いもちの素性を知る

第7章 いもち病の防除

2)主ないもち防除剤の性質、使用法など

「平成8年度病害虫防除基準;岩手県」に登録されているいもち病防除剤をあけると概略は次のとおりである。

1. 苗いもち; 播種前~育苗期全般…塩水選、種子消毒、覆土による籾の露出防止、伝染原の整理。茎葉散布はラブサイド、ビーム、カスラブサイド各水和、ゾル、フロアブル剤、1000倍、20mL/箱散布
2. 葉いもち; 移植前日~当日…ビームガゼット粒55,50g/箱施用、6月下旬(初発約10日前)・…水面施用、オリゼメート粒、コラトップ粒5.3kg/10a施用、初発から状況に応じて1~数回・…カスミン、ラブサイド、ブラエス8、ヒノザン、キタジンP、フジワン、ビーム、ブラシン、ノンブラス、フジワンブラエス、ヒノラブサイド35各粒剤と上記液、乳、水和、ゾル剤1,000倍液散布、水面施用オリゼメート、コラトップ粒剤3kg/10a施用。
3. 穂いもち; 出穂20~10日前…水面施用、フジワン粒4kg、キタジンP粒5kg/10a。出穂20~5日前水面施用…コラトップ粒5、フジトップ粒各4kg/10a。出穂直前、穂満期、穂揃1週間後茎葉散布は葉いもちに準ずる。

以上は原記載のとおり商品名をあげたが、この主なものはその特性を農薬ハンドブック1994年版(日本植物防疫協会)から紹介する。

〈有機塩素系殺菌剤〉
フサライド剤(商品名ラブサイド)

1970年登録、付着器の稲体侵入能を阻害する作用があり、それはメラニン生合成阻害によることが明らかにされた。予防効果と浸透移行性が認められている。製剤にはフサライド水和50%、80%(ラブサイトエアー)、ゾル剤20%、25%含有等がある。他に紋枯病防除との混合剤が多い。強アルカリ性剤との混用はさけること。

〈有機リン系殺菌剤〉
IBP(キタジンP)

1967年登録、いもち病菌に対しては胞子発芽抑制と菌糸生育阻止作用であり、予防効果と浸透移行性もある。粒剤は水面施用剤として登録、根と葉鞘部から吸収され、施用7~14日後にピークに達する。製剤はIBP粒17%、粉剤2%、3%、粒粉剤3%、乳剤48%がある。

EDDP剤(ヒノザン)

1967年登録、いもち病菌に対しては胞子発芽阻止、菌糸進展阻止、胞子形成阻止作用をもつ。薬剤付着部では稲体によく浸透するが移行性は弱い。ごま葉枯病菌による穂枯れに有効。製剤はEDDP粉1.5%、2.5%、水和剤30%、乳剤30%等があり、他に混合剤も多い。

〈その他の合成殺菌剤〉
プロベナゾール剤(オリゼメート)

1974年登録、いもち病のほか白菜枯病、もみ枯細菌病、きゅうり斑点細菌病など野菜細菌病にも有効なのか特徴。いもち病に対しては水面施用、根部浸漬、土壌混和、土壌かん注の処決で防除効果がみられる作用特性として水中に広く拡散して根部、葉鞘から吸収されて地上部に浸透移行し、いもち病に対し侵入阻止、菌糸生育阻害、病斑拡大阻止、胞子形成阻止、付着器形成阻止、胞子発芽阻止作用を有する。いっぽう本剤は直接的な抗菌作用はほとんど認められない。生化学的実験の結果、処理したイネは無処理区に比較していもち感染時に形成される抗菌物質が多いこと、パーオキシターゼなどいもち病抵抗性に関連する酵素の活性が高まることが報告され、このことから殺菌剤というよりもむしろ対病原菌抵抗性誘導剤といえるものである。したがって、予防的散布が有効であり、効果の持続性が長く、かけ流し、漏水など水田から有効成分が流出しない限り安定した防除効果が得られる。製剤はプロベナゾール粒剤8%、20%剤がある。地上散布(水面施用)は現在のところ8%剤3kg/10aを、航空散布は20%剤1kg/10aをそれぞれ葉いもち初発7~10日前に施用する。その他ではいもち、白菜枯、もみ枯細菌病防除に育苗箱1箱当り20~30g(8%剤)、ピーマン斑点病に定植時5~10g/株、きゅうり斑点細菌病6~7.5g/株定植時、レタス腐敗病、斑点細菌病6~9g/株定植時施用などの使用法がある。

