いもちの素性を知る

はじめに

稲作の安定生産を脅かす自然要因は沢山あるが、その最大のものは気象、とくに低温や台風等であり、いっぽうでは生物要因としていもち病を筆頭にあげることができる。とくに東北地方では、近年では1993年の例にみられるように、夏の長期にわたる低温によって、登熱の不良、青立ちとなり、さらにいもち病の併発によって著しい減収をみた。東北地方の稲作にとって、冷害といもち病多発による減収をいかに克服するかが永遠の課題であると言ってよい。

低温抵抗性品種の育成は、冷害に打ち勝つための基本課題であることは当然だが、育種関係者の懸命な努力によって、良食味特性も持つ耐冷性品種が誕生しつつあることは喜ばしいことである。今後さらに「ひとめぼれ」クラスをしのぐ良質耐冷性品種の登場に期待しよう。さらに、冷害回避技術も水管理をはじめとして、すでに多くの知見があるので、労働力の問題はあるが今後に期待できる点が多い。

さて、いっぽうのいもち病については、古くから作況を左右するような多発生をくり返してきたが、最近になってとくに激発が相次ぎ、これまで以上にその動向が注目されるようになってきた。現代では前述の労力問題をはじめとして、環境問題、消費者ニーズ、混住化など様々な要因が重なって、むしろ発生を誘発、助長する条件が増えつつあるとも言い得る。そのような「問題児」のいもち病について、発生生態や防除を知って、省力、低コストで発生防止の出来る知恵を得たいと思う。

明治情報通信はこれまで各地方の農業改良普及センターと各地の卸商店技術担当者を主対象として、1994年10月31日まで1か年にわたりその都度必要と思われる情報を提供してきた。そしてこの1年間の経過と反省、要望等から、このあとはある期間にわたって同一テーマを設けて連載し、これを提供してはどうかということになり、その一番手としていもち病をとりあげることになったものである。そのうえで私にその執筆依頼があった。

これまで明治製菓株式会社と北興化学工業株式会社は、いもち病防除剤であるプロベナゾール(商品名オリゼメート)を共同で製造販売し、その普及促進をはかるために、オリゼメート普及会を組織して活動してきた。1987年から北興化学工業(株)に席をおく私にとっては、この依頼を断るわけにはいかないと考えて、この難題に取りくむことにした次第である。

私は1949年9月から1982年3月まで、岩手県農業試験場に勤務し、長いこと稲作病害防除の仕事に携わってきたが、その間いもち病を研究テーマにした経験はなく、わずかに農家に届ける防除技術として、航空機による薬剤散布技術の改善、新薬剤の効果試験、多発生現象の原因解析、新しい育苗方式と発生の関係など若干の仕事を担当してきたに過ぎない。したがって、膨大な量で奥の深いいもち病の生態、防除等の詳細にわたる解説者としては不適任であるけれども、いっぽうでは普及員や農協営農指導員、卸商店技術者の皆さんも世代交代が進んで若返り、また、近年のいもち病の頻発等からこの機会をとらえ、古い話題も新しい研究成果などを紹介して、いもち病という難敵の素顔をのぞき見てみたいと考えた。

約2か年の間(1994年11月から1996年12月まで)隔週ごとに400字詰原稿用紙7~8枚分を「明治情報通信(Meiji Information Express, MIX)としてお届けしてきた。今回この連載が一応終了したのを機会に、これを一冊にまとめるように要望されたので、一部修正加筆のうえそれに対応することにした。

なお、私は1997年3月(平成9年)をもって北興化学工業(株)を退社したが、引き続き明治製菓(株)にお世話になり、この冊子の作成にもかかわることになった。

内容はその大部分が先輩各位が心血を注いで解明された業績の紹介であるが、何卒ご理解を賜りたい。

本書が現場の技術指導を担当されている各位に広く利用されればこのうえない幸いである。

PAGE TOP