いもちの素性を知る

第6章 発生予察

3)イネのいもち病感受性を指標とした予察法

(1)葉鞘接種法を利用する予察

この接種法を予察に利用することを提案したのは高橋喜夫氏である22)

北海道農試在職中に研究された葉鞘内への胞子液注入接種法により、イネ体のいもち抵抗性を知れることから、これを発生予察に利用しようとしたものである。

この葉鞘接種(検定)法の採用に当っては、供用する胞子形成法、接種に用いる葉鞘標本の採取法、胞子注入法、細胞内の菌糸伸展度調査法などこの検定処方の統一を図る必要があったから、当時の農業技術研究所(東京都北区西ヶ原)に各県の予察担当者(各県とも農試が担当していた)を召集して研修会を開催、高橋先生から直接指導を受けたものだった。

当時の発生予察事業実施要綱(要領)から葉鞘検定法についての記載を抜粋してみると次のとおりである。

葉鞘検定法

予察圃場のイネを用い、その地方の葉いもちの初発生と思われる10日前から出穂期まで行う。調査は7日おきとし、毎回最長桿の3番目の葉鞘15cm(穂ばらみ期以降は2番目の葉鞘)を5本ずつとり、48時間以内にできた胞子の浮遊液(1白金耳滴5~7個の胞子濃度)を作り、これをスポイトで葉鞘内に注入し、シャーレー温室内に収め、24~25℃に40時間保った後取り出し、菌が葉鞘細胞を侵した度合い(伸展度)によって判定する。この場合、いもち菌はその地方の菌型および全国共通株を用いる。また、菌の伸展度と付近の発病との関係を求めておいて、イネの強弱程度を判定する。

私がこの検定法で苦労した点は、胞子形成についてであった。当時培養法については常法がなかったが、高橋氏培地、里見氏培地が示されたので、それにならった。しかし言われたほどの形成量がなく、また、麦粒培地も使用したが同様の結果だったことを記憶している。

この検定法に対して本格的に取組んだのは青森農試千葉末作氏であった2)。その結果は「青森県地方におけるイネいもち病発生程度と病勢伸展予測式;青森農試研報、27(1983)に記述されている。

また、宮城農試の斉伴男氏9)は、この検定に里見氏培地、高橋氏培地で得た胞子を供用したが病原性の差異がみられることから、両培地の培養温度、日数をかえて胞子形成量、発芽と病原性等の検討を行った。その結果、

  1. 里見培地の27℃の培養胞子は、高橋培地のそれより病原性が低い。それは病原性強の菌株、イネ抵抗性が低下したとき、抵抗性弱品種で明瞭になる。
  2. 里見培地では24℃の培養胞子は27℃のそれよりも病原性が強い。
  3. 培養日数13日以内ではその日数による病原性には差異は認められない。この傾向は両培地とも同様である。
  4. 高橋培地に濾紙培養法を用いると、胞子形成は多くなる。この場合胞子発芽率、病原性は常法と変わりない。
  5. 里見培地は培養操作や胞子形成量の点ですぐれた培地であるから、これを利用するときは24℃で培養した方がよい。
  6. 高橋培地は病原性で優秀な性能を持つが、培養操作や胞子形成量の点で難点がある。しかしこれに濾紙培養法を用いればこの欠点を解消し、すぐれた性能を持つ培地として活用できると述べた。

その点ではこの葉鞘接種法は暖地では一般に伸展度が低く予察に利用しにくいこと、評価値が供試菌の病原性、病原力、試料によって変動しやすく、検定に多くの労力を要するなどの問題が指摘された。

このような諸点から本法が全国各地で広く採用され、予察情報の作成に貢献したという事例は少なかったように思われる。

(2)イネ成分含積率による予察
ア 葉鞘でんぷん含有率による葉いもちの予察

一般にイネの炭水化物含有率が高い場合には、いもち病に対する抵抗力が強い。このことから堀真雄氏4)は、主稈の完全抽出した上位3葉鞘を切り取り、縦に半切してアルコールで固定、脱色したのちヨードヨードカリ液で染色し、でんぷん反応を示した部分の長さ(でんぷんの蓄積した部分)と葉鞘長との比率を指標として、葉いもち感受性を推定した。すなわち、この比率が大きい場合は、でんぷん蓄積量が多いことから、イネの抵抗力が強く、発生しにくいと予測するものである。

それによると、でんぷん長率と葉いもち病葉率との間には相関が認められ、でんぷん長率の著しく低下した7~10日後に葉いもちが急増してくる。中生旭1号を供試した山口県の結果によると、分けつ盛期のでんぷん長率が10%以下の年は、葉いもちが多発、11~30%の年は少~中発、31%以上の年は少発となり、本法が予察に利用できるとした。このことに関する葉いもち病葉率の推定表を表3に示した。

吉野嶺一氏23)は北陸農試において、施肥量および遮光処理の異なるイネについて、各種体質といもち発生程度の相違について検討しているなかで、葉鞘でんぷん蓄積率についても調査しているのでその概略について述べる。

