いもちの素性を知る

第6章 発生予察

4. 一般的な予察法

1)気象情報を指標とした予察法

予察時点まで(予察等の情報作成時まで)に得られた気象データと、その後の気象予報値の両面から総合的に予察する方法が行われている。しかし、いもち病の発生は単に気象要因のみならず他の要因も複雑に関連しているので、一般には品種作付状況、施肥、イネ生育経過、発病現況(早発の状況)などを総合的に考察して実施している。
近年ではいもち病発生生態の解明が進み、機械類の開発もあって、侵入の場面にスポットを当てた葉上の結露状況の観測、微細気象測定などから全般発生や急増期の予測も行われている。

(1)気象要因と発病の回帰式利用による予察

岩手県農試で古い育苗様式の頃(保温折衷苗代、畑苗代)に作成、利用した予察法を参考までに述べてみる5)

ア 穂いもち予察のねらい

穂いもち防除は予防散布が基本であり、発病後散布では間に合わない。このために穂いもちの伝染源である葉いもち後期発生(出穂期に近いころ)の程度に重点をおいた予察を行う。

Z=-0.4x+6.67y+20.06 r=0.960*** n=13

ただし、 x;7月全期の日照時数
y;肥料指数(1937~1939年=10)
Z:発生面積(単位100ha)

上記により穂ばらみ期の葉いもちを予測し、穂いもち予察式として利用する。xy値が平年と著しく開きのある場合は同式を対数曲線とした。

LogZ=-0.0031x+0.1255y+0.4256

この場合の方が的中度が高い。

しかし、その後肥料状況が変化し、年次変動が少なくなったので、本式の利用場面は少なくなった。

以上のほかに気象データから関連の強い因子をとらえて次のように予察している。

イ 苗代のいもち
気象条件; 半旬平均気温が15℃を超えると、被害わらに分生胞子の形成が始まり、夜間最低気温が10℃以上あれば、胞子侵入が可能である。したがって苗代期間の4月下旬~5月の気温が高く、多湿の年は発病が早く、程度も高い。
耕種条件; 畑苗代でビニール除覆がおくれる場合、苗代日数が長いとき多発する。
その他の条件; わらの堆積場所が苗代に近いときに多発する。
ウ 本田の葉いもち
気象条件; 5月の乾燥、7月の多雨少照が要因となる。5月の乾燥は乾土効果とみる。葉いもち発生初期の気温と後期発生量の関係は、6月下旬~7月上旬における日別平均気温(盛岡)から19℃を差引いた温度の積算T=Σ(tx-19) (tx;日別平均気温、起点日6月21日)が、多発年では6月~7月上旬に急上昇、少発年は水平かゆるやかである。
地域の予想では、7月気温平年並~県北、北部沿岸部、その他山間部で多発。7月やや低温多湿で全県発生。7月低温多湿で平坦部多発の傾向を有する。
耕種条件; チッソ施肥量、移植時期、品種をチェックする。
生育状況; 草丈、茎数の平年比較を重視する。葉色、繁茂状況も経験的に考慮する。
補助的諸条件; 初発生の早晩、まん延増加曲線、ズリコミの多少、病斑型の推移等を考慮する。

以上説明が長くなったが、いもち病発生と相関の高い要因を選んで回帰式を求めて予察式を導入した一例を示した。品種、栽培法等が変化しているとき、いつまでもこの予察式が適用できるとは思わない。その時期ごとに新たな要因を摘出し、さらに精度の高い重回帰式を用いるなどして算出し、時代の要請にこたえるべきであろう。

古い時代には東北地方をはじめ全国各地では、この気象要因との関係で予察式を導入した報告は多い。

比較的近年になっては、以下に示すような業績が北日本病害虫研究会で発表されている。

千葉末作ら(青森農試); 葉いもち病斑数、伝染速度に影響を及ぼす要因と重回帰分析1)
太田恵二ら(青森農試); 葉鞘検定法におけるいもち病菌の伸展度に及ぼす気象の影響の統計的解析17)
太田恵二ら(青森農試); 葉鞘検定法におけるいもち病菌の伸展度に及ぼす気象の影響の統計的解析(2)18)
高橋富士男ら(宮城防疫所); 宮城県における最近のイネいもち病の発生要因について21)

