水稲研究最前線

伝染源排除による イネいもち病の効率的(減農薬)防除

秋田県農林水産技術センター 農業試験場
深谷富夫先生

Ⅱ.伝染源排除による効率的(減農薬)防除

1. 伝染源排除による隔離水田でのいもち病発生状況

これまでの調査結果により、稲残渣からの伝染および育苗ハウスからの発病苗の持ち込みを回避すれば、本田でのいもち病の発生を防止できると仮説(図4-1)を立て、一般の水田から約1km離れた、隔離水田(県立金足農業高校実習田)(図4-2)において2001年に仮説の実証を試みた。ペフラゾエ−ト水和剤を種子重量の0.5%湿粉衣したあきたこまちを供試し、育苗期防除としては緑化始期にトリシクラゾール水和剤75の500倍液を育苗箱当たり500mlかん注し、さらにカルプロパミド箱粒剤を育苗箱当たり5gを散布した。さらに第2葉期以降はフサライド粉剤を2回散布する等、徹底防除した苗を試験水田4haに移植した。また、稲残渣処理としては試験水田の近くに堆積されていた籾殻にはビニールシートを覆い、稲わらは前年収穫時にコンバインで水田内にまき散らして雪の下におき、稲体のいもち病菌を死滅させる等、稲残渣からの伝染阻止にも努めた。

その結果、実証水田ではいっさい薬剤散布をしなかったが、葉いもち、穂いもちの発生は全く確認されず(図4-3)、発病苗の持ち込みを回避すれば、本田でのいもち病の発生を防止、すなわち本田防除の必要性がなという仮説が立証された8)

本試験では育苗期防除に多大な労力を費やしたが、発病苗の持ち込みを回避する簡便な育苗期防除方法が確立されれば一般水田においても大幅な減農薬防除は可能になると考えられた。

なお、本防除法ではイネ以外からの伝染について9)は考慮しなかったが、これまでの本田における発生状況等の観察から秋田県においては防除に大きな影響を及ぼすとは考え難い。

図4-1 いもち病菌の伝染のしくみと対応

図4-2 伝染源排除仮説の証明を隔離圃場で行う

図4-3

2. 育苗期の発病を阻止する防除法

育苗施設内は苗の葉いもち感染に好適な条件になりやすい10)。そのためには育苗期間を通じ、常に高い防除効果を維持する技術が必要である。そこで、稲体に速やかに吸収・浸透し、薬害のない薬剤を選定するとともに、施用方法等、作業性がより効率的であることが必要条件となる。これらの条件を備える薬剤を用い、実用性を検討した。

ここでは供試品種に、いもち病圃場抵抗性のやや弱いあきたこまちを供試し、育苗ハウス内で無加温出芽方式で管理した。育苗箱周辺には前年にいもち病が多発したほ場から採収した稲わらを置き、感染を促した。供試薬剤にはジクロシメット顆粒水和剤の2,000 倍液を播種覆土前、あるいは緑化始期に箱当たり500mlをかん注する区を、また、ベノミル水和剤の500 倍液を緑化始期に箱当たり500mlのかん水区を設けた。さらにカルプロパミド箱粒剤については緑化始期に箱当たり10gを均一に散布した。

その結果、いずれも完全に発病を抑えることはできなかったが、防除価90以上となり、薬害の発生はなく、しかも対照としたトリシクラゾ−ル水和剤75の500倍液の箱当たり500ml を緑化始期にかん注した区と同等以上の防除効果の高い傾向がみられた(図5-1)。このことから、本技術は完全ではないが、効率的に持ち込みを回避できる育苗期防除として活用できるものと考えられた。なお、両剤は苗立枯病防除剤と同時施用しても、防除効果の低下や薬害の発生を促すことはない(未発表)。

図5-1 浸透移行性を有する薬剤の育苗期防除効果

3. 伝染源排除による効率的(減農薬)防除体系

一般圃場においては近隣に伝染源(発病田)の存在を想定し、育苗期防除と本田葉いもち防除を組み合わせ、穂いもち防除を削減する体系とした。
これまでの基礎試験を踏まえ、2001~2006年にかけて現地において大規模(30~100ha)な減農薬防除実証試験を計8箇所、延べ340haで実施した。その結果、いずれの年においても本防除体系を導入した圃場では他の圃場に比べ発生が少なく、より効率的な防除体系であることが実証された(図6-1,2)。

図6-1 水沢地区穂いもちの発生殆ど無し

図6-2 水沢地区減農薬防除試験(2003年)

ここではいもち病が多発した2004 年の試験結果について述べる。

効率的(減農薬)防除試験は横手市平鹿町明沢の水田が約30haが集約した地域で実施した。種子消毒は60℃、10分間の温湯消毒法で行い、育苗施設からの持ち込みを最小限に抑えるために、緑化始期にジクロシメット顆粒水和剤1,500倍液を育苗箱当たり500mlかん注した。さらに、周辺ほ場からの伝染阻止のための葉いもち防除としてプロベナゾール(オリゼメート)粒剤を10a当たり2kg11)を6月17日に散布し、穂いもち防除は省略した。なお、稲残渣処理や防除作業等は全て生産者が実施した。

一般ほ場では育苗期防除の実施率が低く、2~3割の生産者がフサライド剤を用いて防除している状態である。しかし、本田葉いもち防除の実施率は高く、プロベナゾール(オリゼメート)粒剤の6月中旬散布か、移植時のプロベナゾール(オリゼメート)の側条施用剤や箱粒剤、またピロキロン、チアニジルの箱粒剤のいずれかで防除している。当年の全般発生開始期は6月27日で例年より5日早かった。その後、7月中旬にかけて感染好適な気象条件が続いたことから葉いもちが多発し、7月中旬以降、ズリコミ症状が確認されるようになり7 月23 日付けで警報が発令された。そこで被害を最小限にくい止めるべく穂いもち防除が追加され、一般水田では出穂期以降3~4回の薬剤が散布された。しかし、いたるところで穂いもち発生による減収が認められた。したがって、本試験の対照としていた一般防除地域でも7月26日には葉いもちの平均発病株率が61%と高く、1/3以上被害を被った罹病穂の平均発病穂率が7.1%であった。一方、伝染源排除のため育苗期防除を徹底した明沢地区では16%の水田で葉いもち病斑が確認されたが、いずれも100m の見歩き調査5)で1 個の葉いもち病斑が発見される程度で、病斑密度は著しく低かった。また、穂いもちについては72%の水田で発生が確認されたが、平均発病穂率が0.2%と極めて低く、1回の穂いもち防除用農薬費に満たない被害(減収)であった(図6-3,4)。

図6-3 葉いもち調査

図6-4 明沢地区減農薬防除試験(2004年)

以上のことから伝染源排除すなわち育苗期防除と本田葉いもち防除体系は従来の予察対応型防除法より効果が高い。したがって、本防除は減農薬防除体制に貢献できると考えられた。

なお、本減農薬防除体系による穂いもち削減試験において、育苗期防除剤にカルプロパミド箱粒剤を緑化始期に箱当たり10g 散布12)、また、ベノミル水和剤500倍液を箱当たり500mlを緑化始期にかん注した場合でも同様の結果が得られた。

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