いもちの素性を知る

第5章 病原菌のレース

2. 日本における判別品種とレース

北日本病害虫研究会報に登載されている高度抵抗性品種が罹病化した事例報告の最初は、岩田勉氏らによる「昭和39年度北海道における水稲品種ユーカラのいもち病異常多発の実態調査」のようである1)。多発の原因については、環境条件の変化に伴って品種抵抗性が変化するのかどうか、菌型の流行を支配する要因、菌型ないし菌株で品種に対する特異的な病原力に差があるのかどうか、粗悪な種子を使用した例がみられるが、その場合の耐病性についての検討が必要である等々の問題点を指摘している。その中でレースに関しては、1955年以降C-1型の分布があるので、ユーカラのみが多発したこの現象をC-1型で説明することは病原性から見て困難だとも述べている。

このあと各地から中国品種杜稲、茘支江のいもち抵抗性を導入して育成された関東51号、53号などの真性抵抗性品種が新しいレースの出現によって罹病化する事態がおこり、病原性分化現象がいもち病防除の現場で重視されて、この面の研究が広く行なわれるようになってきた(秋田県でもウゴニシキで1964年から局発したが広域的に激発したのは1965年からであった16)。これから北海道の発生事例を優先した)。

1)日本における旧判別体系

1954年に農林省の病害虫発生予察事業の特殊調査課題(主な作物の病害虫で、その発生生態等の不詳なものを選び、予察、防除法等確率の視点から重点地域、場所を選び、その解明に当たった特殊調査事業)として、「稲熱病菌の菌型に関する研究」がスタートした10)

この研究はそれまでの知識・経験から抵抗性が異なると考えられた外国品種を含む多数の品種に対して、わが国の各地から分離された多数のいもち病菌株を接種して、その結果を整理し、イネ品種といもち病菌株をグループ分けしながら進められてきた。それらの経過は後藤和夫氏が詳しく述べている10)

この試験方法の基本的な点は以下のとおりである。

  1. 供試菌は罹病標本から単胞子分離して用いる。
  2. 接種には新鮮な胞子を用い、判別品種の4葉期の苗に分生胞子液を噴霧接種する。
  3. 胞子濃度は1mL中に5~10万個、接種7~10日めに接種時の半展開以上の最上位の病斑型を調査する。
  4. 病斑型の類別基準は別に定めるが、HR型とR型は抵抗性(R)反応、MS型とS型は罹病性(S)と反応する。RS型は中間(M)反応としてレース判別に用いる等である。

この共同研究の成果は次のとおりである。

  1. 判別品種は、T品種群(インド稲型イネの抵抗性をもつもの)~Tetep、Tadukan、烏尖。
  2. C品種群(中国稲の抵抗性をもつもの)~長香稲、野鶏粳、関東51号。
  3. N品種群(日本稲群)~石狩白毛、ほまれ錦、農林22号、愛知旭、農林20号

レースの命名には判別品種の各群に対する病原性に従って3群に分けられる。

Tレース群~ T群判別品種の1つ以上が罹病性反応を示すもの。
Cレース群~ T群判別品種はすべて抵抗性反応を示し、C群判別品種の1つ以上が罹病性反応を示すもの。
Nレース群~ T群、C群の判別品種には病原性はなく、N群判別品種の1つ以上だけが罹病性反応を示すもの。

この方式で1966年までに類別されたものは、T群3、C群9、N群6、計18レースであった。この中には登録後にほとんど検出されなかったものもあった。普遍的に見出されたものはT-2、C-1、C-3、C-6、C-8、C-9、N-1、N-2、N-4などであった。

以上のような成果の具体例として、1964年ユーカラの異常多発のみられた北海道において、次年度の1965年を含む2ヵ年のレース消長を参考までに記載すると、1964年度は供試菌株数74のうちC-1は24.3%、C-2、C-4がともに4.1%、C-7が5.4%、C-8が14.9%、1965年度は44菌株供試してC-1、13.6%、C-7、2.3%、C-8、6.8%、N-2、72.7%、N-1、4.5%(主なるもののみ掲載)であった。外国稲系の奨励品種編入に伴う広域化と罹病化は、C-1、C-2、C-7、C-8に由来すると考察している2)

2)日本における新判別体系

いもち病菌のレース判別が出来るようになったことから、いもち病抵抗性の遺伝学的研究も進んできた。その中で真性抵抗性遺伝子を1つずつ持っているものの組合せが最も判別能力が高いものになるということで、旧判別品種のうち、関東51号、石狩白毛、愛知旭がそれぞれ1つの遺伝子Pi-K、Pi-i、Pi-aを単独に持つので問題はないが、他品種は複雑な遺伝子構成を持つので不都合とされた。さらにフクニシキに導入されているPi-zが判別品種に含まれていないこと等が指摘された。このことから、1976年に新しい判別体系が提案されて今日に至っているわけである17),18)

この判別体系は表1、2に示したように9判別品種が用いられる。

これらの判別品種は前述したように、日本に発生するいもち病菌に有効な真性抵抗性遺伝子のうち主要なものを1つずつ持っているものである。この9判別品種=9抵抗性遺伝子を表のように3品種ずつまとめ、それに対してそれぞれ1桁、2桁、3桁の数字のコード番号を与えておく。そしてあるレースの名称は、そのレースが侵しうる判別品種=抵抗性遺伝子のコード番号の数字の和をもって表現するようにした点が特筆される。

例えば表から新2号のみを侵すレースは001であり、この新2号と愛知旭、さらに石狩白毛の3つの品種を侵すレースは、判別品種のコード番号のそれぞれを加えたもの、即ち、1+2+4=レース007となる。同様に新2号、愛知旭とさらに関東51号、ツユアケ、ヤシロモチ、PiNo.4をも侵しうるレースは、1+2+10+20+100+200=333となる。

逆にレース333は、1,2,10,20,100,200に分解できるから、このレースがそれらのコード番号を持つ判別品種=抵抗性遺伝子に病原性を持っていることがわかる。即ち、レースの病原性をその番号から直ちに知りうる利点をもっているのである。

レースの名称を判別品種のコード番号、例えば新2号の1とせずに001とか、37とせずに037とした理由は、今後外国品種の抵抗性遺伝子が新たに導入された場合、それに対する病原性の有無を判別するために、その遺伝子を持つ判別品種を加える必要があるためである。そして追加品種も3品種ずつグルーピングして、第2、第3の追加判別品種には2000,4000のコード番号を与え、さらに第4の追加判別品種には10000のコード番号を与えれば、十分に相互関係が理解できるようにしたためである。

なお参考までに新方式と旧方式により判別されるレース関係は表3に示すとおりである。

●参考文献

  • 1)岩田勉ら 北日本病虫研報 16(1965)
  • 2)岩田勉 北日本病虫研報 17(1966)
  • 10)農林省植物防疫課 病害虫発生予察特別報告 5(1961)
  • 16)柳田騏策ら 北日本病虫研報 17(1966)
  • 17)山田昌雄 植物防疫 30.6(1976)
  • 18)山田昌雄ら 稲いもち病、養賢堂189~274(1987)

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