いもちの素性を知る

第7章 いもち病の防除

3. 地力の増強

堆厩肥や稲わらの施用は土壌の物理、化学性を改善し、珪酸吸収率を高めていもち病の発生を抑える効果がある。しかし、それが多すぎると窒素供給量を高めて逆に発病を増加させることもある。現在では目にすることも少ないが、一筆の水田内で葉色が濃く生育量のまさる地点が散在することがある。そこは堆肥を長期間置いた場所であり、窒素量が他よりも多い場所である。そこではいもち病の発生が早く、その量も多いのが通例だ。

そのような特殊例は別としても、一般に堆厩肥はその過用は避けながら土壌に適合した適量を連年施用して、窒素、珪酸肥料のバランスのとれた施肥によりいもち病発生防止に役立てていくことが必要である。地力を高める唯一の手段は堆厩肥等の有機物施用が基本である。堆厩肥の施用は単に肥沃度、地力窒素など養分の供給だけでなく、根の健全化、養分の総合供給機能の強化、生理機能拡大等によって低温抵抗性、緩衝能が向上していることも重要な効果として評価しなければならない(表7)。

珪カルは珪酸自体によるいもち病菌の侵入と伸長抑制の効果を持つとともに、窒素吸収を低下させて発病を抑制する効果の2面を有している。したがって基肥にこれを用いてイネのいもち抵抗力を高める効果を期待するものである。

橋本晃氏ら5)は福島農試で耕種的手段と薬剤散布の組合せによる防除効果の関係を知るために、珪酸石灰(珪カル)の施用、窒素肥料の減量と薬剤散布を総合的に組合せた処理でいもち病発生量との相互関係を検討した。

因子とした内容は、耕種的処理として窒素多肥区(基肥8kg、追肥3kg/10a)、少肥区(同4kg,1kg)を設け、さらに珪カル施用区(200kg/10a)、無施用区を設けた。薬剤散布として葉いもち防除に散布(A)、穂いもち防除に(B)を設け、散布(A)は葉いもち初発期と蔓延期の2回散布、散布(B)は穂孕期、穂揃期の2回散布とした。さらに日照不足に伴ういもち多発現象からこれに遮光処理を加え、寒冷紗による遮光区と無遮光区を設け、6月下旬(6月18日~26日)と出穂2週間後にあたる8月22日~9月1日の各10日間処理した。

この試験で得られた資料は2k型直交表実験の解析プログラムにより分析した。

それらのうち穂いもちについての主効果別の平均値の経時変化と、2因子交互作用について図示(4、5)したが、珪カル施用に関係した点だけをみると次のような結果となる。

  1. 珪カル施用区は無処理区の病穂率平均24.1%に対して14.7%であり、発病抑制効果は認められる。
  2. 交互作用では珪カル施用による穂いもち発病の抑制程度は遮光処理区で高い。したがって多発しやすい環境下では珪カル効用効果が高いと言える。
  3. また、穂いもち対象の薬剤散布では、珪カル無施用区でその効果が高い。

以上珪酸のいもち病防除効果についてふれたが、その珪酸が防除に有効に作用するためのレベルは、穂満期の葉身で珪酸含有率8%以上、穂で7%以上であるともいわれている。

珪酸は灌がい水中に含まれ天然供給されるが近年減少しているという気になるデータがある。すでに紹介したように、岩手県内の主要ダムから灌がい用に使用されている河川の珪酸含量は従前にくらべてすべて減少していることが明らかになっている。

御所、山王海、田瀬、豊沢、湯田、石淵、岩洞ダムから引用している灌がい水の珪酸含量(各採水地点の分析値平均)は、昭和54~57年の調査値14.4ppmに対して昭和63~平成3年では9.9ppmとなり、大幅に減少しているのである。

このような実態の中で、灌がい水中の珪酸濃度がとくに低い水系として田瀬ダム水系、和賀川・胆沢ダム水系、江刺市周辺河川水系をあげて、これらの地帯では珪カル10日当り150kg程度の連用が必要であると指摘している13)

上記の実態に加えて、農業従事者の老齢化により、重量のある珪カル肥料の取扱いが困難となり、水田への施用が減少しつつあるという現状も無視できない。近年の圃場抵抗性弱品種の作付増加をみるとき、珪酸肥料の多投こそが必要であるが、実態は逆方向に進行しつつあるのは寒心に耐えない。

深耕は多収水田の基礎条件といわれ、かつて米作日本一の競励会では農家の大半が深耕を行っていた実績があった。

この深耕といもち病発生の関係を検討した試験例は少ないが、東北地方では福島農試のいもち病指定試験で中川九一氏による研究実績がある19)

その概略は次のようであった。

  1. 試験区の構成は、浅耕区(耕深15cm、堆肥112.6kg/a)、深耕1区(同30cm、112.5kg)、深耕2区(同30cm、225kg)とし、その各々に普通肥と多肥区(化学肥料50%増)を設け、品種農林21号とササシグレを供試した。
  2. いもち病の発生は深耕1~2年では処理間の差が不明だが、3年目以降に顕著な傾向がみられる。
  3. 葉いもちは浅耕区で多発し、深耕区より発病率が高い。病斑型も伸展性が多い。多肥区は普通肥区より多発した。
  4. 以上の関係は3ヵ年の試験期間を通じてほぼ同様だが例外として深耕区(ササシグレ)でやや多発したケースもある(1ヵ年のみ)。
  5. くびいもちは葉いもち発生と平行して浅耕区で多い。これはササシグレで顕著である。
  6. 節いもちは浅深区で多発したのは3ヵ年うち1年のみ(1959年、ササシグレ)であり、他の2ヵ年では区間の傾向が一定でなかった等の結果であった。

表7. 低温年における堆厩肥施用の効果

図4. 穂いもちの主効果別平均値の経時変化(試験1)(橋本晃ら)

図5. 穂いもちにおける二因子交互作用(試験1)(同上)

一般に収量性を検討するとき、土壌が肥沃で作土も下層土も地力差のない圃場では多収を望めるが、一般的には深耕によって肥沃度の劣る下層土が作土と混入して、初期生育が抑制されるので、これに伴って葉いもちの発生も抑制的に影響するとみられている。さらにこのことから穂いもち発生にも影響すると考えられる。

土壌条件によってその傾向は一様でないから、地域ごとに試験して結論されるのが筋であろう。

●参考文献

  • 5)橋本晃ら 福島農試研究報告 14(1975)
  • 10)岩手県 立農業試験場 岩手農試創立50周年記急成績彙集(1951)
  • 13)岩手県 平成8年度、稲作指導指針(1996)
  • 19)中川九一 指定試験〈病害虫〉2.農林水産技術会議、福島農試(1962)

PAGE TOP