いもちの素性を知る

第4章 いもち病の被害解析

いもち病はイネの一生を通じて、そのあらゆる部位を侵害する。被害の様相も罹病の時期と部位によって著しく異なってくる。

人間が稲を栽培する目的は、申すまでもないことであるが、彼らが成長して開花結実した種実を収穫して、人間が生存するための食料(コメ)をえるためのものである。したがって、その正常な稔実を阻害する穂いもちの発生を防止して、直接的な損害を未然に防ぐことが必要となってくる。しかしこの穂いもちの発生は、葉いもちの発生と関連しているし、またこの葉いもちは種子、苗、前年の被害わら、もみ殻等の保菌、発病と関連しあっている。この一連の伝染の鎖を上手に断ち切らないと直接の被害部である穂いもちの発生は防止できないから、イネの播種準備のときから総合的な対策が必要となってくる。

イネがいもち病菌によって侵害された結果、品質、収量に与える実用的な損害について、系統的な解析を試みたのは比較的新しく、1960年頃から大曲市にある東北農試で、勝部氏によってなされた成果が最も顕著であり、私達現場を担当する者にとって理解しやすい成績である。以下その概要を紹介する2),3),4),5),6),7),8),9),10),11),12),13)

1. 穂いもちの罹病と収穫・品質

1)穂いもち感染時期と被害量

穂いもちは、くびいもち、しこういもち、籾いもちを総括していることは前述の「発病部位による名称」の項で記述したとおりである。そのほかに、ほくび下部の発病で下位の「みご」が罹病して、そこから上部の穂全体が白穂化することもあるので、減収や品質をみるときには、この部位の罹病も無視できない点である。

ところで出穂直後から5日、10日、15日、20日、25日と5日ごとにいもち病菌を接種して、その罹病程度と収量構成要素にみられる被害を調査した試験を行った。

その結果籾1,000粒重にみられる被害の様相は図1に示すとおりである。この図からみると、出穂当日接種区で罹病率が高くなるに伴って減収が顕著となり、100%の罹病率で収量がゼロを示している点が注目される。

また、出穂5日後の接種がこれに次いで高く、10日以降接種でも出穂日に近い感染ほど減収量が多いが、20~25日後の接種では、100%の罹病率でも影響がほとんど認められなくなってくる。これを要約してみると、

  1. くびいもちに罹病した場合の減収は、出穂当日の感染で最も減収し、出穂5日後、10日後と時間が順次経過してからの感染では次第に収穫量が少なくなる。
  2. こうして出穂25日後の感染では、罹病率100%であってもほとんど収量に影響していない。
  3. 出穂日に近いほど、穂の罹病率が高いほど減収量が多くなる等々である。

いっぽう、これを裏づけるために、出穂期から5日ごとに圃場の健全穂を切取って、籾重と玄米重の推移を追跡してみると、25日後の穂では完熟した穂(出穂45日後)と差がみられなくなる。品質(活青米、上米、死米等)の面でも20日と26日の間に大差がみられるから、品質、収量とも26日経過すると大勢が決定するようである。したがって、出穂25日後の感染でいもち病の影響なしか、少との接種試験結果はイネ登熟の面からも裏付けられたとしている(表1、2)。

以上の結果から、収量に影響する感染時期は、穂ぞろい後3週間までと要約されるから、この期間までの感染防止のための薬剤散布であればよいと結論される。

例えば散布後1週間残効を有する薬剤を散布するとすれば、出穂直前から走り穂の出る頃に1回めを、その1週間と更にこのあと1週間の計3回散布することによって、穂いもち罹病による減収から免れることができると言いうる。

この関係を勝部氏は図2のような模式図で示している。

図1 接種時期別に見たくびいもちの罹病率と籾1,000粒重との関係
(勝部未発表)

表1 出穂後目数と籾重および玄米重との関係(ハツニシキ、g/1穂)
(勝部ら1970)

表2 出穂後日数と米粒構成との関係
(勝部ら1970)

図2 穂いもちの感染時期と被害率との関係(模式図)
(勝部ら1970)

2)罹病率と収穫構成要素との関係

勝部氏は収量と罹病率の関連を調査する時期は、収量に影響のみられなくなる感染時期と、穂いもち潜伏期間を考慮して、穂ぞろい30日目が最適述べ、それに基づいて検討している。

