いもちの素性を知る

第7章 いもち病の防除

5)オリゼメート粒剤の作用特性と防除の実際

プロベナゾール剤(オリゼメート粒剤)がいもち病防除剤として登録されたのは1974年であり、1975年に発売されてからすでに満20年余が経過した。その間年ごとに使用量がふえ、とくに葉いもち多発生のたびにその効果が評価され、その翌年には必ず使用量が急増するというパターンであった。

近年のいもち病研究では、直接の被害部である穂いもちの発生防止のためには、その伝染源である葉いもちの発生を可能な限り防除することが不可欠の要素であると強調され、現場でもこれに対応して、オリゼメート粒剤の水面施用による葉いもちの完壁な防除を土台にして、これに航空散布による穂いもち防除の体系で、またごく一部では地上散布(液剤、粒剤などの散布)と組み合わせて実施している状況である。

このようにオリゼメート粒剤の施用は、一般稲作管理技術として定着した感がある。しかし、中山間地帯の一部では無施用による多発事例も少なくない現状から、さらに被害防止の努力が必要である。本剤の使用に際して、剤の特性や使用方法等について述べてみたい。

(1)オリゼメートの作用機作

多くの殺菌剤がいもち病防除に使用されている現在、各剤ともその殺菌作用はほぼ明らかになっている。分生胞子の発芽、発芽管の伸長、付着器形成、宿主への侵入までの抑制作用(予防効果)や、組織侵入後の菌糸伸長、分生子梗、胞子形成の阻止作用(治療効果)が解明されており、これにより各単剤ごとのこの作用を補完するために、作用性の異なるものが混合(混合剤)されて使用されている。

オリゼメート粒剤の作用点はこのような類別では説明がつかない剤であり、これらとは違った作用機作でいもち病防除効果を発揮する。

ア 直接のいもち抗菌作用はない

前述のようにいもち防除剤は、分生胞子の発芽から侵入、菌糸伸長、胞子形成に至る一連の菌行動のいずれかに対して抗菌作用を示すものであるが、オリゼメート粒剤はこれらとは違った作用をもつものである。したがってこの比較では直接的な抗菌作用はないと言ってもよい。

イ 本剤の効果はどう発揮されるか

オリゼメート粒剤はいもち病に対して直接の抗菌作用は持っていないが、今日までの知見から以下のメカニズムで防除作用が発現されると考えられている。

イネの根から吸収されてのち、イネに抵抗性を付与して、いもちを防除するものである。まず吸収したイネでは、いもち菌の感染を受けると、(1)、殺菌作用のあるスーパーオキシドが放出される。(2)、抗菌物質が産出される。(3)、宿主細胞を固くするリグニンが形成され、いもち菌菌糸の伸長まん延を防止するの3つの作用が働き、イネがいもち感染によってそのシグナルを増幅させて、イネ自体が抵抗性を発現させるためであると考えられている。従って本剤によって、イネ自体にいもち菌の体内まん延を防止する抵抗力を与えることで、いもち病を防除するものと理解される。

以上から本剤は抵抗性誘導型殺菌剤と言うことができる。この作用が他剤と違う点である。

(2)使用法と使用上の注意

現在東北地方のオリゼメート粒剤の使用概略は、葉いもち初発約7~10日前(或は5日前)を基準とし、10アール3kgを湛水のまま散布して、しばらくは湛水の状態(出来うれば4~5日)を保つようにする。このとき田面を露出させたり、水を切らしたりしないこと、また、落水、かけ流しはしないこと。このことから砂質土で水持ちの悪い水田では、本剤の効果が十分に発揮されないことがあるから注意する等である。これは根からの薬剤吸収を阻害することによるものである。

本剤は予防的に散布した場合にとくにその効力を出す。葉いもち防除のための使用適期は、初発7~10日前がよいとされているが、この初発生期は毎年同じではないので、各県の発生予察情報に注意して、その時期を失しないようにしなければならない。

例年の施用時期を暦日で見ると、宮城県では6月15日~20日、岩手県で6月20日~25日であるから、他県もほぼこの項とみて差支えない。当然ながら東北南部は初発生が早く、北部は遅いので、福島県と青森県では施用時期がその分異なってくる。すでに述べたように、直接の減収と品質低下防止のための穂いもち防除であるし、その防除効果を高める手法は葉いもちの発生を防止することが最善の方法であるから、さらにそのためには広域的な一斉散布が不可欠な条件となる。

農協では広域一斉散布の徹底をはかる手段として、前記時期(暦日)に近づいた頃、土曜、日曜日を中心日とした「オリゼメート使用旬(週)間」を設定して、広報活動を展開(農協玄関前の立看板、たれ幕など)している事例がみられる。また、剤の全戸配付の徹底や航空散布の実施(宮城県)による無散布田(農家)の解消などに努力している所もある。

その他「特産米」としての売り込み手段として「散布回数」の削減など今日的問題として派生し、関係者の話題となっている。この手法の基本も、葉いもち防除にオリゼメート粒剤を使用してその発生を完全に防止し、それによって穂いもち防除の散布回数をへらすことを意図しているのである。

図6. ペロベナゾール(オリゼメート粒剤の有効成分)の作用点(オリゼメートのあゆみ1995)

表12. 広域地上散布によるオリゼメート粒剤施用地域のいもち病発生状況

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