水稲研究最前線

伝染源排除による イネいもち病の効率的(減農薬)防除

秋田県農林水産技術センター 農業試験場
深谷富夫先生

深谷富夫先生 プロフィール

  • 1949年生まれ
  • 1974年 秋田県果樹試験場 天王分場
  • 1976年 秋田県農業試験場 栽培部 病虫科
  • 1992年 秋田県病害虫防除所
  • 1996年 秋田県農業試験場 生産環境部
  • 2007年 秋田県農業試験場 生産環境部部長
  • 2009年 秋田県農業試験場 主席研究員
  • 2004年~2007年
    <安全・安心・あきた米プロジェクト>チーム長
  • 2008年~2010年
    <あきたecoらいすプロジェクト>チーム長

はじめに

秋田県では葉いもち防除対策として小林が提案した発生予察技術1)に基づいて薬剤散布時期を決定する等、指導対応を図ってきた(図1-1)。本技術は第2世代期以降の葉いもちの感染防止をねらいとし、年2~3回の茎葉散布剤を行うものである。また、穂いもちについては出穂直前と穂揃期、さらに葉いもち多発年には傾穂期にも薬剤散布する等、予防防除に徹して被害軽減に努め、長年実績をあげてきた(図1-2)。

図1-1 1980~2000年の除体系

図1-2 葉いもち初発の影響は穂いもちまで及ぶ

しかし、1990年代以降、兼業化・高齢化、さらには基盤整備による水田の拡大化に伴って粉剤や液剤の茎葉散布による適期防除が困難となり、葉いもち防除については粒剤や箱施用剤の導入による暦日防除に移行した。また、穂いもち防除については従来の散布体系が導入されたこともあり、総体的に防除経費が割高となった。そのため消費者の減農薬に対するニーズだけではなく、生産者からも農薬の散布回数の削減とともに防除作業の軽労と低コスト技術の確立が求められた(図1-3)。

図1-3 茎葉散布はやめたいものです

そこで、筆者は薬剤散布の大幅な削減防除体系を構築するためには伝染源を効率的に排除することが最も効果的であると考えた。本田発病をもたらす伝染源についてはすでに数多い研究成果が報告されており2)3)4)、参考になる事項が多い。しかし、これら研究成果が報告された時期と現状とでは水稲の生産・管理状況が大きく異なっている。そこで、本県における伝染源の実態を今一度把握するとともに、伝染源対策を設定し、現地において減農薬防除の広域実証試験行い、ほぼ満足する成果が得られた。ここでは、伝染源の所在と伝染源排除による効率的(減農薬)防除体系について報告する(図1-4)。

なお、技術確立のための一連の調査等は本県の農業試験場生産環境部病害虫担当や病害虫防除所職員、さらには病害虫防除員の協力により実施されたものである。

図1-4 育苗ハウスからの持ち込みによるいもち病の被害

Ⅰ 伝染源の所在

1. 稲残渣から本田への伝染

乾燥状態で冬を越した稲わらをマルチとして使用した野菜畑に隣接する水田では早期から葉いもちが発生し、後の防除に苦慮した事例がしばしば認められた(図2-1)。

図2-1

そこで1995年、水田地帯に孤立状態に存在し、稲ワラを使用しているスイカ畑周辺の水田での葉いもちの発生状況を調査した。調査は全般発生開始期の8日後の7月3日に各水田100mの見歩き法5)で行った。当年の全般発生は6月19日の感染好適な気象条件によって開始されたが、一般水田での病斑密度は10a当たり10個以下で少なかった。しかし、スイカ畑周辺では病斑の形状から6月19日に感染した病斑の他に、6月24日頃に感染したと推定される病斑が概ね半数の割合で確認された。これら水田の10a当たりの病斑密度は一般水田よりかなり高く100〜600個と推定され、スイカ畑に近いほど病斑密度が高かった6)。調査地点から約3km 離れた水田に地域予察のために設置している微気象観測装置では6月24日の日照時間のみが微気象法の基準1)からはずれ、その他の日は風速が基準から外れることが多かった。このことから、風が弱く、気温が高く、しかも結露条件が確保されれば伝染が起こり、稲わらマルチした畑からの伝染は10〜20haに及ぶものと考えられた。当地では1回目の伝染が全般発生開始期をもたらす感染時期と重なったが、気象次第では通常よりも1サイクル速い時期に伝染が起こる場合があり、過去にこれが多発の原因になったことを示唆する現象も観察されている。また、稲わらを設置した後、稲わらからのいもち病菌の伝染期間は概ね1か月であることが確認された(図2-2)。

