水稲研究最前線

植物病原菌の薬剤耐性菌について考えよう

独立行政法人農業環境技術研究所
石井英夫先生

3.耐性菌問題が続発するわけは?

1)薬剤の側から見た原因

その後、日本でもそして海外でも、まさに洋の東西を問わず、耐性菌による薬剤の効力低下が続いています(表-1)。ではなぜ、次々と耐性菌問題が起こるようになったのでしょうか。

表-1 わが国における薬剤耐性菌の発生事例(主なもののみ示す)

1970年代の始め、マスコミ等によって、連日のように公害問題が大きく取り上げられていました。農薬の安全性に対する社会の関心も高まりを見せていました。このため、それまでのものよりも安全な農薬が求められました。毒性に関して選択性の高い、つまり病原菌を強く抑制してもヒトや家畜にはあまり作用しない、そんな薬剤が開発されて普及するようになったのです。実際、既に述べたポリオキシンもカスガマイシンも、当時「低公害農薬」などと呼ばれ、今日でも使われています。耐性菌の心配がなければ、優れた薬剤です。

でも、皮肉なことに、選択性の高い薬剤には1つの弱点があります。病原菌が生活するためには、細胞の成分を自分で合成したり、あるいは呼吸や細胞分裂をしたりするために、酵素などたくさんの種類のたんぱく質などを作らなければなりません。選択性の高い薬剤の多くは、それらのどれか1つだけを標的とする、いわばピンポイント型の薬剤なのです。一方、病原菌の集団はとても多様性に富んでいます。先程お話したように、僅かではありますが、もともと耐性菌がどこかに潜んでいます。そして、選択的で卓越した効果がある薬剤ほど、普通はこの耐性菌を選び出す性質も強いのです。

最近では以前に比べて新しい薬剤とくに化学農薬の開発は大変難しくなっていますし、これまで使ってきた薬剤に規制がかかって使えなくなることもあります。登録農薬のラインナップは揃っているように見えても、耐性菌で使えないものも多く、施設野菜などでは実際は薬剤が駒不足の状態なのです。

2)栽培現場から見た原因

最近はどこでも、減農薬栽培が求められます。1回の作付けで使用する薬剤の成分数もカウントされます。また、農産物の出荷先によっては、登録農薬であってもその一部の使用を制限することがあります。そこで農家は、より高い効果を期待して、新しく開発されて普及したばかりの薬剤に頼ったりします。多大な経費をかけてようやく上市にこぎ着けた薬剤の販売に、農薬会社が一生懸命になるのも当然でしょう。しかし、それまでの薬剤と作用機構(しくみ)が異なるまったく新しい系統の薬剤の場合、それを使うことにより耐性菌が発達するリスクがどれくらい大きいのか、実用化の初期段階では実はよく分かりません。その薬剤の作用機構自体が不明な場合もあります。

さらに最近は、同じ系統に属する薬剤が次々と開発される傾向があります。一部例外はありますが、それら薬剤の間では通常交さ耐性がみられます。つまり、Aという薬剤に対して耐性菌であれば、同じ系統の薬剤Bにも耐性菌であることが多いのです。ただ、農家の人にとって、薬剤のどれとどれが同じ系統に属するのか、その重要な情報が十分に伝わらないことも珍しくありません。いっそのこと、薬剤の袋に系統ごとに色分けでもしてあればよいのですが、まだ実現していません。

次回は、最近問題になっている耐性菌について、もう少し具体的に見ていきましょう。引続き是非ご覧ください。

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