いもちの素性を知る

第3章 発生生態

4)分生胞子の宿主への付着と発芽・付着器形成

宿主から離脱、飛散した分生胞子は、風、雨によって運ばれて、イネ体に付着し、やがて発芽、付着器形成、侵入の経過をたどる。自然条件下では胞子の付着、発芽、侵入に至るまでには、いくつかの条件が揃わないといけないので、そのことにふれてみる。

1個の病斑上に形成される胞子量は、ybg型では約5万個にも達すると前述した。したがって、いもち病のまん延に好適した条件下では、ばく大な胞子量が空中を飛散しているわけだが、そのうちごく一部がイネ体に付着、侵入するようになる。

イネ体では胞子の付着には草型、葉位によって差が見られるという。まず葉位では完全展開葉では下葉ほど付着数が多いこと(葉の固さなどが関係するので、侵入数が多いとは限らないが)、葉の水平部分で付着が多いこと、第1葉では基部に、第2葉は先端部、第3葉では中央部での付着が多いという。

茎に対する葉の開度の大きい品種では、全般に付着量が多く、葉身中央部に付着しやすいのに対し、開度の小さな葉身が立型の品種は付着量が少ない。これらは全体的に見て胞子が平らな位置ほど付着しやすいことを意味しているものとみられる。

付着量の多少もこのあと侵入の足場となる水滴の葉上における安定度(胞子侵入完了か、少なくとも付着器形成完了まで)でその侵入量が左右されるから、この胞子付着量の多少だけでは発病と直接関連づけられない。

水滴によって捕捉された胞子は、はじめ水滴表面に浮いているが、水滴の振動で沈下し、葉面に付着して固定し、ここで発芽、侵入行動に入るが、侵入完了前に水滴が蒸散して消失すれば、胞子は死滅して侵入できないことになる。このことに関する橋本氏(1964)の実験結果を述べておく。

自然付着させたイネ苗を加湿状態にしたあと、所定時間ごとに取出して乾燥すると、加湿30分~1時間後の乾燥処理では、病斑形成数に影響は少ないが、加湿3~6時間後の乾燥では、病斑数の減少が著しかった。この加湿3~6時間後というのは、付着した胞子が発芽管を伸ばし、付着器形成を始めた時期だから、胞子がいったん発芽行動を始めると、乾燥に対する抵抗力を失い、死滅するものと考えられる。このことから、いもち病の流行期間であれば、胞子の発芽行動に適した温度条件下にあることから、夜間葉面に付着した胞子は、葉面上に形成された露滴の中で発芽行動をおこし、露滴が乾燥するまでの間に侵入を完了する必要がある。自然条件下では飛散は早朝に多いが、これは日の出とともに葉面が乾くので、この時間帯に離脱した胞子は侵入に必要な時間が不足して、感染には関与できない。このことから16時~0時に離脱、付着した胞子が侵入可能となるわけである。

このように葉上の水滴状態は胞子の発芽、付着器形成、侵入行動にとってきわめて重要な要素であるから、その水滴の葉上滞留時間の長短が後に発病の多少を決定することになる。水滴が安定的に葉上にとどまる条件は次のようなことがあげられる。

  1. 強風は葉の振動がはげしく、水滴を落下させる作用がある。
  2. 降雨も葉上水滴の形成に影響が大きい。とくに強い雨は胞子の付着、水滴形成、滞留を阻害する。
  3. 弱い雨2mm/時間、30分~1時間の人工降雨では無降雨と大差ない病斑形成数であったが、5mm/時間では病斑数が減少する。1時間降雨では1/2に減少、さらに降雨時間を長くし、降雨の強さを増すほど減少する。
  4. 降雨による胞子の流亡は、付着器形成までの間におこるから、接種8時間までの間に1時間の降雨処理で病斑形成が著しく減少し、11時間後では病斑数は減少していないから、付着器形成後であれば胞子流亡は少ない、等の試験結果がみられている。

胞子の発芽と付着器形成は、12~33℃で行なわれるが、26℃以上では付着器形成は減少する。胞子から伸びる発芽管は表面平滑、その先端に付着器を形成する。付着器膜は厚く、外、中、内層と3層から成り、表面に粘質物を分泌して宿主体表に付き、付着器を固着させている。このようにして宿主に固着した後は、付着器下部から侵入糸が出て宿主内に侵入するとともに、付着器細胞の原形質は侵入糸内に流入し、付着器は中空となる2),3)

温度は18~29℃の範囲では23℃付近が最も速やかに付着器形成が行なわれる。温度(x)と付着器形成所要時間(y)との間には

y=0.072(x-23.2)2+10.9

の関係があると吉野氏は述べている52)

以上は胞子の宿主への付着と発芽、侵入に関連した経過とそれに関係する環境の問題である。近年になってから、この面の検討が進んだことから、分生胞子の宿主侵入を完了するまでの「発生好適条件」が解明されて、発生予察への利用が展開されている。温度、夜間の風速、降雨条件、結露計の開発利用など計数化と入力によって、精度の高い葉いもち初発期、まん延期の予察などに活用されつつあることは心強いことである。

図1. 侵入細糸の表皮細胞貫通電顕写真からの模式解読図(福岡良夫1972)

表6. 胞子の水滴あるいは基物への接触方法と発芽・付着器形成率

●参考文献

  • 2)橋岡良夫 農業及び園芸 47.3(1972)
  • 3)橋岡良夫 日植病報 42.237-238(1976)
  • 52)吉野嶺一 北陸農試報告 22(1979)

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