いもちの素性を知る

第3章 発生生態

2)分生胞子の形成

いもち病の伝播拡大は、病斑上に形成した分生胞子の離脱・宿主上の定着、侵入によっておこる。したがって、自然環境下での胞子形成の実態について理解することが大切である。これらの研究業績は、古くは京都大学、長野県農事試験場で逸見武雄、栗林数衛両大家をはじめとして、近年では岩野正敏、吉野嶺一両氏らが北陸農試で行なった業績、及び他の研究があるので以下それらについて紹介しよう12),13),22),51),52)

病斑上の胞子形成は湿度89%以上で始まり、93%以上で高湿度ほど胞子形成が旺盛に行なわれる。湿度が胞子形成に十分な条件下にあっては、温度によって左右される。その場合は12℃から正常胞子が形成され、温度が高まるほど形成量が多くなり、28℃で最高となり、これより高温になると急減して、34℃ではごく僅かの形成となり、18~20℃と30℃では最高形成時(28℃)の1/2、14~16℃と32℃では1/4の胞子形成量である(加藤ら)15)

次に胞子形成の過程について、次のような観察結果がある(豊田ら)のでそれを紹介する44)

  1. 室温下で病斑部での胞子形成過程を観察した。
  2. 病斑上の既存の胞子と分生子柄を取除いた試料を室温中に置いた。
  3. この6時間後に分生子柄の出現が見られる。7~8時間後に胞子形成が始まる。
  4. 分生胞子が形成し始めて完成されるまでに40分を要した。
  5. 第2の胞子は第1胞子の完成された1時間後に完成する。1本の分生子柄上には、6~7コの胞子形成がみられることが多い。

以上の順序であるが、温室内形成開始は4時間後(加藤)、6時間後(栗林、岩野)と研究者によって若干の相違点がみられるが、それは実験温度差によるものとみられる。

胞子形成は自然環境下では、晴天日には主として夜間に行なわれる。日中は湿度90%以下に下降するために、分生子柄は萎れた状態になっているため、胞子形成は不能であり、新しい分生子柄形成も行われない。これに対して、日没とともに林間湿度が高まると同時に既存の分生子柄が膨潤となり、胞子形成を再開して、新しい分生子柄も形成されてくるためであるとした(栗林)。そして分生子柄が再膨潤した際には、その上に形成途中の未熟成胞子はそのままで、再膨潤して成長することはなく、これは退化消滅して行く。そして同じ分生子柄に新たに胞子が形成される(吉野)のである。この現象は、胞子発芽時にもみられる。即ち、発芽途中で水分が蒸発して、乾燥状態になれば胞子は乾固して、次の夜に湿度が高まり、水滴が出来ても発芽行動を再開することは出来ないことと同じ現象である。

夜間の胞子形成は2山型がみられる。1つは午後11時ころにみられる山であるが、これは前日までに形成された分生子柄の分生胞子である。2つめは午後3時ころにみられる山であり、それは新しく形成された分生子柄上の胞子形成の山である(Kato)16)

栗林らは新病斑上の胞子形成率は午後6時~10時が最も多く、これに次いでは午前4時~6時、胞子数は午後6時に多いとした。また、同一病斑上の2時間毎採集では、胞子形成率、胞子数とも午後8時~12時と午前6時ころの2山があるとし、この両者の調査結果がほぼ一致している。同氏らは室内の適温湿度条件下の分生胞子形成時間は、最短6時間、普通8時間だから、理論的には1日3~4回形成し得るが、日中の乾燥と日光照射のため理論どおりにはならない。形成回数温湿度が適当だと夜間2回波状に行なわれる。第1回の形成波は午後6時~10時、第2回は午前2時~6時であると述べている。

病斑上に形成される胞子数は、病斑の部位、来歴、当日の天候、病斑型、宿主の抵抗性等によって異なる。病斑型と胞子形成量では、yb、bg型と罹病性病斑に近づくほど胞子形成量が増加し、抵抗性病斑のb型ではほとんど認められない(市川、豊田)10),44)

発現後の日数の短いp、w型病斑は胞子数は少ないが、pg、ybgでは1万個以上の胞子が形成される。また、P、W型の新しい病斑ほど温室処理後すみやかに胞子形成が行われ、開始6~8時間後の離脱胞子数の比率がPg、ybgより高い(岩野、表1参照)。

葉いもち病斑の形成位置では、葉身基部の方が先端部側よりも多く、また早いといわれている(岩野)。

圃場抵抗性の弱い品種の病斑上で胞子形成が多い(山口ら)47)。また、多チッソ栽培のイネでは普通肥栽培イネより胞子形成が多いと述べている。

以上述べてきたように、病斑上の分生胞子形成についてみると、宿主の抵抗性、病斑型、環境条件等の形成数が異なり、その形成時間も湿度の影響を受けるなど要因が複雑である。

表1. 病斑型・面積を異にする病斑の裏面からの離脱胞子数(室内試験)

●参考文献

  • 10)市川久雄ら 長野県農試研究集報 5(1962)
  • 12)岩野正敏 北陸病虫研報 30(1982)
  • 13)岩野正敏 北陸病虫研報 30(1982)
  • 15)加藤馨ら 農技研報告 C28(1974)
  • 16)Kato H. Proceedings Sympo. Climate & Rice, IRRI(1976)
  • 22)栗林数衛ら 農業改良技術資料 24(1952)
  • 44)豊田栄ら 日植病報 27、1-4(1952)
  • 47)山口富夫ら 日植病報 45、518(1979)
  • 51)吉野嶺一 北陸病虫研会報 23(1975)
  • 52)吉野嶺一 北陸農試報告 22(1979)

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