いもちの素性を知る

第4章 いもち病の被害解析

4. いもち病に対する被害抵抗

農家の立場に立って、病気による被害を考えると、それは葉に何個の病斑が発生したということではなくて、米の収量が減ったかどうか、品質が低下したかどうかが問題となるのである。発病しても常に収量にひびくと限らないし、同程度に発病しても収量にひびくときと、あまりひびかない場合とがある。このような収量又は品質の立場から抵抗性を考えた場合に被害抵抗ということが重要になるのである。

イネが病気にかかると、恢復する力、補償する力とが現れてくる。これらの力の強いものは、病気にかかっても収量の減少等があまり目立たない。これは被害抵抗が強いというのである・・・・・・・・・といもち研究の先輩、小野小三郎氏は被害抵抗の概念を述べている15),16)。そして1954年から3年間、60品種前後のイネで、首いもち発病程度と収量の関係から、品種の被害抵抗性の強弱について調査し、明らかに強いもの、弱いもののあることを知ったが、まだ結論めいたところまでは進まなかったと述べている。

この点をさらに解明するために、勝部氏は草型、熟期の異なる品種群を用い、主として穂くびいもち罹病に伴う減収の様相を比較検討しておられる。

その概要を紹介する。

1)くびいもちの被害にみられる品種間差異

出穂30日めの罹病率と収量との関係は、各品種とも高い負の相関がみられるが、その中で、早生種群よりも晩生品種群で減収度合いが高いという。接種時期別の被害と籾1,000粒重でみると、出穂15日めまでの罹病では品種間で12~24%も被害差(約2倍)がみられている。

2)各品種の収量、品質の差異

穂いもちの完全防除区を無処理区の収量差から減収率を求めると、早生品種で21.0~26.3%。晩生品種で30.8~39.0%であり、明らかに晩生種群で減収割合が高い。

いっぽう穂いもち罹病率を10%で統一してみると、早生種の減収率は4.8~4.9%であるのに対して、晩生種では7.4%~7.5%となった。さらに上米の減少率は早生種で24.6%、晩生種35.2%となり、量、質とも品種群間に差が認められた。

上記、1)、2)に示した品種間の差異は、早、晩生品種の登熟スピードに基因する可能性が強いと考えられたので、健全稲(3品種)での籾1,000粒重と着生部位別の籾1粒重を5日間隔で調査してみると、早生種では20日から25日めに35日と同等の1,000粒重が得られたのに対して、晩生種では30日めでも約90%しか得られていないから、登熟速度には品種間差異があって、これが減収程度の違いになるものと推定している。

3)くびいもち接種時期と発病率、枯死率の推移

3品種を用いて出穂後に経時的に接種して発病経過を調査している。それによると、藤坂5号は他の2品種に比較して発病しにくく、発病しても枯死しにくいことが判明した。また早生種のなかでも、穂重型の藤坂5号よりも穂数型のハツニシキでは、発病が早く、枯死が速やかであったという。

以上から被害抵抗は、前述の登熟速度と、品種固有の進展抵抗の組合せいよって発現するものであると考察している。

4)葉いもち抵抗性と穂いもち抵抗性を異にする品種

一般に葉いもちにはかなり強くても、穂いもちには侵されやすい品種が多いが、中にはこの逆の品種も存在する。前者の代表としてササシグレ(1963年の多発生を機に翌年からササニシキに交替した)、後者の代表として「こがねもち」があるが、この2品種を中心にその機作について検討した。その結果はおおむね次のとおりである。

  1. こがねもちは葉身をしぼった汁液中のいもち病菌分生胞子の発芽率が高く、また、葉鞘検定による伸展度も大きいことが判明した(葉鞘検定については後述する)。
  2. このことから、こがねもちは葉いもちに侵されやすい体質を持っていると判断されるし、事実圃場では毎年多発生した。
  3. しかし、穂ばらみ期に入ることから次第に抵抗的になり、伸展度も小さくなって、ササシグレとは逆転する。
  4. 穂いもち発病率はササシグレにくらべて著しく低率となる。
  5. 両品種の耐性菌の推移が交叉(逆転)する時期は、伸展度の推移から判断して、分げつ後期から穂ばらみ期にあると推察される。

以上の事実から、いもち病の被害を論ずる場合にはこのような品種特性も十分に考慮する必要があると述べている。

さて、先述の葉鞘検定法についてふれてみる。

イネがいもち病に対して、かかりやすい体質なのか抵抗的であるかを知ることは、その後の病気の進展をはかる意味で極めて大切なことがらであり、このことから発生予察に利用されてきた経緯があった。この方法は、実際にいもち病菌をイネ葉鞘裏側に注入接種して、菌が葉鞘裏面細胞内にどの程度侵入したか、細胞内の反応はどうかを直接顕微鏡で観察することによって、イネの抵抗性の程度を判断しようとするものである。

この方法ははじめ坂本正幸氏によって考案され、後に高橋喜夫氏(北海道農試、
岩手大学を経て山形大学農学部教授となる)が発生予察に利用しやすいように工夫された方法である1),17),21)

方法の概略は発生予察圃のイネを用い、いもち初発10日前から出穂期までの間7日ごとに、毎回株の最長茎の第3葉鞘、詳しくは最上位葉が次葉長の1/2に達したときの第3葉の葉鞘を用いる。但し、穂ばらみ期以降は第2葉鞘とする。この葉鞘5本ずつをとり、この葉鞘(長さ10~15cm)内に胞子浮遊液をスポイトで注入して、ペトリ皿の湿室に納め、24~25℃に40時間保った後、この葉鞘細胞内の菌の伸展度を測定して、圃場の発病度との関係を求めようとするものである。伸展度は菌糸の細胞内侵入程度や、細胞の反応(顆粒、着色状況)によって指数化して(0.5、1、2・・・・・・)、伸展度1.0、2.0、3.5等を求めてそのイネの抵抗性の強、弱を判定しようとするものである。

1955~1965年ころ各県農試で予察に利用・検討された経緯があった18),19)

●参考文献

  • 1)千葉末作ら 北日本病虫研報 17(1966)
  • 15)小野小三郎 稲の病害とその防除法、養賢堂(1953)
  • 16)小野小三郎 イネいもち病を探る、日本植物防疫協会(1994)
  • 17)農林省振興局 病害虫発生予察実施要綱(1958)
  • 18)大森秀雄ら 北日本病虫研、特別報告6(1965)
  • 19)斎伴男 宮城県農試報告 19(1962)
  • 21)高橋喜夫 山形農林学会報 13(1959)

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