でんぷん蓄積率は品種、育成時期によって異なるとともに、施肥量、植付月日など栽培条件で変動し、さらに毎日の天候の変化に対応して変動し、前日の日射量が少ないと葉鞘でんぷん蓄積率も減少した。調査には、15~20本の葉鞘を採取、調査を必要とする。葉鞘でんぷん蓄積率は同一地方での同一品種圃場間のイネ体質の比較診断を容易に行うことができる。しかし北陸農試周辺では予察のための利用可能時期は6月中~下旬に局限され、6月中の葉鞘でんぷん蓄積率の最小値が60%以上の年は少発生、20%程度の年は多発生の可能性があると述べている。

イ 止葉の珪化度による穂いもちの予察

葉の珪酸含有率が高いほど、葉いもちの発生が少ないことはよく知られているところである。また、止葉の珪化度とくびいもち発生との間には高い相関があることから、堀真雄氏はこれを利用してくびいもち発生予察方法を考案した。完全展開後10日めの止葉中央部を5×10mm切片とし、アルコールで脱色、石炭酸で透明化したのち、顕微鏡で珪化機動細胞数を数え、20枚の平均値を珪化度として表現する。それによると、品種中生旭1号の場合くびいもち発病率(%)と止葉珪化度(珪化度調査8月31日)との相関は図4、表4~5に示したようにy=55.2-22.1 logxの関係が成り立つとしている(y=くびいもち発病率、x=止葉珪化度)。この場合は8月31日の珪化度調査であるので、これをそのまま東北地方にあてはめるのには時期的に問題があるし、また、止葉が完全展開10日後の標本調査であるから、予察に利用するのには間に合わない問題でもある。従って東北地方の予察に利用できる体質(抵抗の強弱)の調査法は別に検討する必要がある。

ウ 窒素・珪酸含有率による葉・穂いもちの予察

窒素含有量が高いイネはいもち病に対して罹病的、珪酸含有量が高いイネは抵抗的であることは一般に知られているところである。

このことから成分含有量を指標とした予察法が福島農試の小林裕氏12)によって提案された。

それによると葉いもち予察の可能性については、可溶性窒素量、珪酸/可溶性窒素量含有比率比に高い相関関係が認められる。葉いもち最盛期の病株率との相関についてみると、7月1日(初発前)とSiO2/S-Nでは-0.93、7月7日(発生直前)では-0.92、7月15日(発生初期)では-0.92、7月22日(まん延期)では-0.90、7月28日(発生最盛期)-0.90といった状態である(いずれも農林21号普通植区)。このことは経時的に見て珪酸の含有が増加してくるのに対し、可溶性窒素含量が減少し、その比率がきわめて密接であることを意味している。

次に止葉内成分測定によるくびいもち発生予察の可能性について述べるがその概要は次のとおりである。

止葉と次葉の葉耳間長が10cmになったとき(出穂約1週間前)の止葉内成分、とくに可溶性窒素及び珪酸/可溶性窒素比と、くびいもち発病率の間には高い相関があるので、止葉内成分の測定はよい判別法であるという。この時の相関係数をみると、普通植区農林21号では-0.99、-0.99、-0.99(1959、’60年)で、いずれも密接な関係にあることを示している。実数では1959~’61年普通肥農林1号でみると、SiO2/S-N値は6.56、71.8、68.8である(いずれも出穂7~8日前、6~7日前、10日前に該当)。

しかし小林氏はこの方法を直ちにくびいもち予察法に採用するには次の問題点があることを指摘している。それは出穂約1週間前の時期に止葉内成分を測定して、くびいもち予察に利用するには、防除適期までの期間が短い欠点がある。また、くびいもち発生に関与する要因は複雑であるので、止葉内成分とくびいもち発生程度との相関の状態は、年による偏差が大であって、予察基準に不向きな面があるということである。今後研究を重ねて検討する必要があると結んでいる。

現在では止葉~3葉の上位葉に形成した病斑数、形態を重視して、穂いもちとの関係を予察する方向にある。これでは葉分析のような操作も不必要であるし、出穂期のかなり以前に直接圃場を調査してまとめれば、防除時期にも間に合うし、また病斑の出現は、宿主の抵抗の強弱、病原力、環境条件の総合結果であるとの見解にたてば、合理的な調査法と言うことができる。

表3. 葉鞘蓄積澱粉長率による葉いもち病葉率の推定表(堀1965)

表4. 穂孕期における止葉珪化度および1株当り総病葉数による首いもち病発病率の推定表(堀1965)

表5. 予察要因のちがいによる首いもち病発生予察の的中率(堀1965)

図4. 止葉珪化度と穂くびいもち発病率との関係(堀1965)

●参考文献

  • 2)千葉末作 青森農試研究報告 27(1983)
  • 4)堀貞雄 日植病報31、記念号2(1965)
  • 9)金章圭ら 日植病報 41.5(1975)
  • 12)小林裕 病害虫発生予察特別報告 15(1963)
  • 22)高橋喜男 稲熱病発生予察のための2・3の基礎資料、植物防疫課(1957)
  • 23)吉野嶺一 北陸病虫研報 21(1973)

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