いもちの素性を知る

第7章 いもち病の防除

3)いもち病の発生経過と防除体系

前述の各薬剤を用い、いもち病を効率的に防除するためには、各地域における発生経過を十分に把握し、それに適合した防除体系を策定して、無駄のない効果的な防除の実効をあげるようにしなければならない。これまでに各地域や県ごとの防除体系は数多く示されている。東北地方に関係するものの主なものは次のとおりである。

  1. 山口富夫;いもち病の発生相と薬剤防除体系(稲いもち病 P.328. 1987)
  2. 鈴木穂積;東北地域のいもち病の発生推移と防除体系(いもち病・白葉枯病の新しい防除法 P.18,オリゼメート普及会1981)
  3. 渡部茂;各種剤型、防除方法による体系(模式図)(同上誌P.50)
  4. 武田真一;剤型、防除方法によるいもち病防除体系(模式図)(オリゼメートのあゆみ P.22,明治製菓(株)1995)
  5. 岩手県編集;主ないもち病防除体系(平成8年農業べんり帳P.49,岩手県農業改良普及会1996)
  6. 井上敞;いもち病防除体系(いもち病・白葉枯病の新しい防除法P.18,オリゼメート普及会1981)等である。

これ以外にも県単位や市町村、あるいは農協ごとにそれぞれの発生推移に応じた防除の基本的な体系がつくられている場合がみられる。

いっぽういもち病の発生状態は毎年異なるのみならず、栽培法の変化、管理の手抜きなどによって、これまでとは異なった発生消長をたどるようになってきたことに注意しなければならない。とくに近年はその傾向が強く、気象条件よりも人為的な影響がみられるようになってきた。例えば箱内感染に由来するとみられる本田期の葉いもち早期発生の現象がそれである。

この原因解析は十分に行われているとは思わないが、とにかく6月中旬頃までに本田で早期発生するのは苗からの持込み、補植用苗からの感染という説明がなされている。箱内感染苗は移植時には病斑を形成している発病苗と、病斑を形成していない潜伏苗に分けられるが、ともに本田移植後それが伝染源となって早期にまん延をみるケースがしばしばみられる(1994、1995年)。発生予察関係用語の解説で述べた感染好適条件(おおまかには最低気温15~16℃、夜間の葉のぬれが10時間以上継続している状態をさす)が平年より早く到来する年はそのまま早期の発病、まん延となるから、6月中旬以降(田植約1ヵ月後に相当)の気温、とくに夜間温度=最低気温の推移に注意し、それが例年よりも早く来た場合は早期発生が確実だから、したがって葉いもち多発生、また、このことにより穂いもちの被害多を覚悟しなければならない。参考までに最低気温の平年値を「岩手の気候概要、岩手県気象平年値表」からひろってみると次のようである。

  1. 日別最低気温平滑平均値、15℃~盛岡6月26日、富古7月3日、軽米7月11日、江刺6月19日。16℃~盛岡7月4日、宮古7月11日、軽米7月15日、江刺6月26日。
  2. 半旬別最低気温平年値、盛岡6月6半旬15.7℃、雫石6-6,15.1℃、北上6-4,15.2℃、水沢6-5,15.3℃、千厩6-6,15.4℃、遠野7-1,15.1℃等である。

このことから到達温度の平均値がわかったので、当該年が平年よりも高目に推移しているか否かをこの時期の気象予報から承知するとともに、夜間の風(イネの葉が水滴を保持できるかどうか)と雨に注意すれば個人でも葉いもち初発は予測できる。

さて、岩手県では苗代感染防止のための防除として育苗期に茎葉散布をすすめ、これを防除体系の中に示している。本葉2葉期から7~10日おきに2回程度茎集散布するとし、ラブサイド、ビーム、カスラブサイド水和剤、ゾル、フロアブル名1,000倍液20mL/箱散布がその内容である。防除体系5つのタイプのすべてに追加防除として位置づけられている(表9参照)。しかし実際は散布が行われていないのが実状である。

