不完全菌とは未だ有性世代が発見されていない無性環の菌群であるので、その生活環は単純であり、錦糸の伸長と分生胞子の形成、菌糸と分生胞子による植物への感染、そして再び菌糸の伸長と分生胞子の形成のライフサイクルをもつ。したがって、どの参考書にも、いもち病菌の説明では、「被害わら等で菌糸で越冬して、翌春温度が上昇し、これに適度の水分が与えられると分生胞子を形成、飛散してイネに侵入…」と書いてあり、これ以外の世代にはふれていないのが普通である。

不完全菌の多くは本来、子のう菌に属すると考えられるから、その生活環は子のう菌の生活環から、有性世代を除いたものと考えると理解が早い。

ところで長いこと有性世代(子のう胞子)が未発見のままで、分類学的所属にも困っていたのであったが、1975年のはじめころから、イネいもち病菌とシコクビエ、オヒシバいもち病との交配によって、培地上で子のう胞子形成が認められるところとなった。この事実は長い間の宿題がやっと解けた感があったが、しかし、イネいもち病菌どうしの交配では未だ見つかっていないのである。まして自然条件下のイネ体上や、水田に隣接して自生するオヒシバ、シコクビエ上での子のう胞子の形成は未発見である5),6),7),19),20)

菌類の進化は突然変異と交配によってなされると考えるのが当然だが、イネ菌同士の交配が不可能なのはどのような意味をもつのか、依然として謎を秘めたままである。

農業関係者であれば、1963年頃から1965年にかけて、当時いもち抵抗性品種として、外国稲の高度抵抗性を利用して育種され、各地で栽培されたクサブエ、ユーカラ、ティネ、ウゴニシキ、シモキタなどが次々にはげしくいもち病にかかった事実を忘れてはいまい2),3)。それはイネが突然弱くなったか、病原菌の突然変異が、病原力の異なるレースの交雑により、新しい病原力を持つ新レースが誕生したかのどちらかである。むしろ寄生者であるいもち病菌が、病原力の異なった新しいレースの誕生によって、それまで侵し得なかったある品種に対し、侵害力を高めた結果と考えるのが自然である。この病原性の異なるレース誕生の仕組みが、先に述べた有性時代(子のう胞子)の存在がはっきりすれば解明が進むだろうが、現在のところその先までは行っていない。

Pyricularia oryzae CAVARAのイネ以外の植物に対する寄生性と、イネに病原性を示すPyricularia菌の自然発生は、昔から注目されたところだが、研究者は接種試験でその範囲を検討してきた。試験者によって多少の差がみられるが、現在では概略次のような見解に達している。

1 イネいもち病菌の感受性が高いと認められた植物

タケ、ササ類、オニウシノケグサ、ヒロハノウシノケグサ、ネズミムギ(イタリアンライグラス)、ホソムギ(へルニアルライグラス)、オオムギ、クサヨシ、オオアワガエリ(チモシー)、トウモロコシ、ハトムギ。

2 イネに病原性を示すPyricularia菌の自然発生する植物

イネの他31種類の植物で確認されるが、タケ、ササ類、ネズミムギ、クサヨシ、ハトムギのいもち斑点形成株が水田隣接地でその自生が認められている。

以上の1、2の結果から、イネいもち病菌が、イネとこれらの植物との間を往来する可能性を示している。とくに、生葉上で越冬するタケ、ササ類のいもち菌は、イネいもち病の第一次伝染源の一つとして注目される。

これらの上での交雑の可能性、有性世代の発見等が前述の病原性レースとの関連で重要な手がかりを持っていないか?、今後の研究進展に期待したい。

●参考文献

  • 2)古田力ら 中国農業研究 37(1967)
  • 3)平野喜代人ら 福島農試研究報告 4(1968)
  • 5)糸井節美ら 日植病報 46.549-552(1980)
  • 6)Kato dt al.  日植病報 42.507-510(1976)
  • 7)加藤肇 植物防疫 37.1(1983)
  • 19)Yaegashi et al. 日植病報 42、511-515(1976)
  • 20)Yaegashi et al. 日植病報 43、432-439(1976)

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