いもちの素性を知る

第5章 病原菌のレース

6.病原性の変異

レースはどのようにして生まれるのか、或いはレース分布の変動は対応する品種の作付動向によって左右されることなどについて述べてきた。これらのこととともに病原菌には宿主を侵しうる能力が変わる現象、すなわち病原性の変異という問題も存在する。

いもち病菌株を培地に保存し、しばらくしてからレース検定を行うと、前回と別のレースに同定されることがある。この場合、病原性がまったく変わるということではなくて、1~2の判別品種に対する病原性の獲得であったり、或いは逆に失ったりしていて、特定の病原性遺伝子に変異を生じたものと考えられている。保存中の菌株がまったく病原性を失なってしまうことはよく経験することでもある。これはいもち病菌に限ったことではなく、他の植物病原菌においても認められる現象である。

このような病原性の変化は、培地上の菌叢が一時に変化するのではなく、変異細胞に由来する菌叢の小部分が変異して、その部分を増殖して接種に用いた結果異なるレースに判別された結果となるものと考えられる。このため、培地上で長期間培養しておくと起こりやすいこの現象をさける意味で、供試菌を分離したあとは速やかにレース判別品種に接種するよう心掛けているという。

このような病原性の変異が極めて高い頻度でおこるとすれば、レース検定の根幹にもかかわる重要な問題でもある。学者(フィリピン、韓国、日本など)間でも必ずしも見解が一致しているとは限らない面もある。このことからかつては国間の共同研究が行われた経過があった。その結果、低率ではあるが病原性の変異現象はみられている。

わが国でいもち病菌レースの研究に長期間携わってこられた山田昌雄氏18)は、東アジアでの稲作国では、我が国のように品種数は多くとも母本系統が類似していて、遺伝子組成が単純な条件とは事情が異なっており、発生するいもち病菌は遺伝子的に複雑だから、ヘテロな状態で常に病原性が変化しているものが存在するだろうと考察している。そして、課題として、変異と環境条件による病原性の変動が区別できる実験法の確率が必要であると述べている。

●参考文献

  • 18)山田昌雄ら 稲いもち病、養賢堂189~274(1987)

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