いもちの素性を知る

第3章 発生生態

7)穂いもちの感染と発病

これまで述べてきた発生生態に関する項目は主として葉いもちを対象とした研究成果をもとにその見解をまとめている。いもち病では穂いもちよりも、葉いもちを材料とした業績が多いが、それは発病時期、期間、研究手法等から取扱いやすい点もあるなどやむを得ない事情もある。

そこで本項では穂いもちをとりあげて、感染、発病について述べてみる。

穂いもちの伝染源は葉いもちであることは申すまでもないことである。したがって、葉いもちの発生の多少と時期によって、穂いもちの発生が決定されるケースが多い。とくに東北地方はイネ栽培法、気象等の特質から、葉いもち発生盛期と穂いもち感染期である出穂期が接近しているため、他地域に比較してその関連が強い。一般にこの発生を「北日本型」と呼び、いもち病発生の特徴としているのである。近年米の品質、食味が重要視されるため、これに関連する穂いもち発生に対する関心が高く、その発生を葉いもち発生と関連づけた研究のとりくみ、発生予察情報の発表などが多く見られるようになってきた。

(1)葉いもち発生と穂いもちの関係

葉いもち発生量の多少、発生盛期の早晩が穂いもち発生に強く関与することは、「北日本型いもち」の特徴であることは先にもふれたとおりである。それは葉いもち発生の山と出穂期(穂いもち感染期)が接近しているため、活性の強い葉いもち病斑上の分生胞子が飛来し、出穂直後の柔らかい穂の各部に侵入、感染することによるものと考えられている。

葉いもちの発生盛期は、必ずしも出穂期に接近するとは限らず、早期発生ののち停滞して、発生と感染のピークが遠のき、いわゆる「南日本型」になることもあるけれども、冷害年や北東北地方ほど両者の山が接近し、穂いもち多発をみる例が多い。近年では1988年(宮城、岩手、秋田県の葉いもちの後期多発と穂いもち激発)、1993年(大冷害年)はその好例であり、記憶に新しい9)

1988年の葉いもち後期発生と穂いもち発生(北日本型の典型だが)を調査解析した秋田県農試、防除所の成果を紹介しよう25)

  1. 秋田県では穂いもちの予察情報は、例年8月初めの葉いもち発生、イネの生育遅延、いもち抵抗力の強弱、出穂期以降の降雨予測等から発表してきた。
  2. 県内を8地区に分けた葉いもち盛期の発病度と収穫期の穂いもち発病度は、14年間のうち6年が有意性を認めたにすぎない。
  3. しかし、両者間には普通正の相関があるので、地域性を大まかに予測することは可能であると考えてきた。
  4. 前記の1988年は8月初めの葉いもち少発生から、穂いもちは平年以上の発生にならないと予測した。
  5. ところが後期の穂いもち多発が県南内陸部で認められ、初期の予測は的中しなかった。
  6. そこで従来の調査時期からこれを8月中旬頃の上位葉の葉いもちと、籾いもちの発生を追加調査して、上記の欠陥を補うとし、翌年はその実証調査を実施した。
  7. その結果葉いもち上位葉、籾いもち発生地点と穂いもち多発地域は一致した。

以上のほかに宮城県防除所では過去10か年のデータを解析して、出穂期前後の気象条件が同じであれば、穂いもち増加割合がほぼ一定となるため、葉いもちの多少が穂いもちの発生量を大きく左右するとし、あらためて穂いもち伝染源としての葉いもちの重要性を再確認している。

穂いもち発生にかかわる葉いもちの発病部位は、第2章表2に記載したようにn-1葉、n-2葉、止葉の病斑数と高い相関がみられている。したがって、出穂以降に上位3葉の発生状況に注意し、少なくとも穂いもち防除適期までにはその緊急度を知っておかねばならない。

上位葉の発病とも関連するのであるが、この葉位の葉節部の発病、とくに止葉葉節部の発病は未抽出のくびいもち、ミゴいもち、枝梗いもちの原因となりやすいので、指標として利用できる。

(2)籾いもちの伝染源としての役割

籾は内穎よりも外穎で発病が多く、中でも稃先付近から発病が多いという。未熟籾に接種すると穎表皮を貫通し、とくに外穎の肩から稃先にかけて侵入しやすく、72時間後には各組織内に菌糸がまん延する(平野ら)6)

穂いもちの潜伏期間は感染部位によってかなりの差がみられるようである。籾いもちでは5~8日(日平均気温20.4~28.4℃の条件)、穂くびいもち9~12日(同18.1~28.4℃)、枝梗いもち7~10日であるという。このように潜伏期間に差がみられるのは各器官の組織のちがいと固さによるもののようである。このうち籾いもちの潜伏期間が最も短く、発病が早いので、この上に形成した胞子による二次伝染も重要な意味をもつ。このことから、近年では発生予察のための調査にこの籾いもち発生の動向を重視しているところがみられる(前掲の秋田農試、防除所の調査もこの例である)。

また籾いもちの特徴として胞子形成量の多いことがあげられる。穂各部よりも発病が早く、その上に形成する胞子量も多量であれば、当然二次伝染源として各部に影響する。さらに籾から枝梗、枝梗から穂軸への「枯れ下がり」現象もみられるが、その発生源も籾いもちとみられることと併せ考えれば、その重要度が理解できよう。

図2. 葉いもち盛期の発病度と収穫期の穂いもち発病度との関係(松橋ら、1990)

図3. 1988年いもち病発生状況(松橋ら、1990)

●参考文献

  • 6)平野喜代人ら 農技研報告 C16(1963)
  • 9)糸井節美 いもち病、研究と実際場面から、No.4、武田薬品、日本イーライリリー
  • 25)松橋正仁ら 北日本病虫研報 41(1990)

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