これら諸報告の概要にふれてみる。千葉末作氏らの詳細な検討内容は次のようである。

気象要因と生物要因(葉鞘検定による伸展度)のいもち病菌胞子の付着、発芽、侵入、進展、に対する影響度合いを数量化し、その適合性を重回帰分析で検討した。

葉いもち病斑数、伝染速度は変換前より変換後変数を用いたとき決定係数が大となる。

説明変数間では発病指数量、発病時病斑数が他の変数よりも重要。伝染速度に対する重回帰式の適合度も検討、コンペルツ式が高いという。

太田恵二氏らは葉鞘検定法による菌の進展度に対する影響を1973~’83にふ系69号を用いて検討した。農試場内の気象観測データから重回帰分析でみると、伸展度、気象要因の重相関係数は、日照時間>平均気温。複合気象条件では平均気温×日照時間/平均風速が最も大きい。

また、菌の伸展度(イネ抵抗力)はある期間の気象環境下で経過したイネ抵抗力が、その後ある期間の気象経過でどのように影響したかを知ろうとして、伸展度、気象要素をもとに重回帰分析を行っている。

高橋富士男氏らは、1982年以降10か年のデータから葉いもち全般発生期が早い場合に多発すること、とくに7月3半旬以前に出現すると多発するとしている。

穂いもちの増加割合=穂いもちの発生面積/葉いもち発生面積yと出穂期前後10日(21日間)の気象指数xの関係をみると、y=-0.008+0.019x(r=0.895)の式が得られるとしている。この場合の気象指数とは、仙台管区気象台の平均気温、降水量、日照時間を用い、日別気象指数として平均気温26℃以上、20~25℃、20℃以下に3区分し、この時の降水量1mm以上+日照時間1時間以下で指数を3、5、3とし、降水量1mm以上で2、3、2、日照時間1時間以下で、1、2、1の各指数を与えて検討している。

今後の検討課題としては、使用する気象要素や指数の設定検討、稲体感受性も考慮にいれた気象指数の設定が望ましいと述べている。

(2)気象要因利用による全般発生開始期、急増期の予察

小林次郎氏は秋田農試で1972年から’82年までの期間の研究で次のことを明らかにした10),11)

  1. 本田初期の葉いもちの2日ごとの病斑数の増加曲線は、明瞭な急増期と漸増期が認められる。この現象を「波状発生」と呼ぶ。急増期には病斑の分布拡大が著しい。
  2. 葉いもちの伝染過程には、全般発生開始期(病斑密度、発生時期に関係なく、一つの地域内のほとんどの水田で発病している状態)とその後の急増期がある。これはその年の本病発生期の極く初期である。
  3. 全般発生開始期、急増期は予察と防除に重要であるから、気象条件からなる「全般発生開始期、急増期」の予測基準を作成した。
  4. これによってあらわされる感染好適気象は、「当日午後または翌日午前が曇雨天で夜は無風~微風、無降雨で結露があるか微風で最低気温が16℃以上」と結論した。
  5. このための気象予測基準は、一般気象法は秋田気象台地上観測値を、微気象法は秋田農試圃場観測値を利用した。

そして日射量、降水量、風速、気温、結露等について詳細な基準値を設けて使用した。例えば、葉いもち全般発生開始期、急増期の予測には19~8時、無降雨または継続的降雨が1mm/時間以下、ただし一時期強雨は4.0mm/時間以下とする。また、風速では21~6時における草高部位10cm上の平均風速が0.5m/秒未満とする等である。

さらに水田における結露の条件について細かい基準値を設け、結露のない条件、結露する条件を規定した。

このようにして田植後約1か月から出穂20日前頃までの期間に、予測基準を満たした日から潜伏期間を経て、葉いもちの全般発生または急増がみられるのであると述べている。

(3)アメダス資料を利用する葉いもち予察

この予察法は、気象庁が1976年に完成した地域気象観測システム(AMeDAS)で毎日連続的に測定される雨量、気温、日照時間、風速の4つの気象条件を組合わせて、葉いもち感染に好適な葉面湿潤(濡れ)時間の出現を推定して、その好適条件(いもち病菌のイネ体内侵入に適した条件)の出現した時期と回数に基づいて、それから全般発生開始期、流行の開始期、発生地域の予測をコンピューター利用の電算化システムとして開発されたものである。

