いもちの素性を知る

第3章 発生生態

6)潜伏期間・病徴発現

侵入に成功したいもち病菌は、侵入した表皮細胞内で伸長と分岐を続け、しだいに隣の表皮細胞と葉肉柔細胞を侵していく。侵入菌糸が隣接細胞に侵入するため細胞壁を貫通する際には、菌糸はくびれてそこを貫通することになるが、細胞壁が薄くて柔い場合はくびれ度は小さくて、直径が0.5μm程度であるが、厚くて固い場合はくびれが著しく、直径0.25μmと前者の1/2ほどに細くなると橋岡氏は電顕微鏡で述べている。

温度との関係では24~27℃での侵入菌糸の伸長はゆるやかで、接種48時間後では侵入細胞のみに限られ、72時間後で2細胞に、その後急速に伸長して、96時間後には20~50個の細胞内に菌糸伸長が観察されるといわれている(吉野、古賀)24),52)

潜伏期間中の温度はそれ以後に発現する病斑の数と型にも影響する。接種後昼間23℃夜間15℃に置いたイネでは急性型病斑が、同29℃、21℃下に置いた場合は慢性型病斑が現れるという23)。また、千葉氏らの実験では、進展性病斑(pg)は14~20℃、16~22℃で最も多く形成し、温度が高くなるに伴って進展性病斑数が減少して、対照的に停滞性病斑(ybg)は26~32℃、28~34℃で多く、温度の低下にしたがって減少すると述べている1)

この2つの結果をまとめると、いもち病菌の活動可能温度域であっても、低温ほど罹病的な病斑が発現しやすいことを示していると解釈される。

潜伏期間中の温度と病斑型は以上のとおりであるが、この温度以外にも病斑発現に影響する要因のあることが知られているのでそれをあげてみる。

  1. イネ生育程度・葉位と病斑の関係では、接種時に展開中の葉ではイネ生育程度に無関係に罹病性病斑が多いが(40~60%)、生育が進んだイネでは完全展開した上位第1葉以下の葉(上記展開中の葉の次の下葉以下のこと)ではそれが著しく少なくなる(吉野)
  2. このことに関して、松山氏らは下位葉が上位葉より葉脈組織が機械的に強くなっていること、下位葉では抗菌物質の集積が多いことがその理由としてあげている26)

圃場では発現したばかりの病斑は円形に近いが、日数が経過するに伴い拡大して紡錘型の典型的ないもち病斑になることは日常観察しているところである。そして病斑の拡大は葉脈に沿った方向に大きく、横方向への拡大は少ないし、また、一枚の葉では基部の方で病斑拡大があり、先端方向では褐変に変わるのが早い傾向を示す。病斑拡大も温度に左右される。昼・夜の温度設定を32/25℃と20/16℃で比較すると、高温区では初期の病斑拡大は急速だが12日以降停滞し、20日めに停止するのに対し、低温区では初期の拡大は他区より劣るが拡大しつづけて25日後に最大病斑となっている。このことから低温環境下では病斑拡大がいつまでも続き、大きな病斑となる。この事例は1993年の凶作年に観察されている。

●参考文献

  • 1)千葉末作ら 青森農試研究報告 22(1977)
  • 23)金章圭 九州農試報告 24、53-119(1985)
  • 24)古賀博則ら 日植病報 48、506-513(1982)
  • 26)松山宣明ら 日植病報 50、379-382(1994)
  • 52)吉野嶺一 北陸農試報告 22(1979)

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