イソプロチオラン剤(フジワン)

1974年登録、散布のほか水面施用法がある。いもち病菌の胞子発芽には影響がなく、付着器形成以後の侵入菌糸進展を阻害する。本剤の作用機作は有機リン殺菌剤と同じリン脂質合成阻害であると考えられる。粒剤は育苗中の低温による根の吸収能低下や蒸散の増加など吸水と蒸散の不均衡によっておこるムレ苗(生理的な急性萎ちょう障害)にも有効である。製剤はイソプロチオラン粉2.5%、粒剤12%、水和剤40%、乳剤40%、30%のほか混合剤がある。

トリシクラゾール剤(ビーム)

1981年登録、培地上での抗菌力はそれほどではないが、稲体への浸透移行性があり、イネのどの部分からも吸収、分布して菌の侵入を防ぐ。本剤の作用機構はメラニン合成阻害と考えられている。予防的に散布すると効果的である。製剤は粉剤1%、粒剤4%は育苗相50~100g/箱施用であるが、移植~発病までの期間が40日を越える場合は75~100g/箱施用する。この時期が極端に長い地域では散布剤で補完する必要がある。水和剤20%、75%、8%(ビームエイトゾル)などがあり、その他紋枯病防除等の混合剤がある。

ピロキロン剤(コラトップ)

1985年登録、いもち病菌のメラニン生合成を阻害し、有害な中間体を蓄積させる作用がある。その結果菌糸の稲体への侵入が阻止され、病斑上の胞子形成も阻害されるという。製剤はピロキロン粒剤2%、5%、10%剤がある。箱育田では2%粒剤を60~80g/箱施用、本田では5%粒剤を3~4kg/10a、1~1.5kg/10aを航空機で散布する。混合剤もある。

フェリムゾン剤(フサライド混合でブラシン)

1991年登録、イネ病害に対し作用性の異なるいもち防除剤との混合剤として適用が認められている。広い抗菌スペクトラムを有し、いもち病に対しては発芽管伸長、付着器形成、菌糸生育、胞子形成を阻害する。フェリムゾン・フサライド水和剤(ブラシン水和剤)は30%、20%含有、1000倍液を散布する。いもち病のほかごま葉枯、穂枯れ、変色米に適用がある。また、20%+15%含有で航空散布に用いられる。

〈抗生物質殺菌剤〉
カスガマイシン剤(カスミン)

1965年登録、微生物化学研究所が奈良春日神社境内の土壌から分離した放射菌Streptomyces Kasugaensisの培養ろ液から発見した抗生物質である。イネ体内へ浸透移行していもち病菌の生育を阻害する作用があり、キャプタン剤と混合してトマト葉かび病にも有効である。作用機構はタンパク生合成阻害、とくにタンパク合成開始阻害と考えられている。アルカリ性農薬との混用はできない。単剤の連用で耐性菌が出現した例がある。製剤はカスガマイシン粉0.2%、0.3%含有、3~4kg/10aを発病直前~初発時に散布する。粒剤は2%含有、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病に播種前使用土壌約5Lに30g/箱、覆土前に同じく15~20g、覆土1L当り15~20gを施用する。液剤2%は播種後覆土前に4~8倍液50mL/箱散布などの処決がある。また、微量散布用カスガマイシン剤(カスミンL)3%、水和剤2%等のほかフサライド混合剤、銅との混合剤(カスミンボルドー、カッパーシン)など多くの混合剤がある。

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