いもちの素性を知る

第3章 発生生態

2.発生要因

いもち病はイネを侵そうとするいもち病菌の存在とその病原力の強弱、イネがそれをはね返す抵抗力、およびそれをとりまく環境の4者のバランスで発生が決定される。そのうちの環境は、自然要因としての気象、土壌、人為的要因としての肥培管理、薬剤防除などがあげられる。中でも気象要因は発病の成立と程度に大きな影響を持つことは1993年の大冷害といもち多発の事例をみても明らかである。肥培管理の影響も少なくない。それらが複雑に関連しあって発生を支配することが多い。

この項では気象、土壌、肥培管理等について述べ、他は項を改めて記載することにする。

1)気象

戦後東北地方におけるいもち病の多発生は、地域によって必ずしも同じではないが、1953年、1963年、1976年、1980年、1988年、1991年、1993年などがあげられる。ともに7~8月に低温少照に経過したが、各年を詳細に検討するといもち病発生様相も気象経過の内容も同一ではないことがわかる。

私の記憶ではいもち病発生程度、面積が甚大だったのは1963年(青森県発生面積率・葉いもち10.7%、穂いもち24.2%、秋田被害面積率・75.6%、岩手被害面積率・77.0%、山形被害面積率・葉22.4%、穂16.3%)で、東北各県のうちでも秋田、岩手、山形、福島県で激発した21)

この年以前では1953年だったが、その主たる気象要因は低温と日照不足が、1963年は長期にわたる日照不足と6月からの夜温のたかまりで、日較差が少なく、葉いもちの早発を招き、以後の日照不足が多発生に拍車をかけた(表7、図4)。比較的近年の多発事例は1980年、1988年、1991年、1993年などであるが、共通点は気象変動が大きく、偏りがみられたことと、中にはヤマセが卓越して穂いもち多発と登熟不良が重なって減収した。この中で1993年は特級の冷害年であって、7月中旬から8月中旬までの異常低温、少照により出穂遅延といもち病が全域にわたり発生した。

以上からいもち病の発生は、平年と違った低温、多湿、日照不足などの気象条件がイネ抵抗性、生育に影響すること、病原菌の増殖と侵入に好適することなど冒頭にかかげた4つの関係条件を満たして多発生を招く。各年次ごとにみれば必ずしも多発要因は一致しないが、それ自体いもち発生の複雑さを物語っている。

そうした中で鈴木氏は、葉いもち初発時から最高発生日までの30日間の気象要素と発生程度の関係を要領よくまとめてあるので引用した42)

それによると発生程度と温度、湿度、雨量、雲量とは明瞭な関係はなく、雨天日数、風速と関係することが示されている。それは雨天日数が多くて、風速は弱いほど発病が多くなること、雨量は多いと葉上での安定を欠くことからマイナスに作用することによるもので、侵入の場面ではむしろ「静かな夜」、「むし暑い夜」が必要なこと、そしてその連続が多発生に関係することを意味するものと理解される(表8)。

個々の気象要素が感染から発病までの過程で、どのような関係にあるかをふれてみる。

(1)風

通常の風は葉上水滴の消失(蒸散)、落下を早めるから、菌の侵入をじゃまし、飛散胞子をさらに拡散してイネへの付着を減少する。岩手県農試圃場(滝沢村)では、ここに移転して32年経過したが、未だいもち病の目立った発生を認めていない(1995現在)。私はその理由として「岩手おろし」の冷たい風が吹き、イネの葉を絶えず動かしていて、水滴(夜つゆ)の形成を阻害しているためと推測している。

(2)湿度

湿度は高いほど葉上水滴の滞留が長びき、低温(侵入好適以下)でも菌の侵入を可能にする。ただし、前述したように、弱い風、雨である必要がある。「土砂降り」はマイナス作用である。病斑形成後の湿度では高いと進行型(胞子形成が多く長時間続く)、低いと止り型となる(小野)。胞子形成は飽和湿度で多い。

(3)気温

発病は基本的には気温に左右される。分生胞子が離脱し、空中飛散してイネ体に付着するまでは温度に無関係であるが、付着胞子の発芽は10~32℃、適温25℃、侵入は14~30℃、適温25℃、菌糸の伸展は10~32℃、適温25~28℃であると鈴木氏は述べている37)が、これらに関しては古くからの成績でもほゞ同様のものが多い。このことから、発病に要する温度は14~30℃、適温は25℃とみて差支えない。

潜伏期間は高温で短く低温で長い。10℃とかなりの低温でも潜伏期間は長びくが発病するという。病斑数は菌侵入後の温度が30℃以上、10℃以下では抑制される。

いっぽうイネ生育といもち抵抗力では、高温ほど珪酸、タンパク態チッソが多いというから、体質的には高温で生育した場合ほどいもちに強いイネということが出来る。

ある時期に強い低温に遭遇した場合そのイネの抵抗力はいつ頃最も弱くなる(低下する)かが実際に問題になる。鈴木氏が東北農試で行った実験では、葉位別に13℃に10日間置いた時(自然条件下ではめったにない低温だが)、6葉、8葉期の低温処理でその2-4葉後に、10葉期以降の処理ではその2葉後抽出の葉でいもち抵抗力が最も低下している40)

表7. 7~8月気象平年差と発生との関係(盛岡)

図4. 最低気温平年比較(盛岡)

表8. 初発生日から最高発生日までの30日間の気象要素と葉いもち発病程度

(4)日照

これまでの経験では曇雨天が長く続き、日照不足があるといもち病は多発生している。その好例は1963年であり、田植後から7月中旬まで長期間にわたり日照不足がみられ、盛岡では例年の80.7%でしかなかった。