罹病部位の区別は、それまで行った各調査者の業績を参照として、あまり細分化せずに、くびいもちと枝梗いもちに大別し、くびいもちはさらに、早期に罹病して米粒の発育停止した白穂を被害が高いので分けて「白穂」として、白穂、くびいもち、穂いもちに3分して穂の罹病部位を代表させて調査した。

農業試験場等で各種の試験を実施する場合に、その処理(試験の狙い)とイネの収量、品質の関係(イネに対する影響)を検討しようとするときには、一般に「坪刈り」と称して部分刈りを行い、完熟期に全重、精籾重、粃重、粗玄米重、同1,000粒重、精玄米1L重、屑米重、わら重、籾/わら重比率等を調査する。また、これをkg/10aに換算して表示することも多い。さらに、品質を吟味するときは、玄米を活米、死米に大別し、活米をさらに青米、茶米、奇形米と上米(完全粒)に細別するし、死米も死青米、死茶米、白死米等に細分することもある。

勝部氏が上記に準じて、白穂、くびいもち、穂いもちに分けた各罹病率と収穫構成要素との関係(相関関係)をみたが、粃重、屑米重は罹病率が高まると増加し(正の相関)、全重、精籾重、粗玄米重、同1,000粒重、精玄米重、同1,000粒重、籾/わら重秘は減少して負の相関関係を認めている。

そのうえで罹病率と収量の間の上記関係は、年次や品質を異にしても変わらないと述べ、12年間の相関関係を表記している。

このうち収量すなわち精玄米重と穂いもち罹病率の相関は、12ヵ年のうち1年を除いては-0.796***から-0.971***ときわめて高い相関関係にあることがわかった(0.1%水準で有意)。これから穂ぞろい30日後における罹病率(x)と減収率(y)との間には、

くびいもち、y=0.31x~0.57x
穂いもち、y=0.27x~0.52x

の関係式を求め、すべてこの範囲内に納まると述べている(ササシグレ、n=12年)。

罹病率と減収率の関係は、図1~2い示したように、早い感染でその影響が大きく、遅い感染では高率の発病でも減少は少ないので、発病経過を重視しなければならないのは当然であるが、穂ぞろい30日後における穂いもち罹病率と減収率は概ね上記の関係と見て差支えないと述べている。

このことから穂いもちの罹病率が10%だったと仮定すると、このときの減収率は2.7%から5.2%の範囲と試算される。したがって10a収量600kgの水田では、穂いもち発病率10%であったとき(1筆平均発病穂率10%程度の発病はごく普通にみられる発生で、決して珍しい多発現象ではない)、減収は16.1kgから31.2kgの範囲であり、精玄米20kg入包装では1俵から1.5俵程度の減収(損害)ということになる。

このほかには特異発生年(異常気象による)における発病程度と収量構成要素の関係を調査した山形県農試の報告がみられる。それについて概略を紹介する20),22)

1.1980年の事例

この年は、7~8月の異常低温と日照不足により穂いもちが多発生した。

達観により株ごとに発病提示度甚、多、少、微に類別して、各程度ごとに10株を刈取って調査した。発病程度に分けた各部位別の病穂率は表3に示したとおりであるが、この中で注目されるのは、甚、多区分では病穂が大部分節いもちと首いもちであること、少、微区と軽くなるに伴い枝梗いもちと健全穂が多くなることである。

このように程度区分した株の部位別収量構成要素を表6に示した。

この内容をみると、発病程度が重いほど、粒厚1.8mm以上の精玄米の着粒数が少なく、精玄米1,000粒重が軽い。

粗玄米の品質も調査しているが、重症では整粒が少なく、死米が大幅に増加している。同一発病程度(甚、多、少、微)に分けた区の発病部位(節、首、枝梗)による差は認められず、殆ど同じ程度の粗玄米構成であった。この年の特徴としては、それまで各地で報告された調査例と異なる点として、奇形米の多いことをあげている。これは本来ならば正常に発育する粒であったが、低温(冷害)で登熟が阻害されたうえに穂いもちの被害により増加したものだろうと考察している。

2.1991年の事例

この年は東北地方の全域でいもち病が多発生した。山形県において葉いもちの発生面積34,660ha(前年の2.8倍)、穂いもち17,848ha(平均の3.7倍)の多発生であった。私もこの年その発生盛期に1週間ごと3回連続して現地調査をして、その面積と被害の程度に驚いた記憶がある。

