いもちの素性を知る

第4章 いもち病の被害解析

3. 葉いもちの罹病時期、罹病程度と収量、品質

葉いもちに侵されると、その影響は単にその葉身のみならず、場合によってはその前後に着く葉身や、さらに激しいときには全身的な中毒症状をおこして、いわゆるズリコミ症状を呈するようになる。また、この葉いもちに引続いて穂いもち、節いもちに移行する場合も多く、流動性をもつのが特徴であるから、葉いもち単独と収量、品質(=被害)との関連を検討することはその処方で甚だ困難な問題を含んでいる。パンチ接種法が考案されてから(三沢)14)、ほぼ計画どおりの葉位に計画どおりの病斑数を形成できるようになったので、葉いもち単独の影響を解析することが可能となった。勝部氏の業績からこの問題を紹介する。

1)罹病程度と被害

11葉期のイネに病葉率5%刻みにパンチ接種して止葉期に生育量とその後の収量を調査している。

それによると、止葉期には葉身長、葉鞘長、葉面積、草丈、乾物重で負の相関関係がみられ、罹病程度に応じて減少していることが明らかになっている。即ち葉いもちの罹病程度が高まるにつれて、葉身と葉鞘が短くなり、葉の面積も小さくなってくる。草丈も短くなって乾物重も減少する。このような出穂前の地上部の生育の劣化が収穫期(完熟期)には桿長、穂長、全量、全籾重、わら重、籾/わら重比の減少につながり、すべて負の相関がみられる。

葉の罹病と株当りの穂数では、収量に直結する問題だけに関心が強い。一般には葉いもちの発生程度が高まると、草丈が短くなり、茎数は増加する傾向を有する。とくに進展性の病斑では顕著である。

12葉期にパンチ接種して、葉の罹病度を変えた場合に発病指数(罹病葉率×1葉当り病斑数)と穂数では高い正の相関がみられ、罹病度が大となれば穂数が増える結果となっている。葉の罹病度が極限に近づくにしたがってズリコミ症状となるのであるが、このようなイネでは、出穂後には短小な穂が多数形成しているのが通常的に観察されるのはこの好例である。

罹病葉率と収量構成要素間の関係は、実際の圃場で葉いもち罹病度の異なるイネを用いて、さらに年次間の変動を考慮して10か年間の調査からその傾向を導入している。この場合には可能な限り穂いもちの発生を排除(防除をほぼ完全に行って)して、その傾向を検討している。

それによると、粃重、屑米重は罹病葉率と正の相関関係が、全重、精籾重、粗玄米重、精玄米重、玄米1000粒重、わら重、籾/わら重比は負の高い相関が認められ、その傾向は穂いもち発生の場合と同様である。直接の収量は玄米1000重、精玄米重で表示されるが、これが罹病程度と密接な関係にあるから、葉いもち単独の影響も無視するわけにはいかない。

また、罹病葉率と玄米形質の関係では、罹病葉率の増大に伴って死米が増大し(相関係数0.938**)、上米(完全米)が減少(同-0.945**)する。この傾向は穂いもちのケースと同様である。さらに奇形米が増加(同0.846*)するが、これはズリコミ症が穂にも影響して、籾の矮小化、ねじれによる変形がその理由と考察している。

葉いもちに感染した時期(葉齢)と品質、収量の関係については8葉期から止葉期まで、罹病葉率20%になるようにパンチ接種して検討している。その概略は次のとおりである。

  1. 罹病葉位とイネの生育では、出穂期における生育量でみると、病斑進展の激しい11葉接種で顕著であり、次いで10葉、12葉の順であった。止葉接種では桿長が短くなる(これより下位の14葉、13葉に比較して)傾向が最も強くあらわれるが、これは止葉の発病によってミゴの伸長が停止して、穂が出すくみの状態となるためであるとした。
  2. 罹病葉位と収量の関係は、同様に葉位別の接種によって検討したが、イネ生育に影響の大きい11葉期接種で顕著であった。この圃場実験では、各葉齢期に接種してから穂ばらみ期まで以降の発病を抑制していないので、正確には接種葉齢期以降の発病が加味された被害と述べている。これは換言すれば葉いもち感染期(感染葉齢)と被害との関係であるともいうことが出来る。
    ポット試験では接種葉齢だけの発病として、以後その罹病葉を切除して、各葉齢期間だけ罹病させて、イネ生育と収量の関係をみている。それによると12葉齢接種で穂数が最も多く、桿長、穂長、1穂重が最も小さくなった(発病に関係なく、穂数が多くなれば1穂重や穂長が短くなるのは一般的にみられる傾向である)。
    登熟歩合、収量は14葉齢期接種(止葉の次葉)でその影響が顕著であった。
    この試験は前述のように、各葉位の1枚のみの発病に限った場合の結果であるので、当然であるが自然発病とはことなる発生経過と理解されたい。
  3. 罹病葉位と玄米形成では、生育、収量の場合と同様に、11葉齢期に接種して以降のまん延を防止しない区で影響が大きく、健全区に比較して上米が約1/3に減少し、茶米、奇形米は約2倍に増加したと述べている。

以上各葉齢期接種(パンチ接種)と生育、収量、品質の関係から、12~14葉期の罹病が被害が大きく、10葉齢期以前では若齢期ほど軽い。若齢時の発病の影響が小さい理由は、出穂までの期間が長いため、いもち病によって乱された生理機能が回復したこと、12葉齢期は幼穂の一次枝梗の始原体文化期に相当して、幼穂の発育阻害に働くこと、14葉齢期は幼穂の花粉母細胞の充実期から減数分裂初期に相当しているため、この時期の罹病によって、生殖細胞の分化に影響して、穎花の受粉に害作用を与えたこと等をその理由としてあげている。

葉いもちの発病は、出穂期に近い場合ほど収量、品質に影響が大きいが、それは直ちに穂いもちに移行して直接的に被害を与えるケースのほかに、葉いもち単独のイネの影響が、出穂前において顕著にみられることを十分に承知しておくべきである。

●参考文献

  • 14)三沢正生 植物防疫13、15~16(1959)

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