いもちの素性を知る

第5章 病原菌のレース

4. レース分布変動はどうしておこるか

レース分布は、侵害出来る品種の作付け動向によって左右されることを具体例をもって示した。秋田、岩手、宮城、山形、福島県の調査事例(1986~1991)はともにその地域における作付面積に支配されると結論されている。

いっぽう、発生菌の性質も、レース分布には影響するといわれ、その一例として優勢レースは病斑上の胞子形成量が旺盛であり、希少レースはそれとの競合に弱いためと岩野氏らは考察している5)

1)栽培品種の影響

新しい真性抵抗性を持った品種が導入されて栽培されると、当初はその品種を侵し得るレースが存在しないから、いもち病の発生のない状態が続くことになる。しかし、何年か経過してその品種の作付面積が拡大すると、ほとんどが発病するようになる。これを抵抗性品種の罹病化といい、実用上重大な問題に発展することになる。この例はかつて1965年頃にクサブエなど一連のPi-k型品種の罹病化をはじめとして多くの事例があり、それによって県の奨励品種採用予定を急きょ取りやめたり、奨励品種から除外した経験を私はもっている。

それまで抵抗性品種であったものがひとたび罹病化すると、その品種の上では他のレースとの競合がなく、選択的に増殖される。その速度と量は、圃場抵抗性が弱いほど、また作付面積が大きいほど早くて大きい。

抵抗性品種の罹病化が起ると、前述のようにその品種の作付は急減して、真性抵抗性の異なる品種にもどるが、それが圃場抵抗性の弱い場合は同じように数年内に再び激発することになる。これのくり返しがいつも行われている。

2)発生菌の特性と影響

ある地域には、その地域の環境条件に適した菌系統が増殖することが考えられる。レースは品種に対する病原性で類別されるものであるから、特定のレースがふえたことと環境条件との間は無関係のようにも考えられるのであるが、しかし、ある系統が他よりも有利に増殖したとすれば、その系統の所属レースが増殖して、優勢になったような現象がみとめられることになろう。

このことに関しては次のような実験結果がある。

八重樫氏ら15)はレース分布支配要因の解析で、菌糸発育温度のレース間差異を試験した。菌糸発育の上限温度では、高い方からC-3、T-2、C-8、N-2、N-1、C-1、C-6の順(但し、C-8、N-2で、N-1、C-1で、C-1、C-6間では有意差なし)で温度による発育差があること、菌糸発育の適温範囲ではT-2、C-8、C-3、N-2、N-1、C-1、C-6の順で広→狭の順位を認めている(但し、T-2からN-1までと、N-1とC-1間では有意差なし)。

圃場におけるいもち病発生時期の温度条件を考えた場合、T-2、C-8、C-3、N-2の温度範囲がC-1、C-6よりも広く、しかもその差が26℃以下の温度で顕著であることは、前者を優勢化させた要因の1つであろうと考察した。また、山形、愛知、大分の各県から採集したN-2、C-8についての菌糸発育温度には地域差のないことを確認し、上記現象は普遍性のあることを裏付けしている。

このほか新潟県では、作付品種が変わらないのにC-1が減り、C-8が増加した原因を、培地上の菌糸伸展、胞子形成数、噴霧接種による罹病型病斑数など増殖や量的な病原性の点でC-8レースにすぐれた菌株が多いから、結果としてこのレースが広く分布するであろうと考察した(岩野ら)4)

●参考文献

  • 4)岩野正敬 北陸農試報告 25(1983)
  • 5)岩野正敬ら 北日本病虫研報 34(1983)
  • 15)八重樫博志ら 北日本病虫研報 22(1972)

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