山形農試ではこの機会をとらえて、発生様相と穂いもちの収量品質への影響調査を実施した。

調査に用いた標本は、多発生圃場から発病程度別に5株ずつ抜き取ったが、この程度区分は今日一般に用いられている基準の

無…発病穂率0%
少…1~10%
中…11~30%
多・・・31~60%
甚・・・61%以上

に準拠して、圃場の平均茎数±1本の株を選定、採取し分析に供した。結果は表4、5に示した。

収量構成要素と発病程度の間では、粗玄米重(株当りg)でみると、甚~5.9、多~14.8、中~15.6、少~19.4、無~21.2gを示し、精玄米重(株当り1.9mm)はそれぞれ1.3、6.7、7.7、11.7、14.7gを示した。また、玄米1,000粒重においては同様に、17.5、18.8、19.0、19.3、19.5gを示し、いずれの要素も罹病率の増加に伴って減少していることがわかる。この年は穂いもちの発生が早く、全般に出穂直後に罹病したものが多い「早期感染多発型」であるから、したがって被害の多い発病タイプ(図2参照のこと)の結果がみられたと考察している。

表3. 発病部位別発病穂率(1980)

(竹田ら1981)

表4. 収量品質関連要素(最上町はなの舞)(1991)

注1)同一英文字を付した数値間はDUNCANの多重検定による有差異(5%)がないことを示す
注2)登熟歩合、粒厚分布はARCSlN変換後、DUNCANの多重検定を行った

(佐久間ら1992)

表5. 玄米形質(最上町はなの舞、1.9mm以上:粒数%)(1991)

(佐久間ら1992)

表6. 発病程度及ぴ部位別収量決定要素(1980)

精玄米は粒厚1.8mm以上の玄米

(竹田ら1981)

3)罹病率と米の品質

これまでも米の品質問題にはふれてきたが、項を改めてみていきたい。

先にも述べたように、玄米の品質評価は、その外観から活米と死米い大別するとともに、活米は青米、茶米、奇形米に分け、残りを上米(完全粒)とし、死米は死青米、死茶米、白死米等に細分するが、一般には死米として一括するのが通常の報告にみられる内容である。勝部氏の報告から概略をひろってみる。

白穂、くびいもち、穂いもちに3区分した穂いもちの罹病程度(率)と上記玄米の品質(外観形成)では、とくに相関関係の高いものとして活青米(相関係数、白穂-0.939、くびいもち-0.952、穂いもち-0.877)死米(白穂0.936、くびいもち0.984、穂いもち0.963)、上米(白穂-0.908、くびいもち-0.955、穂いもち-0.974)があげられる。

このことから、罹病程度(率)が高くなると活青米と上米が減少し、死米が増加するようになる。中でも死米率は罹病による影響が敏感に反応すると述べている。

1962年から1971年まで10ヶ年にわたる調査から、首いもちと玄米形質の相関係数を表記してあるので参考までに掲載する(表7)。

穂いもちに罹病すると玄米の肥大が阻害されてきて、2.0mm以下の粒が増加し、2.0mm以上では罹病率と負の相関関係となるという。このことから当然であるが罹病率が高まることによって1等米格付けが低下することになる。その相関係数は、白穂率で-0.927、くびいもち率で-0.972、穂いもち率で-0.983になると記載している。またこのような玄米は精白の際に砕米率が高まり、白米の検査等級も下落する。さらに穂いもちは精白歩留りを減少させ、乳白、心白粒を多くするが、その率が10%増加するごとに搗き減りが役1%増大(r=0.987)する関係があるという。

罹病率と玄米の主要成分含量の関係では、

  1. 炭水化物~罹病率の増加に伴って減少する。1971年産米では、白穂率で-0.714**、くびいもち率で-0.812**、穂いもち率で-0.796**の相関係数であり、その関連性は密接である。
  2. タンパク質~玄米中の窒素化合物中でタンパクは罹病率の増加とともに増加する。しかし非タンパク態窒素は減少する。
  3. 脂質~粗脂肪は罹病率の増加に伴って増加する。

以上の関係は罹病率の増大に伴う死米率の増大に由来するものであり、全体の約90%を占める炭水化物が大きく減少するために、タンパク質や脂質は相対的にその割合が増えることになったとみるのが妥当であると述べている。

