いもちの素性を知る

第3章 発生生態

2)施肥といもち

肥料でいもち病の発生と最も関係の深いのは窒素である。一般に窒素を多く施せばいもち病が多発生し、少ないと発生しない。この事実はずい分と古くからわかっていた。

戦後はじめていもち病が多発生して問題となったのは1953年である。この時期はようやく世情も落ち着き、化学肥料の生産も軌道にのったときで、農家はコメ増産に多肥栽培を実行していった。これが低温経過の気象と、抵抗性弱品種の作付けと相まって、とくに穂いもちが東北全域で激発したのである。

この間の経緯を「昭和28年度、冷害年に於ける稲熱病発生の実態と其解析」からみると、窒素肥料の多用を多発生の原因としてあげているのは、青森、岩手、宮城、福島の太平洋側4県で共通して指摘しているところである。中でも岩手県では、28年の施肥量は戦前(昭和12~14年)に比較すると1.53倍、終戦直後(肥料不足の昭和20~22年)に比べて4.0倍も使用していたと述べている。青森県ではこの年の前々年、前年(昭和26、27年)の豊作のあとをうけて、次第に施肥量が増加し、ことに窒素肥料の偏用をあげているし、福島県では、秋落対策としての分施が誤用してくびいもちが激発したこと、宮城、福島県では二毛作田での晩植、多肥栽培では例外なしに激発したと述べている18)

近年では、1993年の冷夏でいもち病の多発生がみられたが、いもち病発生と多肥との関係を復元田におけるいもち発生という視点でとらえた調査結果が宮城県病害虫防除所でまとめている。30)(図7、8)

以上は窒素費用の偏、多用がいもち病発生を誘発した事例のごく一部である。

図5. イネ葉へのいもち病菌胞子の侵入量の温度および湿潤時間による違い
(農林水産省北陸農試)

図6. 胞子形成、発芽侵入

表9. 付着胞子の侵入と天候

窒素肥料は施用されると、イネはそれを吸収して体内の窒素濃度は一時的に高まるが、やがて光合成作用の活発化によって乾物重の増加がおこり、その濃度が正常化する。この条件は日照時間が長く、高温であるほどよいのであるが、日照の少ない曇雨天が続くと、体内濃度が転化しないまま高めに保持されるからいもち多発生をまねく。

窒素肥料が多いとイネの組織が軟弱になり、表皮の珪化細胞数が減少し、細胞内の窒素が増加して、菌の侵入、伸展に対し抵抗力は弱くなってくる。

今日は窒素肥料施肥診断システムが各地で採用され、主要な品種については地帯別、土壌型別施肥基準と、栄養診断に基づいた施肥管理がとられている。したがって、長年のカンに頼って行われてきた施肥技術は改善され、極端な窒素過多、偏重、基肥中心等などの施肥法は改善されつつある。このことはいもち発生防止のうえからも喜ばしいことである。

燐酸は土壌の種類により燐酸吸収量が異なるので、それによってイネの生育反応とともにいもちの発生も若干の差が見られる。東北農試(大曲市)では勝部氏が行った試験では、燐酸吸収係数の高い土壌(約1,500、同2,100、同2,600)に燐酸を施して、葉身の燐酸含有率を高めると多発すると述べている。一般には燐酸の影響は条件によって変動し、窒素のように単純ではないのが普通である17)

加里は窒素肥料が適量だと発病を抑制するが、多量に存在すると多発させることが多い。とくに苦土欠乏土壌に多量の加里を施用するといもち病が多発生するといわれている。

有機物は種類が多く、原料、腐熟度など多岐にわたる内容をもつので、一概に述べることがむずかしい。しかし、機械化栽培に伴って、堆肥から稲わら施用に、とくにコンバイン収穫の普及からいっそう傾向がはっきりしてきた。稲わらのすき込みは、作業の都合から全量が施用される場合が多く、その効果は土壌条件の影響を受けやすい。低温が続いたあとの高温多照の気象条件がくると、とくに排水の悪い水田では、俗に「わく」といって土壌の還元や、根腐れが進み、イネの生育遅延を招く場合もある。

堆肥の施用により窒素肥沃度は高くなり、施用量が多くなるに伴って、堆肥から吸収される窒素量が多くなって、いもち多発をみる場合もある。現在はあまり目にふれないが、昔はよくみられた現象として、水田に運んだ堆肥(東北地方では冬季に雪上から、或は消雪直後に水田に運搬した事例が多く、それを水田耕起までの期間数ヶ所に堆積しておいたものである)の置いた跡が遠目でも葉色が濃く、草丈が高く、分げつも多くて周辺の生育よりも旺盛なことがわかった。やがてこれにいもちが発生して、周辺に拡大していったものである。

化学肥料の施用を一定にした場合の堆肥施用量といもち病の関係は、少発年で2t/10aまで、多発年では1t/10aまでは無施用の場合とほぼ同程度の発生(但し葉いもちの場合であり、穂いもちでは多発田では1t/10a施用でも差が認められる)となっている40),42)。有機物を連用したとき、有機物の種類で土壌中への有機物の集積やイネに対する窒素供給能が異なり、年次とともに土壌窒素が増加するから、連用時には当然ながら適量に注意するとともに、施肥量に対しても十分な配慮が必要で、過剰な施用はいもち発生を助長する結果となるだけである。

有機物による施肥窒素の施用量の目安は、よく腐熟した堆肥で1t/10aを施用基準として牛糞厩肥では20~30%、豚糞厩肥で50~60%、鶏糞で50~80%を減らす必要があるといわれている。これに関連した事項では1963年のいもち病大発生年に経験した。それは鶏糞の施用によるいもち誘発の事例である。岩手県では6月下旬から7月末まで長期間にわたって日照不足が続き、鶏糞施用田のイネの過剰繁繁、濃い葉色がとくに目立ち、これが葉いもちの激発となり、ズリコミいもちから穂いもち多発生に連動していったものである。

表10. いもち病の発生と肥料3要素との関係(山形農試)

図7. 復元田、一般田における品種別穂いもち発生状況

注)数値はササニシキ25筆、ひとめぼれ12筆の平均(宮城県防除所 1994)

図8. 同一地域における復元田、一般田の圃場馴穂いもち発生状況

注)発病穂率はくびいもち、枝梗1/3以上の合計穂率(宮城県防除所1994)

●参考文献

  • 17)勝部利弘ら 東北農試報告 28(1963)
  • 18)北日本病害虫研究会 北日本病虫研報 特別報告 1(1954)
  • 30)宮城県病害虫防除所 平成5年冷夏といもち病多発生の記録(1994)
  • 40)鈴木穂積 北日本病虫研報 35(1984)
  • 42)鈴木穂積 稲いもち病 P.115(1987)

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