例えば東北地方においては、葉いもち発生の早晩はイネが若いか、成熟に近づいて珪酸蓄積も進み、葉が固定化した時期かに関連して、以後の発生面積、程度にも関係する。したがって、前記の好適条件の早晩は、全般発生時期、流行開始期、発生地域の予測とともに、発生程度(甚、多、中、少に分ける)の予想も可能とし、また葉いもち発生の早晩(上位葉への進展にも関係する)からは、穂いもち発生の多少もある程度読みとれる可能性を持っている(穂いもち感染時の葉いもち発生実態調査、イネ体質、品種作付状況、気象予報から総合判断して予測することは当然であるが)。

ア 好適条件とはどのような基準か
  1. 午後4時~翌朝6時の間に1時間でも降雨があれば、湿潤時間はその1時間前から翌朝7時まで継続したとする。但し、日照時間と風速については4つの制限条件をつける(詳細は省略)。
  2. 1時間4mm以上の降雨、3mm以上で2時間以上連続するときは、降雨直前から9時間は病原菌の侵入・感染には無効である。
  3. b項同様の降雨のとき、その降雨の直前からさかのぼって9時間以内にはじまった湿潤時間も無効とする。3mmの雨が2時間以上続くときは、はじめの3mmの時間からさかのぼった9時間とする。
  4. 午前7時以降からはじまる湿潤時間は無効とする。
  5. 湿潤時間中の1時間ごとの温度の平均値をその湿潤時間の温度とし、別に作表した温度-湿潤時間関係表からその温度が時間以上であれば、感染好適な葉面湿潤が出現したものとする。
  6. 感染好適葉面湿潤時間は午後4時を起点とし、それ以前は入れない。また、午前7時からはじまり、午後4時以降まで及ぶときは好適条件の基準に達したところで一たん切る。その後あらためて午後4時から好適条件出現の有無を測る。
  7. 好適条件が現れても、出現した日を含めてその日以前の5日間の日平均気温の平均値20℃未満、25℃以上の時は無効。
  8. 推定基準の適用は、移植盛期20日後の6月10日からはじまり、幼穂形成期頃の7月15日までとする(東北地方)。
  9. 好適条件がこの適用期限内ではじめて出現しても、一両日の間に3地点以上に現れないときは広域的初発はないものとする。
イ 葉いもち予察の要領
  1. 好適条件が適用期間に始めて出現した日から7日めに広域的発生がある。好適条件の出現が多いほど発生範囲が広いとする。
  2. 好適条件出現後に強い低温が訪れない限り、2週間後には流行、発病増加がはじまるものと予測する。
  3. 好適条件が最初に引き続き1週間以内にさらに出現したときは、その日数(回数)が多いほど流行開始時の病斑密度が高い。
  4. 好適条件の出現がない場合や、ごく少数地点に限られる場合は広域的初発の可能性は低い。

以上に関して岩手県における好適条件の早期出現(多発生)、遅発(少発生)年の6~7月の状況を参考までに示した。

図1. 1978年岩手県における感染好適葉面湿潤時間の出現(岩手県資料 1978)

図2. 1983年岩手県における感染好適葉面湿潤時間の出現(岩手県資料 1983)

図3. 葉いもち感染好適条件の出現(BASTAM)平成7年(岩手県植物防疫年俸 1996)

●参考文献

  • 1)干葉末作ら 北日本病虫研報 32(1981)
  • 5)岩手県 植物防疫20年のあゆみ 29~30(1972)
  • 10)小林次郎 秋田農試研究報告 26(1984)
  • 11)小林次郎 いもち病~研究と実際場面から~武田薬品、日本イーラーイリリー、No.15(1986)
  • 17)太田恵二ら 北日本病虫研報 35(1984)
  • 18)太田恵二ら 北日本病虫研報 36(1985)
  • 21)高橋富士男ら 北日本病虫研報 43(1992)

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