いもちの素性を知る

第3章 発生生態

5)侵入・定着

いもち病菌の宿主内侵入は、一般的にはイネ体表面に形成された付着器から侵入糸を生じ、これが宿主の表皮細胞を貫通して組織内に侵入する角皮侵入である。その過程は、

  1. 侵入糸は付着器の底部から生ずる。
  2. この侵入糸は付着器の原形質が流入して次第に生長してくる。
  3. 侵入糸が侵入完了のころには付着器内は空となる。
  4. 侵入糸は宿主表皮細胞外壁のクチクラ層、ペクチン層を通って、セルローズ層に達してから隔膜を形成し、さらに表皮細胞、原形質膜を貫いて、細胞原型質内で急に膨大して1核を含む侵入菌糸細胞となる。その概要は橋岡氏の侵入膜式解読図をご覧頂くと理解しやすい。

侵入糸は細く、その直径は約100nm(1nm=10-9m)である。またその長さは侵入が表皮細胞中央から起った場合は直線状で短いが、細胞縫合部から侵入した場合は、表皮細胞原形質に向って湾曲するので、2μmに達することもあるという。

侵入糸は葉鞘裏面細胞では接種12~16時間経過すると観察されるようになるが、葉の表皮細胞では観察できないという。葉の表皮細胞のうち、付着器形成の多いのは機動細胞と長短型細胞であるが、侵入頻度では機動細胞が最多である。

いもち病菌が侵入に要する最短時間は24℃では6時間、20℃と28℃で8時間、32℃で10時間、14℃で12~24時間、11~13℃で24~28時間で侵入を完了させるけれども、18℃以下と32℃以上では急激に侵入率(侵入菌糸形成付着器数/表皮細胞上に形成した付着器数×100)は低下、13℃と35℃では全く侵入は認められない。

自然環境下では葉いもちまん延期の平均気温はほぼ18~26℃間にあり、この温度域では胞子侵入率によって葉いもち発生が左右されることは殆どないが、冷害年のような平均気温18℃以下の低温時には、侵入率の多少は全体の発生に影響するといわれている。

胞子侵入には葉のぬれが必要であることは前に述べたとおりだが、例えば0時にイネ葉面に胞子が付着したと仮定すると、晴天時では葉面をぬらしていた溢泌液、夜露は日の出とともに蒸散して消失するので、午前8時頃までぬれが必要だから、侵入ぎりぎりの線であろうが、それには気温20℃以上が必要条件となってくる。これが雨天時にはこれ以下の気温であっても、ぬれ時間が長い(降雨内容により異なるのは当然)ので、侵入は完了できることになる。時刻毎の胞子採集割合と天候(晴天、曇天、雨天1日のみ、雨天の連続による場合)と付着胞子の侵入関係をみると、侵入量が晴天日に対して曇雨天で2.1倍、1日のみ雨天で13.9倍、連続雨天では16.1倍という結果になっている(吉野)52)。このように体内への侵入には、葉身のぬれが長く続くような雨天、曇天の連続が必要となってくるし、またこのような気象条件が続くときにもいもち病が大発生することになる。

●参考文献

  • 52)吉野嶺一 北陸農試報告 22(1979)

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