日照といもち病の関係は、圃場において寒冷紗被覆により日射量を65~35%抑制した場合のいもち発生変動を調査した吉野、山口氏の試験例50)、室内で光照射と分生胞子形成に関する実験例が山中、生井氏31),49)によって、またその他にも光の影響を報告した例が数多く見られる。

吉野氏らの結果の概要は次のとおりである。

  1. 圃場では自然感染による葉いもち発生は、連続遮光で減少したが、10日間ずつの間断遮光では遮光除去後に急増した。遮光時期はまん延期前に遮光処理を終ったイネで多発、まん延期間中遮光されていると少発生である。
  2. 穂いもちは遮光で発生が増加する。
  3. 噴霧接種でみると、遮光除去5日後に最も罹病が多い。この傾向は上位葉ほど顕著である。遮光中に展開し始めた葉は罹病的だが、それ以外の葉では抵抗的である。
  4. 病斑の大きさは、接種前の遮光では遮光により大きくなるが、接種後の遮光では遮光で小さい。
  5. 日射量が70%以下になるような遮光では、遮光3日後からイネは感受性を増してくる。遮光を除いた後の影響は遮光日数が長いほど、施肥量が多いほど遅くまで残る。また遮光による感受性は、遮光が強いほど大きく、最高分げつ期~幼穂形成期で最も影響を受ける。
  6. 遮光に伴う葉緑素含量は、遮光5日後から増加、遮光除去9日後でも葉色が濃くて含量が多い。葉鞘でんぷん蓄積率は前日の日射量と対応して変動する等である。

以上の結果から、遮光処理によっていもち病に対するイネの進展抵抗は低下するけれども菌の侵入と菌糸の伸長に関連した侵入抵抗は増大して遮光中の葉いもち発生は抑えられる。いっぽう、遮光除去後はイネの侵入、進展抵抗はともに小さくなり、葉いもちは急激に進展増加する。自然状態の曇雨天による日照不足は、この遮光試験とは異なって、降雨がいもち菌侵入に好適環境をつくり出して(寒冷紗被覆ではイネ葉面上の露形成が悪く、このため菌の発芽と付着器形成が減少する)、葉いもちが増加し、その後の晴天下でもしばらくの間はイネの侵入と進展抵抗の低下によって病斑数が増加するだろうと考察している。

実験室内ではオートミール煎汁培地上で菌を培養し、これに対して蛍光灯を照射して、いもち病菌の分生子柄や分生胞子形成について調査した東北大学(山中、生井ら)の試験例を紹介する。

それによると、分生子柄は光照射で形成されるが、暗黒下では気中菌糸が生育する。分生胞子の形成も光依存度が高く、連続光照射で形成がよい。しかし、照射を中断すると、胞子形成が抑制される。暗黒下でも徐々に胞子形成はみられるが、形成部位や胞子の形態に異常が認められる。光の中断による胞子形成抑制現象は、再び光照射で回復し、形成が進行する。分生胞子形成を起こさせるためには、25℃±1℃の温度かでは少なくとも6時間の光照射が必要である等がその結果の概要である。

(5)雨

雨は一般にはいもち病の発生を多くするが、特に弱い雨が長く続くほど発病に好適していることは経験的にもわかっている。このことを背景にして、発生予察注意報、警報などが発表されている現況である。

まず本田で葉いもちの最初の全般発生が起るためには、夜間の気温と雨が重要視される。それは胞子は日没から早朝にかけて飛散する性質があるので、夜間の気温すなわち最低気温が重要な因子となる。また同時にその胞子侵入の場は葉上の水滴中であるから、たとえ最適温度より低い気温であっても、そこに水滴が長く保持できる湿潤な条件があればよいわけである。この際は強い雨は無用である。

本田における葉いもちまん延開始時の気象について、佐々木氏ら35)は、大曲市とその周辺において8年間の圃場調査を中心にしてその概要をとりまとめた。それによると、最低気温17℃以上が2日続き、2日以上の降雨があった後の晴間(曇天または晴天)が侵入日であると推定した。この降雨後の晴間は、侵入足場である葉上水滴の安定と、いっぽうでは胞子飛散と定着に関係しているように私は推察する。

その他雨との関係について記載したものを若干まとめてみると以下のとおりである。

  1. イネに付着した胞子は、付着2時間以内だと雨による流亡比率が高いが、4~6時間だと大部分が発芽し、付着器形成を行うため、かなり激しい降雨でもその60%は葉面に残るという(吉野)。
  2. 晴天時は草冠部では発芽が少なく、下位葉(部)では付着器形成も少ない。雨天だと発芽、付着器形成は草冠部では少ないが、下位部(植被層)では多い。また、発芽管が短く、短時間で付着器を形成する。
  3. 病斑の大きさは長雨で大型となり、その作用は夜間よりも日中の降雨で強く影響する。穂いもちに対しても降雨日数が多いと各部位の病斑が長くなる。
  4. 葉いもち抵抗力は降雨終了後いやや強いが、数日後にやや弱くなる。これは降雨量が多いほど、また雨滴温度が外気温より低いほど顕著である。降雨による抵抗力の変化は雨滴の冷却作用によると考える(鈴木)41)

●参考文献

  • 21)北日本病害虫研究会 北日本病虫研報 特別報告 6(1965)
  • 31)生井恒雄ら 日植病報 43、175-182(1977)
  • 35)佐々木次雄ら 北日本病虫研報 22(1971)
  • 37)鈴木穂積 北陸農試報告 10(1969)
  • 40)鈴木穂積 北日本病虫研報 35(1984)
  • 41)鈴木穂積ら 北日本病虫研報 37(1986)
  • 42)鈴木穂積 稲いもち病 P.115(1987)
  • 49)山中達ら 日菌報 17(1976)
  • 50)吉野嶺一ら 北陸農試報告 16(1974)

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