関係する機関や組織が防除体系を示し、具体的な防除方式を農家に提供する目的は、

  1. 最も防除効果のあがる散布時期、方法、薬剤などを示すこと
  2. 省力的、経済的な防除であること
  3. 環境等への影響に配慮していること
  4. イネ栽培方式、品種、気象経過からみて特に異常発生のない範囲であること、特異的な発生が心配される場合は発生予察情報により的確な防除対応を示すこと等を前提としているものと考えられる。

岩手県が平成8年度稲作指針にかかげた防除体系5つの内容を表に示したが、それぞれ以下の説明が付されているのでそれを記載する。

[体系1.茎葉散布による防除]

6月上旬から取り置き苗を中心に早期発見につとめる。発生があれば防除要否診断の目安により散布する。穂いもち防除は出穂前と穂満期の2回が基本、葉いもち多発、低温等で出穂遅延では穂揃1週間後の追加散布。

[体系2.葉いもち一粒剤水面施用、穂いもち一茎葉散布による防除]

6月5半旬にプロベナゾール粒(オリゼート粒)、またはピロキロン粒の水面施用、取り置き苗の発病時の処置、穂いもち対応は体系1に同じ。

[体系3.葉いもち一粒剤水面施用、穂いもち一粒剤水面施用による防除]

6月5半旬にプロベナゾール粒(オリゼート粒)、またはピロキロン粒の水面施用、穂いもちは出穂25~5日前の粒剤施用、その他は体系1,2に同じ。

[体系4.葉いもち一粒剤育苗箱施用、穂いもち一茎葉散布による防除]

移植直前にトリシクラゾール粒の箱施用。箱施用だけでは葉いもち防除の効果は不十分だから、7月中旬がら発生が目立ったら直ちに茎葉散布を行う。穂いもち防除は体系1に同じ。

[体系5. 葉いもち一粒剤育苗箱施用、穂いもち一粒剤水面施用による防除]

葉いもち防除は体系4に同じ。葉いもちが多発すると、穂いもちの粒剤施用は防除効果が劣る。したがって葉いもち発生に十分注意すること。以上が防除体系ごとに示した内容並びに注意点である。ここでとくに留意したい点は、体系4,5に示された粒剤の箱施用(トリシクラゾール)に伴う効果不足(葉いもちの7月中旬以降の発生)と、このケースでは穂いもちへの粒剤施用は効果が劣るという指摘(体系5)を重視すべきである。

くり返すが現在は「省力」のみが独り歩きして、すべてが「省略」化されている点である。基本技術は手抜きせずに励行しないといけない。各地域ごとに発生消長にあった防除体系の採用を望みたい。

表9. 主ないもち病防除体系

留意事項

*1  本葉2葉期から7~10日おきに2回程度茎葉散布を実施する。また、移植時期が遅れる場合には、移植7~10日前に茎葉散布を行う。
*2  穂植用取り置き苗は発病しやすく、本田発生の伝染源になることが多いので、穂措終了後直ちに泥中に埋没する等して処分する。
*3  発生初期に一斉防除を行う。一般には全般発生開始期の1週間後(急増期)から防除を開始し、状況によっては7~10日毎に追加防除を行う病害虫発生予察情報に注意する。
*4  穂いもち防除は出穂直前と穂揃期の2回が基本だが、葉いもち多発時や、低温等で出穂~登熟期間が長引く場合は穂揃1週間後にも追加防除を実施する。
*5  例年早期から葉いもちが発生する地域では、粒剤施用時期を7日程早める。
*6  7月下旬に本田を巡回し、発生が目立ったら直ちに茎葉散布を行う。
*7  穂いもち対象に粒剤を施用し、その後天候不順等で生育が遅れたところでは、種揃い1週間後に散布を1回追加する。
*8  箱施用だけでは、葉いもち防除効果は不充分なので、7月中旬から本田を巡回し、発生が目立ったら直ちに茎葉散布を行う。

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