4)枝梗いもちと稔実

穂軸、一次枝梗、二次枝梗、少枝梗(果梗)の罹病部位、時期別に病斑の進展と稔実への影響を調査して下記のように考察している。

(1)一次枝梗、穂軸の罹病

出穂当日から6日ごとに7回、人工接種で部位別の罹病と稔実の様子を検討している。

各一次枝梗先端の穎華の果梗:先とする
穂軸中央部の枝梗分岐点:中とする
穂軸最下部の枝梗分岐点:基とする

に分けた接種では先端部の発病が最も遅く、基部で最も早い。これは品種や年次別に違いがなく、何時も変わらない傾向である。

また、病斑の進展は出穂当日は早く、また15日~20日以降も早い進展であるが、5日、10日めの接種では進展が鈍くなるという。

このような穂の登熟では、基部接種の被害が最も大きく、次いで中央部となり、先端部が最も軽い。最も被害の大きい基部においても、接種20日目では被害が認められなくなるという。

(2)二次枝梗の罹病

二次枝梗の先端穎花の果梗に接種して、病斑の進展と稔実状況を調査した。

先ず病勢の進展は、概して後期接種では早まる傾向を示した。稔実への影響はすべてが軽く、中、後期接種では全く認められなかった。このような中で出穂後2日おきに6回の接種で検討した結果は、病斑の進展は出穂当日が最も早いこと、以降経時的に進展は鈍くなるが、12日め以降再び早くなることを観察している。

以上のような推移から、1穂全体の籾の登熟に影響するのは出穂後10日以内の感染に限られると結論している。

(3)各部位の重複感染と稔実

圃場での実態を観察すると、各部位における単一の感染よりも2箇所以上の部位や、同一部位であっても先端、中央、基部など複数箇所で発病している場合が見受けられる。このような現況から、重複接種による稔実への影響を調査している。

接種時期は出穂当日と出穂15日後とし、各穂の先端、中央、基部、穂くび部の各部単一接種と、これらの各部位の組合わせ接種で比較検討している。

それによると、両時期接種とも接種部位が基部ほど進展が早く、さらに単一接種よりも重複接種で進展が早い。またこの発病経過を反映して稔実への影響も基部に近いほど大きく、登熟歩合の低下がみられた。

このような穂における重複感染も、その傾向(病斑進展、稔実阻害程度)は単一部位感染の場合と類似していて、全体に感染時期が早いほど、感染部位が基部に近いほど被害は大きくなる。また先端部を数箇所侵された場合よりも基部1箇所侵されたほうが被害が大きくなる等である。

以上枝梗いもちの各発病部位(重複感染も含む)と被害について述べてきた。圃場での発病程度が全般に軽微な場合は、くびいもちの発生は少なく、その大部分は枝梗いもちであることが多い。通常調査で防除所、普及センター等で枝梗いもちの発病程度を表現するとき、「しこう1/3以上(重症)と1/3以下(軽度)」として記録されることが多い。「1/3以上」とはそれだけ穂の中央部か基部に近いところの発病も含まれるから、1/3以上、1/3以下のもつ品質、減収の意味をよく理解してほしい。

表7. くびいもちの罹病率と玄米形質との相関係数(ササシグレ)(勝部ら1970)

●参考文献

  • 2)勝部利勝ら 北日本病虫研報 13(1962)
  • 3)勝部利勝 北日本病虫研報 14(1963)
  • 4)勝部利勝ら 北日本病虫研報 15(1964)
  • 5)勝部利勝ら 北日本病虫研報 16(1965)
  • 6)勝部利勝ら 北日本病虫研報 17(1966)
  • 7)勝部利勝ら 北日本病虫研報 18(1967)
  • 8)勝部利勝ら 北日本病虫研報 19(1968)
  • 9)勝部利勝ら 北日本病虫研報 21(1970)
  • 10)勝部利勝ら 東北農試報告 39(1970)
  • 11)勝部利勝ら 北日本病虫研報 22(1971)
  • 12)勝部利勝 農薬研究 24.3(1978)
  • 13)勝部利勝 稲いもち病、養賢堂 183~187(1987)
  • 20)佐久間比路子ら 北日本病虫研報 43(1992)
  • 22)竹田富一ら 北日本病虫研報 32(1981)

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