図2-2

秋田県における稲わらの活用場面はスイカ畑やミョウガ畑等特定作目の栽培に限られており、これらからの影響は特定の産地にとまっている。したがって、その年の郡単位あるいは全県規模の全般発生開始期の早晩やこの時期の病斑密度の高低に関与することがないと考えられる。
なお、稲刈り後に水田内に放置された稲残渣内では冬期間にいもち病菌が不活性化して翌年の伝染源にならないとされている3)(図2-3)。筆者も秋田県において同様の現象を確認しており、外で保管した稲わらの活用を推奨している。また、一夏ビニールハウス内に稲残渣を保管すると活性が失われる現象を確認している。

図2-3

2. 育苗施設での苗の発病状況

全般発生開始期調査において、毎年、散在病斑の分布割合より少ないが集中分布を呈する病斑が確認されている。(図3-1)

図3-1 年次別全般発生開始期の病斑分布状況

本現象は稲残渣を活用していない圃場で認められることから、苗からの持ち込みが大きく関与していると考えられた。そこで、育苗施設から発病苗の本田への持ち込みが葉いもちの全般発生の開始をもたらす伝染源になり得るかを明らかにするため、1997年に移植直前の箱苗について県内全域を対象に保菌状況を調査した(図3-2,3)。

図3-2 苗箱におけるいもち病の発生実態

図3-3 育苗施設内での箱苗いもち病発生状況(1997年)

標本は1地点1箱苗とし、各旧市町村当たり2〜3地点、合計200地点の育苗施設から採集した。採集した箱苗はビニールハウス内に格納し、24時間湿潤状態に保ち、伝染源から近接する苗への感染を促した。7〜9日後に二次伝染により発病した病斑を辿り、箱内の伝染源の有無を判定した。その結果、29地点(発病地点率:14.5%)の箱苗で病斑が確認され、しかも、発病苗は特定の地域に偏ることなく、県内一円に分布した7)。県内全域に分布している状況から全県規模の全般発生の開始に箱苗発病、すなわち発病苗の持ち込みが非常に大きく関与していると考えられた。次に、育苗施設内すなわち育苗ハウスでの発病の原因を探るため、1998年に育苗ハウス内外の環境の調査を行った。その結果、35.5%のハウス内外に伝染源になりうるであろう稲わらや籾殻が放置されていることが確認された(図3-4)。また、1998年に特定の地域の48育苗ハウスから箱苗を各2枚回収し発病の有無を調べた。その結果、4カ所で発病が確認された。その内、2カ所の育苗ハウス周辺には籾殻が放置されていたが、他の2カ所の育苗ハウスでは稲残渣の放置はなかった(図3-5)。育苗ハウスからの本田への持ち込みは、調査結果が示すように育苗ハウス内外に放置された稲残渣からの伝染が大きく関与するが、これまでの知見等から種子伝染の可能性も無視できない。したがって減農薬防除のためには、種子消毒とともに育苗ハウス内での防除効果の高い発病阻止技術の確立が必要であると考えられた。

図3-4 イネ残渣の育苗施設内外への放置割合(1998年)

図3-5 特定地域における箱苗発病とイネ残渣放置の関係(1998年)

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